第44話「真実の羽音」
朝日が昇るとともに、カードはダックキャッスルへと向かっていた。昨日手に入れた入場許可証を握りしめ、正門に立つと、装飾の施された鉄の門が音を立てて開く。門番のダック人間たちは、昨日と同様に無言のまま無機質な動きでカードに道を開けた。
「朝から重苦しい空気だな……」
と小声で呟きながら、カードは城の中へと足を踏み入れる。
荘厳な回廊を抜けると、奥には玉座の間が広がっていた。金と白を基調とした内装はまるで絵本のように美しく、玉座の上には王冠をかぶった白く大柄なダック人間が座っていた。背中には金のマントをまとい、片手には金の杖を握っている。
「ようこそ、我がダックキャッスルへ。我が名はディッド、ダックランドの王だ」
深みのある声でディッドが挨拶すると、カードは短く頭を下げた。
「王様か。手短に聞く。お前のダックランドに、俺の探してる村の住人が来たはずだ。奴らはどこにいる? 」
ディッドは、目を細めて静かに笑った。
「ふむ、村人? ……ああ、それは困ったな。そんな者たちが来たという報告は、我には届いておらんよ」
とぼけるような口調に、カードは目を細めた。視線は鋭く、表情には疑念が浮かんでいる。
「そうか。じゃあ、城の中を探させてもらう」
カードはディッドの返答を待たずに踵を返し、すぐさま探索を開始した。城内の部屋という部屋、倉庫、書斎、厨房、礼拝堂に至るまで全て調べた。さらに地下にある牢獄や貯蔵庫も細かく見て回ったが、そこに村人の姿はなかった。隠し部屋を疑って壁を叩いたり、床を持ち上げたりもしたが、成果はゼロ。
「……おかしい。どこかにいるはずだ」
再び玉座の間へ戻ったカードは、ディッドを睨みつけた。
「全部調べたが、確かに奴らはいなかった。けど、それでも断言できる。村人はこの城の中にいる。間違いない」
「はっはっは……まるで幽霊でも見るかのような言い分だな」
ディッドは声を上げて笑いながら、金の杖を軽く振ると、玉座の両脇にいたダック人間の兵士たちが一斉に前に出た。
「ならば、お引き取り願おうか。客人と言えど、我が城を勝手に荒らされたとなれば話は別だ。連れて行け」
命令と同時に、数体のダック人間兵士がカードへと飛び掛かる。
「やれやれ……やっぱり、そう来るか」
カードはその場に踏みとどまり、兵士たちを次々に薙ぎ倒していく。蹴り一閃、拳一発でダック人間たちは吹き飛び、床に倒れていく。
だがその瞬間、突如背後から強烈な衝撃がカードを襲った。
「……ッ!? 」
「甘いな! 」
ディッドの巨大な足がカードの背に直撃し、そのまま城の壁を突き破って、カードは外の庭園へと吹き飛ばされた。石の彫像をなぎ倒し、芝生に体を転がすと、苦しげに咳をする。
「……ッ、やるじゃねぇか、鳥の王様……」
立ち上がったカードの前に、悠然と歩み寄るディッドが姿を現す。その顔には、不気味な笑みが浮かんでいた。
「さて、そろそろ種明かしといこうか。お前、本当に気付いていなかったのか? 」
「……何のことだ」
「お前はこのダックランドで、既に何度も村人たちに出会っている。観覧車の案内係、ジェットコースターの整備員、ゴーカートの受付、レースに参加した兵士たち……」
「……まさか」
「そうだよ。あれが……お前が探している村人たちなんだ」
ディッドは心底楽しそうに笑う。
「あの方から授けてもらった、我のスキル《ドリームフォーム》は、精神と肉体を同時に変化させることができる。かの者たちの自由意志も記憶も、このダックの仮面の裏に隠してしまったのさ。完璧なエンターテイナーにするためにな! 」
カードの目が鋭くなり、拳が握られる。
「つまり……さっき俺が倒した奴らも……」
「そう。君が返り討ちにしたダック人間たちも、元は村の若者たちだったのさ。くくく……罪の重さ、分かるかな? 」
ディッドの言葉に、カードの表情が一瞬揺らぐ。しかしすぐにいつものような冷徹な目に戻る。
「ふん、罪? 私は謝罪する気はない。責任は、お前にある。何より……そんな手の込んだ悪趣味な遊び、私のセンスには合わない」
「強がりを。だが面白くなってきたな。さあ、どうする? お前の選択で村人たちは救われるか、永遠にダックのまま踊り続けるか……」
沈黙が一瞬、場を包む。
……やがて、カードの口元に皮肉な笑みが浮かぶ。
「だったら……このふざけたダックランドごと、ぶっ壊すとしよう」
次の瞬間、カードの背にセルフファーストのオーラが立ち昇る。その目に迷いはなかった。




