第38話『夢の国ダックランドへようこそ』
青空の下、一本道を進む黒い影……
スーツ姿に赤のネクタイ、旅人には不釣り合いな重厚なブリーフケースを抱え、カードは目的地へと歩みを進めていた。
目の前に、異質な巨大ゲートが現れる。
ダックランドの入り口
高さ10メートルはあろうかという鉄製のゲート。その中央には大きな看板が掲げられていた。
『夢の国 ダックランド 〜どんな夢も、ここで叶う〜』
その両脇には異様な存在感を放つ像が立っていた。
……身長3メートル、ふくよかな体格に丸いお腹。
青いベレー帽をちょこんとかぶり、真っ白な羽毛に包まれたそれは……
ダック人間の像だった。
ニヤリと笑った嘴がなぜか、見ている者の背筋を冷たくする。
「……良くできたオブジェだな。悪趣味だが、目立つ」
カードは町長から渡された入場チケットを取り出し、ゲートへと近づいた。
すると……本物のダック人間が、すうっと無音で現れる。
高さは2メートル、真っ白な羽毛、制服のような服、異常に大きな黒い目。
「チケット……お願いしまぁす」
その声は、明るく陽気。だがどこか、感情の温度がない。
カードは一瞬、「よくできた着ぐるみだな」と思った。
チケットを渡すと、ダック人間は機械的にスキャンを行い、「ようこそダックランドへ〜♪ 」と歌うように言ってからゲートを開いた。
入場……テーマパークの光景
門をくぐると、そこはまさに夢の国だった。
左にはポップな色彩の建物が並び、右にはお菓子を模した店、前方には大きな観覧車が空へと伸びている。さらにその向こうには、豪華な西洋風の城がそびえていた。
ジェットコースターやメリーゴーラウンドもあり、音楽が常に流れている。あちこちから子供の笑い声が聞こえ、売店ではカラフルな綿菓子やポップコーンが販売されていた。
「……なるほど。確かに夢の国らしい見かけだ」
周囲を見回すと、地方から観光に来たらしき家族連れ、カップル、小さな子供たちが笑顔ではしゃいでいた。
しかし……
町の若者たちの姿は、どこにも見えなかった。
高所から観察へ
「まずは全体を見渡そうか」
カードは観覧車に向かって歩く。
途中で出会う従業員はすべてダック人間。
どれも似たような顔、同じ笑顔、同じ声色。
観覧車の前にもまた、ダック人間が立っていた。
「ようこそ〜♪ ふたり分ですねぇ〜? 」
「いや、ひとりだ」
「ひとりでも楽しいですよぉ〜♪ 」
カードは無言で乗り込んだ。観覧車のゴンドラが上昇していく。景色がゆっくりと広がっていく。
上空から見たダックランドは、確かに“平和な遊園地”にしか見えなかった。
建物の構造も、裏口や倉庫も確認できたが、怪しい場所は見当たらない。
「……見えない場所に何かあるか。それとも……見せていないだけか? 」
ゴンドラが頂上に達し、ゆっくりと下降し始める。
カードは思案を続けながら、再び地上へ降り立った。
ジェットコースター体験
「次は、体験者目線だな」
カードは最も人気のアトラクション、巨大ジェットコースターへ向かった。
ここでもダック人間が元気に案内している。
「はーい! そこの方、ひとりですかぁ〜? 乗るなら今がチャンスですよぉ! 」
乗車し、シートベルトを締める。
ガタン、とチェーンが動き出す。
観覧車からは見えなかった、ジェットコースターの裏側が少しだけ見えた。
……そこに、瞬間的に何か人影のようなものがあった気がした。
だが気のせいだったのか、すぐに景色が流れてしまった。
「……ふむ」
ジェットコースターは単純に楽しかった。加速、落下、急旋回、スリル満点。悲鳴と笑い声が交錯する中、カードは静かに観察を続けていた。
異常はない……が
一通り乗り終えたあと、カードはふたたび園内を歩く。
見た目は……完璧に正常なテーマパーク。
従業員は全員ダック人間。
客層は、どこかの町から来た普通の観光客。
だが、カードの中には確実に芽生えつつある“違和感”があった。
「町の若者たちはここへ来て、帰ってこない……なのに、その姿が一人も見えないのは、なぜだ? 」
どこかに見えない領域がある。
見せたくない、あるいは“見えてはいけない”ものが。
カードの目は細くなった。
「夢を見せるには、まず現実を隠すか……」
カードは、次に西洋風の城へ向かうことを決意する。
「夢の国の中心……王国の城だ。何かあるなら、あそこだろう」
微笑みの消えた目で、カードは夢の国の奥へと歩き出した。




