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皮剥の




 「ひとまず、ゴブリンの結晶から見ていくか」

 エイラさんはそう言うと、俺の持ってきた結晶のひとつを水晶にかざした。



 《種族》 ゴブリン

 《生息地》 ミネーロの森林

 《レベル》 7

 《結晶ランク》 F


 

 「これは、前回持ってきたものとそれほど変わりないな」

 「そうですね……」

 

 エイラさんはそれから、立て続けにすべての結晶を水晶にかざしていった。

 ゴブリンの結晶は7つあるうち、Fランクが4つ。Eランクがひとつ。Dランクがひとつだった。


 「じゃあ続いて、ウルフの結晶も見ていくか」


 ウルフの結晶は全部で18個ある。そのうちFランクが11個。Eランクが6個。ひとつだけCランクのものが混ざっていた。


 「これだけCランクだ。しかも、色も特殊だな……」

 とエイラさんが呟く。

 「見せて下さい」

 エイラさんの手元を覗き込むと、それはひとつだけ特殊な色をしたウルフの結晶だった。

 「ああ、それ、気になっていたんですよ。なぜかその結晶だけ色が違うんですよね」

 「うん。水晶に出てくる表記も、少し違うよ」

 「え、そうなんですか……」 

 そう言って水晶を覗き込むと、普通の表記の続きにこんなことが書いてあった。


 

 《取得スキル》 フレア


 

 「取得スキル、フレア……? なんですか、これ」

 「うーん、普通に考えれば、これを喰えばフレアが覚えられるんだろうな」

 「そんなこと、あるんですか……? 」

 「普通は、ない。だけど、結晶についてはわからないことが多いからな……」

 「マトイはどう思う? 」

 「結晶でスキルが得られる……。すごい、そんなこと、出来るんだ……」

マトイは興味深そうに水晶を覗きこんでいた。


 

 この世界では「適正職」というのは、生涯変えられない。

 「剣豪」であれば一生剣士としてやっていくしかないし、大魔道士であっても、それは変わらない。

 剣士から魔道士に移行することは出来ないし、無理やりそうしようと思っても、別の職業のスキルが覚えられないのだ。つまり、剣士は魔術を覚えることが出来ない。それは逆も同じことが言える。

 俺自身も「修理士」が職業だから、剣士の固有スキルも、魔術も、本来は覚えることが出来ないのだ。

 (だけど、この結晶を喰えばフレアが覚えられるのか……? )

 (それって、適正職じゃないスキルをほかにも覚えれるってこと、なのか……? )


 「すごいことだぞ、これは……」

 とエイラさんが呟く。

 「です、よね……」と俺。

 「……うん、大発見、かもしれない……」とマトイ。


 そのとき、エイラさんが生唾を飲む音が聞こえた。

 「……もしかして、エイラさん、これを誰かに売ろうと思ってません? 」

 そう聞くと、エイラさんがぎくりとした。

 「いや、違う、そうじゃなくて」

 としどろもどろになっている。

 「……いや、すまん。一瞬、頭のなかにその考えがよぎった」

 と、素直に認めてくれた。

 それから顔を上げて言った。

 「だけどピギー。このことは誰にも言わないほうが良い。このことが見つかったら、強引に欲しがるやつも出てくるだろうからな」

 「そうか……」


 (確かにこのことはひとに言わないほうが良いな……)

 (結晶を奪おうと近づいてくる盗賊も出てくるかもしれないし……)

 (幸い、マトイもエイラさんも信用できそうだから良かったが……)



 「確かにそうですね。じゃあこの話は、三人の秘密ということで……」

 「……うん、そうする」とマトイ。

 そう言って、三人で静かに頷いた。

 

 


 「じゃあ最後に、大蜘蛛の結晶だな」

 そう言って、エイラさんが大蜘蛛の結晶を水晶にかざした。



 《種族》 大蜘蛛

 《生息地》 ミネーロの洞窟

 《レベル》 12

 《結晶ランク》 C


 

