第35話『セルフファーストの勝利』
荒れた闘技場の上、勝者……カードは悠然と立っていた。
その周囲には、勝利の余韻に浸るスラムの住民たち。子どもから老人まで、昨夜の劇的な戦いを目撃した者たちが、次々と集まっていた。
「カードさん!勝利おめでとうございます!」
「アンタが希望そのものだよ……! 」
「ありがとう、俺たちの人生を変えてくれて! 」
歓声、拍手、涙。それはまるで、英雄の帰還を祝うような光景だった。
しかし……
ジャラ……と音を立てて、煌びやかな装飾の服を着た数人の男たちが現れた。
ラベラルに全財産を賭け、今や絶望の縁に立たされている上流階級の金持ちたちである。
「カード殿……いや、カジノの新たな所有者殿! 」
一人の男が、にじり寄ってくる。
「先ほどの賭け……なかったことにできないか? 我々には家族が……会社が……! 」
別の男も続ける。
「おぬしが勝つとは誰も予想していなかったのだ! あれは事故だ、誤解だ! 取り消してくれ! 」
カードはその言葉を黙って聞き、ゆっくりと口を開いた。
「……私に賭けたか? 」
「え? そ、それは……」
「私を信じたか? 」
「……い、いや……だが……」
「ならば、その程度のセルフファーストなど、聞く価値もないな」
カードは踵を返し、スラムの住民たちに向き直る。
「さあ、行こう。換金の時間だ」
カードの一言に、スラムの人々の目が輝いた。
……そう、彼らは事前にカードから「分け与えた金で、私に賭けろ」と指示されていたのだ。
当時は「何を言っているんだ? 」と困惑した者もいたが、信じて賭けた結果、数十倍の配当金となって返ってきた。
地下闘技場から移動し、カジノの高級換金所へと向かう人々の列。
金を受け取り、驚きと喜びの声があがる。
「……し、信じられない……これ、俺の年収の何倍だ!? 」
「母さんの手術代が……これで払える! 」
「借金、全部返しても、まだ残るなんて! 」
カードは皆の中心に立ち、言った。
「まず、借金のある者は返済を最優先としろ。返せば、お前たちは自由になる。誰にも頭を下げる必要がなくなる」
住民たちは涙を浮かべて頷いた。
カードはさらに続ける。
「そして……残った金は、自分のために使え。セルフファーストだ。自分を幸せにするための努力を怠るな。そうすれば、無理せずとも自然と人に優しくできる」
老人が感動のあまり手を合わせる。
「カード様……私たちを見捨てず、信じてくれて……本当にありがとう……! 」
「私はただ、支持してくれた者に報いるだけだ。それは当然のことだ」
そう言ってカードは、ふと目線を上げた。
……そこに見えるのは、かつて地獄のような場所だった地下闘技場。
鉄と血の匂いに満ち、命が紙くずのように扱われたその空間は、もう存在する意味を失っていた。
カードは静かに宣言した。
「地下闘技場は、今日で閉鎖する。二度とここで人が殺し合うことはない」
ざわめきが起きる。
だがすぐに、拍手がそれを上回るように鳴り響いた。
カードは続ける。
「そして、カジノも再建する。もう負けるための罠は敷かない。公正なルールで、誰もが楽しめる場とする。セルフファーストを楽しめる空間に変えてやる」
こうして、カードは“闘いの勝者”としてだけではなく、
新たな秩序を築く者としてスラムに君臨した。
……貧困の果てに見つけた、たった一つの希望。
人々の胸には、その名が深く刻まれていた。
カード。
セルフファーストの申し子。
そして、スラムの改革者。




