第39話『夢の王国の秘密』
ダックランドの中心……
観覧車やアトラクションの奥、整備された石畳の道を進んだその先に、西洋風の巨大な城が聳え立っていた。
純白の壁面に金と青のアクセント。尖塔の先には太陽の光を反射する金の風見鶏。まるで童話から抜け出したかのような美しい外観。
しかし……
その麗しき城門の前には、明らかな“異物”が立ちはだかっていた。
門番ダック人間
二体のダック人間が、門の両脇に立っていた。
全長2.5メートル、金属製の槍を両手に持ち、表情一つ変えずに直立している。
「入場許可証をお持ちですか? 」
無感情な声が響いた。カードはブリーフケースを軽く持ち直して尋ね返す。
「許可証がなければ、入れないのか? 」
「その通りです。入場許可証がない方の入場はお断りしております」
「私が誰か、分かっていないようだな? 」
「申し訳ありません、どなたであろうと規則です」
カードは一歩前へ出た。鋭い眼差しで門番のダック人間を睨みつける。
……が、すぐに足を止めた。
(……無理やり入ることはできる。だが、もしこの城の中に町の若者たちが監禁されていたら? )
彼の思考は冷徹だったが、無謀ではない。
強行突破は、情報を得てからでも遅くない。
カードはあえて引き下がった。
「……無粋な門番だ。だが、ルールに従ってやろう」
そして城を背にして踵を返す。
ゴーカート場にて
ダックランドを歩いていると、エンジン音が耳に入ってきた。
明るく開けた一角、看板にはポップな文字でこう記されている。
『スーパーダックカートグランプリ開催中! 』
『優勝者にはダックキャッスルの入場許可証を進呈! 』
ゴーカート場には観客が集まり、レースの実況がスピーカーから流れていた。
コースは複雑で、ループやジャンプ台、回転ゾーンまである。
そして何より目を引くのは――参加しているのが、人間とダック人間の混成レースであること。
「なるほど……ここで勝てば、正面から城に入れるわけか」
カードはにやりと口元を吊り上げた。
目指すべきルートが見えた以上、選択の余地はない。
エントリー受付
受付の小屋には、制服姿のダック人間が座っていた。
丸眼鏡をかけ、書類を整理している。
「レースに参加したい。エントリーを頼む」
「はぁい〜♪ 新規参加者ですねぇ? えーっと……」
ダック人間は書類に目を通しながら、ちらりとカードを見た。
「……参加は歓迎ですが、注意事項がございます」
「ふむ? 」
「このレース……簡単には勝てません。
特に1位になるのは、ほぼ無理と言われております」
「それはなぜだ? 」
「他の参加者は皆、この道のプロばかり。危険なアクシデントもございます。
転倒、クラッシュ、爆発的加速装置の暴走、コース外転落など……」
「ほう。命の保証は? 」
「ありません♪ 自己責任でお願いいたします」
カードは肩をすくめ、余裕の笑みを浮かべる。
「危険がなければ、面白くもない。構わん、参加させてもらおう」
ダック人間は小さくうなずき、エントリーシートをカードに渡す。
「エントリー名をお願いします」
「私……カードと記しておけ」
「了解です、カード様。レースは30分後に開始されます。準備の方をお願いいたします」
背後でささやく声
受付を離れたカードの背中で、別のダック人間が、こっそり呟く。
「……また、新入りか……」
「無理だよ、あの男も。あの連中に勝てるわけない」
カードは耳ざとくその会話を聞き取っていたが、あえて振り向かず、軽く鼻で笑った。
(勝てるわけがないか。どこの世界でも、凡人はそう言う)
レース開始を告げるサイレンが鳴り響く。
カードの本気が、今、ダックランドのコースに解き放たれる。