 「おお、これもCランクだ」

 とエイラさん。


 この表記に続いて、水晶にはこんなことが書いてあった。



 《ボーナス》筋力上昇値アップ



 「……ボーナス」

 「そう書いてありますね」

 「……つまり、これを喰えば、もっと筋力値が、あがるってこと? 」

 とマトイが呟く。

 「どうやらそうらしいな」とエイラさん。

 それから続けてこう言った。

 「ふーむ。結晶というのは実に興味深いな。長い間武器屋や他国と貿易をしているが、こんな面白いものは見たこと無いよ」

 「私も大学でいろんな研究したけど、こんなの、全然知らない」とマトイ。

 「こんなの、おかしいぞ」

 とエイラさんがからかうように言ってきた。

 「うん、おかしい、おかしい」

 とマトイも無表情ながらふざけた声で言ってくる。

 「そ、そんなこと言われても、俺はなんにも知らないよ……」

 そう言って狼狽していると、

 「……ぷっ、あはは、そんなに慌てなくても良いのに」 

 と珍しくマトイが声を出して笑った。 

 「そ、そんなに笑わなくても良いだろ。俺も、いろいろわからないことだらけなんだから……」

 そう言うが、そのあともふたりは可笑しそうに笑っていた。




 それから、結晶をバッグにしまい、エイラさんの店で日用品を買い足した。

 薬草をいくつかと、着替え、もう少し大きめのバッグと、クレイモアを背負う鞘も購入した。

 エイラさんはかなりおまけしてくれて、全部で銀貨6枚で売ってくれた。

 「良いんですか? 」

 と聞くと、

 「良いよ。俺もピギーにはかなり儲けさせて貰ってるから」

 と悪巧みするような笑みでウィンクした。

 「じゃあ、お言葉に甘えて……」

 と店を出ようとすると、


 「そうそう、“皮剥のピギー”」

 と呼び止められた。


 「ん?……俺、ですか? 皮剥の、ピギー……? 」

 「そうだよ。そう呼ばれているのを知らなかったのか? 最近、冒険者の間で、軽く話題になってるぞ。魔物を退治して綺麗に皮を剥ぐ冒険者がいるって」

 「そうですか……」


 (知らなかった……。いつの間にかそんなことを言われているのか……)

 (だけど、“皮剥のピギー”か……。うーん、嬉しいような、若干悪口を言われているような、複雑な気分だな……)

 

 「そう嫌な顔するなよ。二つ名が付き始めるっていうのは良い兆候だよ。冒険者たちがピギーに注目し始めているっていうことなんだから」

 「そういう、ものですかね……」

 「そうさ。それよりピギー、ギルドでクエストは受注しているか? 」

 「ギルド……いや、そもそも、所属していません……」

 エイラさんは不思議そうに首を捻った。

 「なぜしないんだ……? 」

 

 俺はエイラさんにことのあらましを話した。

 なぜ自分が死体から武器を漁っていたか、そして過去にクラスメイトたちにいやがらせを受け、ギルドに所属できなかった事情についても。

 「……ふざけた野郎どもだ……」

 不愉快なものを見たというように、エイラさんが首を振る。

 「エルフだけじゃないな、腐ったやつがいるのは」

 「うん、まあ、俺はもう気にしてないですよ」

 「じゃあ、未だにギルドには所属していないのか? 」

 

 「ええ。そのときに断られて、そのままですね」

 「そうか。……じゃあこの街にはもうひとつギルドがあるっていうのは、まだ知らないんだな? 」

 「え、もうひとつ、ですか? 」

 「わかった」

 とエイラさんが手を叩いて言った。

 「ピギー、お願いがあるから、時間があるときにまたこの店に来てくれ」

 そう言うと、エイラさんは自分の作業に戻ってしまった。


 

 (お願い……? また、お願いか……)

 (でも、前回もエイラさんの頼みを聞いて事態は好転したから、悪い頼みじゃないだろうけど……)

 (でも、なんの頼みだろう……)


 「じゃあ、これで、失礼します」

 「はいよ」

 と言って、エイラさんは振り向かずに手を振っていた。



 俺たちはそのまま宿泊していた安宿を引き払い、荷物を持って街の東にある旅行者用の中級の宿に移った。

 安宿は銀貨一枚で泊まれるが、こっちは一晩で銀貨3枚掛かる。

 だが、部屋の広さもベッドの柔らかさも格段に違う。満足度も全然違う。

 「……ピギー。ここのベッド、柔らかい」

 とマトイが布団のなかで嬉しそうに言った。

 「ああ。やっぱり、全然違うな」

 そう笑いかけると、マトイは目を細めて頷いた。

 

 目を瞑ると、穏やかな満足感がこみ上げてきた。

 それはやっと人並みの生活を手に入れたと実感出来たことから生じる、安らかな満足感だった。


 


 現在のステータス



 愛称:皮剥のピギー

 種族:人間

 同伴者:マトイ(忌み子)

 所持金:金貨3枚、銀貨52枚

 所持品:クレイモア、ブロードソード、バタフライナイフ、

     ハングリーウルフの結晶18個

     ゴブリンの結晶7個

     大蜘蛛の結晶1個







これで一章は終わりです!


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