卒業式
セーラー服のスカーフと、学生服の第2ボタンを交換したカップルは、長続きするんだって。
野暮ったいセーラー服。夏も冬も同じ白に紺色の襟に白のライン。スカーフの色は落ち着いたワインレッド。プリーツスカートは、上の白とは反対に紺色。膝下まであるから、夏服は素材が薄くなっても暑苦しい。
他の中学校は、全部ブレザーにプリーツスカートか、ブレザーにボックススカートで可愛いのに。ある学校は、同じ紺色のスカートでも膝上で可愛く見えるし。ある学校は、グレー生地に赤が少し入ったストライプのプリーツスカートだし。
なんで、セーラー服なんだろう?
でも、そんな野暮ったいセーラー服とももうすぐお別れ。推薦で決まった高校は、憧れのブレザー。紺色に金色のエンブレム。赤いリボンタイに白いブラウス。ブラウスの袖には刺繍がある。スカートはグレーと黒のタータンチェック。
楽しみ。
「あゆ。あゆ。あゆってば!」
もうすぐお別れだ。なんて思ったら、ちょっと感傷的になっていたのか、親友の呼び掛けに気付かなかった。
「ゆりこ。何?」
「あゆさぁ、ちょっと付き合ってくれない?」
「どこに」
放課後。部活はとっくに引退している私達は、進路相談でもない限り、とっとと帰るしかないのに。ゆりこは、視線をあちこちにさまよわせる。
ナルホド。
「とうとう、告白する気になったか」
ゆりこがギョッとした。
「な、ななななんで!?」
そんなにどもっていて聞き返したら、白状をしているのと一緒なんだけど。
「ゆりこが、はっきり用件を言わない場合、大概中沢君が関係しているから」
はっきり、ゆりこの好きな人の名前を出すと、ゆりこは顔を真っ赤にした。
「もうすぐ、卒業だし、さ。決着をつけたいじゃない?」
ゆりこが随分と真面目な表情で、そして恋する女の顔で言った。
「それはいいけどさ。良いわけ? 今、告白して。まだバレンタインデーには早いし、卒業式は尚、早いよ?」
私の突っ込みにゆりこが黙った。彼女の性格上、イベントの力を借りて告白をする、と思っていたのだけど。
「確かにそう、なんだけど。卒業式までには告白をしておきたいじゃない? 例の言い伝えがあるから」
「言い伝えって、あれ? ボタンとスカーフを交換する、とかなんとか」
私は好きな相手も、そんな本当かどうかも解らない言い伝えにも興味が無いので、うろ覚えの事を口にした。試した人がいて、実際に長続きをしているのかも判らないし、そもそも長続きとは、どれくらいの期間を言うのか? と疑問だ。
「そう、それよ! あゆは好きな人がいないから、イマイチかもしれないけど。やっぱり、試してみたいじゃない? だから、卒業式までに……と思ったんだけど。バレンタインデーが有ったわよね。……うん、バレンタインデーまで待つ!」
そう言ったと思ったら、じゃあ帰ろっか。なんて現金な事を言い出した。そういうゆりこの身勝手さが、憎めないというか、なんというか。苦笑をして帰り支度を始めた。
「それにしても、あゆは、本当に好きな人を作らなかったよね」
帰りながら、ゆりこがシミジミと言う。作らなかったというより好きな人の感覚が最近、ご無沙汰だ。
「一応、去年は、先輩が好きだったから、作らなかったわけじゃないわよ」
私の反論に、解ってる、と言いたそうにゆりこは頷いた。
「でも結局、先輩に告白をする事も無かったし、先輩も彼女いたし。それから先の1年、好きな人無しだったじゃない?」
「それは、そういう感情になれる相手がいなかっただけ。作らなかったわけじゃないわ。……あんまりあれこれ言ってると、バレンタインデーの告白に付き合ってやらないわよ?」
言いたい放題になりかけそうなゆりこに釘を差すと、それ以上、ゆりこは何も言わなかった。
……その後。バレンタインデーで、ゆりこが中沢君に告白をする時に、中沢君から見えない位置で私はゆりこを応援した。結果は……悲しむゆりこを慰める役。
こういう時、なんて声をかければいいのか、本当に迷う。月並みだけど、時が解決をしてくれるのを待つしかないから。自分はどうしたんだっけ? なんて考えながら、慰めた。
ホワイトデーでもある今日。私は卒業式を迎えた。ちょっとだけ涙ぐんで、大きく笑って。ゆりこと2人で見納めになる校舎をゆっくりと見回った。
「あの、伊沢あゆさん」
呼び掛けられて振り返ると、見た事が無い男の子。首を捻った私は、ゆりこを見た。知ってる? と目で問いかけると、ゆりこも首を振る。3年生だけでも、男女合わせて200人を超すけれど、3年間で見た事は有りそうなのだが。
「俺、2年の市川って言います! ちょっといいですか?」
後輩だと確かに判らないかもしれない。ゆりこがニヤニヤと笑いながら、さっさと離れてしまった。後で根掘り葉掘り訊かれるのは、目に見えている。
「憧れていました! お願いします。スカーフを下さい」
2人っきりになるなり、そう言われた。
コレ? と指す。彼は首を上から下へ。スカーフを手に取って外す。記念に、ということだろう。なんて簡単に思った。渡そうとして、不意にゆりこの言葉を思い出した。
あの、言い伝え。
手を伸ばして受け取ろうとした彼に、私は頭を下げた。
「ごめんなさい。もし、記念ならあげた。でも、言い伝えのつもりが有るなら、あげられないわ」
市川君は、ショボくれた顔をして去って行った。やっぱり、そういうつもりだったのか。気付いて良かった。
ため息をついて、スカーフを結び直そうとした時だった。背後からドスンとぶつかられて、前のめりになる。幸い、ちょっとよろめいた時点で、ぶつかってきた誰かが背後から抱き止めてくれたらしい。
「悪い! 急いでて。……なんだ伊沢か。こんなとこで突っ立ってると危ないぞ」
頭1個分高い彼は、同じクラスだった高梨君。じゃあ、と行こうとした彼は、だけど、私の悲鳴に動けなかった。……彼のボタンに私の髪の毛が絡まってしまっていた。ちょうど、第2ボタン。
「あ! 悪い! どうするかな」
急ぐ彼は、ほどく時間がもどかしいらしい。ブチッと髪の毛に気をつけて、第2ボタンを引っ張って取ってくれた。
「あ、ボタン……」
「要らねぇ。やる。もう着ねぇし」
駆け出そうとした彼の右手の甲がうっすら血で滲んでいた。どこかで擦りむいたのか、私を助けた時か。
「血が」
「あ? これくらい大したことねぇよ」
そう言った高梨君だったけど、包帯のつもりで私のスカーフを手に巻いた。高梨君は、ありがとう、と笑った。その後私はゆりこと中学校を出た。
あれ以来、高梨君との出来事をすっかり忘れて、高校生活を満喫した私は、大学で、高梨君とまさかの再会を果たした。
その瞬間に、言い伝えを思い出した私は、ちょっと信じてみる気になった。再会してから半年後。高梨君と付き合うことになったから余計かもしれない。
お題は「セーラー服」でした。
青春だねぇ。若いっていいねぇ。書きながらオバさん思考でそう思ってました。




