第43話『虹の猛者と夜の笑わぬダックたち』
……ゴールは目前。
最終コーナーを抜け、カードのカートはトップを維持したまま残りわずかな直線へと突入していた。
「勝ったな。これでダックキャッスルの入場許可証は……」
そのときだった。
ヒュウウウン……!
背後から異様な気配が迫る。風がねじれ、空気が輝く。
「……ん?」
カードがミラーを覗いた刹那、まばゆい虹色の光が視界を覆った。
「ヒャハハハハハ!!!」
その中央で不敵に笑うのは……
あの赤帽の中年男。
星型の光がその頭上でギラギラと輝き、カート全体を七色のオーラが包んでいた。
「……あれはまさか、最強アイテム“スタ―”……!」
かつて自分の世界で見たことのある、無敵状態を象徴する禁断の強化アイテム。
文字通り光の弾丸と化した中年男のカートは、他の追随を許さぬ速さでコースを駆け抜ける。
「ウホッ!? 」「カメェッ!! 」
追走していたゴリラと亀人間はその虹の波に巻き込まれ、弾き飛ばされた。
ドガァァァァン!!!
爆音のような衝突音。観客席から悲鳴が上がる。
カードの背中に、迫る殺気と虹色の光が迫っていた。
(まずい、このまま直撃すれば私も……)
ドガァァァァン!!!
カードのカートが吹き飛びクラッシュする。
再びアクセルを踏み追いつこうとするが、エンジンから煙が上がりカートは動かない。
だが、カードは表情一つ変えず、座席を取り外しカートの真ん中に立つ。
そしてカートを、ドーナツ形の浮き輪を持ち上げるように両手で持ち上げ走り出す。
「……行くぞ」
次の瞬間、カードはレースコースから逸れ、観客席の壁面に足を乗せた。
「……走れる、ここも“道”だ」
コース外、壁面の装飾の上をカードが疾走するという異様な光景に、観客は声を失った。
カードは壁を伝ってカーブを描き、虹色の光の真上……つまり中年男の進路をかすめるようにして急旋回。
その直後……
バチンッ!!
星の光が消えた。
「……!? 」
中年男のオーラが一気にしぼみ、カートの速度が急激に落ちる。エンジンが焼き付いたかのように鈍くうなり、勢いを失っていく。
「抜かせてもらうぞ、光の英雄」
カードは地を蹴るように再加速。残るはゴールライン……
そして、
フィニッシュ!!
歓声が天を突いた。
派手な花火と紙吹雪が舞い、場内にファンファーレが鳴り響いた。
「自分の足で、走ってゴールするのは反則だ! 」
中年男と亀人間が審判に抗議しているが
「いかに速く走るかを追求した結果、人とカートが進化した形だ」
とカードは胸を張って言う。
勝者の名はカード
「優勝は……エントリーナンバー4、カード様ぁ!! 」
アナウンスの声に観客が沸く。
カードは優勝者の証である金色の月桂冠を受け取り、表彰台の中央へと立った。
左右にはススけた顔の中年男と、スピン後に立て直したゴリラと亀人間が並んでいたが、誰の目にも栄光の座はカードに他ならなかった。
そして……
「おめでとうございます! こちらが、ダックキャッスルの入場許可証になります! 」
ダック人間の司会進行がカードに銀色の封筒を差し出す。
封には「Royal Duck Castle」と古英文字で印刷されていた。
「……よし、これで堂々と城に入れるわけだ」
カードは静かに頷き、空を見上げた。
日が沈み、空は夕焼けから紫色へと変わっていた。
夜のパレードと、笑わぬ目
ゴーカート場を後にし、カードがダックキャッスルへ向かうと……
道の途中で目を奪われるような賑やかなパレードに遭遇した。
煌びやかな電飾に包まれた乗り物の上では、数十体のダック人間たちが音楽に合わせて踊っている。
カラフルな衣装に身を包み、リズムに合わせて陽気な動きを見せていたが……
カードは、そこに妙な違和感を覚えた。
「……おかしいな」
ダック人間たちは笑っていた。口は広がり、手を振り、体をくねらせていた。
だが……
目が、笑っていなかった。
無表情のまま、乾いた瞳。
どの個体もまるで「助けて」とでも言いたげな表情を、ほんのわずかに滲ませているようにカードには見えた。
(気のせいか……? いや……)
パレードはどんどん進み、音楽が遠ざかっていく。
夜の始まりにしては妙に無機質で、芝居がかった明るさだった。
「……何かがあるな、このダックランドには」
だが、今は時間がない。
閉ざされたダックキャッスル
やがてカードは、ダックキャッスルの正門にたどり着いた。
西欧風の荘厳な石造りの城、月明かりに照らされてそのシルエットは美しく幻想的だった。
だが……
「本日の開館は終了いたしました」
正門には、ダック文字で書かれた閉館のお知らせが掲げられていた。
その下には、「入場可能時間:午前9時~午後6時」と明記されていた。
「……仕方ない。今日はここまで、か」
カードはその場を静かに離れた。
パレードの余韻が響く中、どこか冷たい風が吹き抜けた。
明日……この城で何が待つのか。
カードの足取りは静かだが、目だけは決して笑っていなかった。




