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日常

 「私のことを愛しているって言ってたくせに、この女と会っているってどういうことなの!?」


 「誤解だ! ただの友人じゃないか!」


 「友人!? よくもぬけぬけと言ってくれたわね!」


 そこまで見て、私はテレビを消した。暇で仕方がないので、昼間やっているメロドラマを見てみたのだが、たいして面白いと思わない。


 男女の関係って、似たり寄ったりなんだな。つくづく思う。そこへ行くと、私の両親は……


 全く違う。


 何しろ、浮気のうの字も見当たらない2人。仲良しというのとはちょっと違う。共通の趣味があるから、浮気なんて無い。当然、ああいう事態になんてならない。


 現在、テスト期間中の私は午前中の試験が終わって、昼食後の一休み中。もう少ししたら、勉強をしなくてはならない。


 歴史の勉強をしていると、ガチャン。という音が階下から聞こえて来た。時刻は、夕方になっている。母がパートから帰宅したのだろう。夜になれば父が帰って来る。


 となれば。


 娘の私が試験中だろうと、関係なく、アレが始まるに違いない。


 私はヘッドホンを机の上に引き寄せた。夕飯が終わったら、さっさとお風呂に入って、アレに備えてプレーヤーの準備をしなくちゃいけない。


 今日の備えは、モーツァルトのアイネクライネナハトムジークにしようか、ベートーベンの月光にしようか、いやいや、ショパンがいいか。リストがいいか。


 クラシックじゃないと、私の心に平穏をもたらして、なおかつ、勉強に集中なんて出来やしない。本当は、ポップスがいいんだけど。


 「ただいま」


 お夕飯よ! と、母が呼びに来たので、ダイニング兼居間でご飯を食べようと席に着いた時、父が帰宅をした。


 声で機嫌が判る。


 今日は何故か、母だけじゃなく、父もトーンが低い。怒っているのか、落ち込んでいるのか、悲しいのか。どれに当てはまるのか、は不明だけど。


 機嫌が良くないことだけは明白だ。


 ……今日は、ちょっと大きめにボリュームをセットして音楽を聞かないと、ヘッドホンの意味をなさないかもしれない。


 ゴクリと自分の唾を飲み込む音がわかる。私は、テスト期間中なのに……と、両親の機嫌を損ねた原因を恨みたくなった。


 ついでに近所迷惑にならないことを祈っておくしかない。







 「アーユーレディ!」


 「イエーイ!」


 お風呂から出た直後だというのに、既に始まってしまった!






 見たくないけれど、一瞬だけ好奇心が勝ってしまって、居間を覗いてしまう。


 ……今夜のコスプレは、メイド服かっ!


 見なかったことにして、一気に階段を駆け上がり、自分の部屋に飛び込む。ヘッドホンをセットして、クラシックをかけた。


 見てしまったことで、勉強には手がつかない。少し落ち着いて、精神を回復しないとダメそう。


 すーはー。すーはー。


 大きく深呼吸をして、曲に意識を向けようとする。……が。


 微かに音が漏れてきている。マズイ。このままでは、勉強なんか間違いなく出来ない。……とりあえず、両親にはテスト期間中。という魔法の呪文をふりかざしておいたから、少しは効果があるに違いない。


 ……と、思う。


 実は、私の母は往年のアイドルだった。


 ……と言っても、ものすごい売れていて、テレビに引っ張りだこというわけじゃなかった。


 ただ、今で言う地元密着型アイドルの先駆け的存在で、地元ではわりと有名なアイドル。


 で。父は、と言えば。


 その母の追っかけ。その頃の言葉で言うと、親衛隊とやらのメンバーで、リーダー的存在だったそうだ。


 アイドルの恋愛は、今も昔も禁止のようで、母もアイドル時代、恋愛禁止と言われていたが。結局、地元でちょっと名前と顔が知られただけの母は、デビューから数年で引退。


 リーダーだった父と恋に落ちて、結婚をした。やがて産まれた1人娘が私なのだ。それは、まぁ、地元ではちょっとしたニュースになったらしい。


 まぁそんなわけで結婚をした2人。それはどうでもいいことだけど。


 両親は、不機嫌になると、気持ちの憂さ晴らし。つまりストレス解消に、当時のことを思い出す、という傍迷惑極まりないことをやらかしてくれる。


 つまり、思い出すなら完璧に。ということで。母は自分の持ち歌をコスプレしながら歌うのだ。コスプレだ、なんて、いい年を迎えた中年のオバサンがやることじゃない。


 もっとやることじゃないのは、大音量でアイドルの歌を歌うことじゃないような気がする。しかも娘を巻き込むなんて、とても泣きたくなる。


 私は、両親に巻き込まれて、手拍子を打ったり、掛け声をかけたりする。いわゆる賑やかしだ。全くもって不本意極まりない。


 母の歌を知らない私が、適当な手拍子を打とうものなら、父から大目玉を喰らう。テストの点数が悪くて大目玉を喰らうならともかく。


 なんで、自分の母親の持ち歌を知らなくて大目玉を喰らう必要がある、というのか意味が解らない。ちょっと前は、テスト期間中さえ巻き込まれそうになったので、テスト期間中は勉強に専念したい、と言って以来、巻き込まれなくなった。


 勉強に専念をすれば、母のライブ活動から逃れられる。


 これを覚えて以降、勉強は免罪符となり、おかげで成績が落ちることも無くなった。


 そういう意味では、かなり役に立っているけれど。問題がある。


 近所迷惑にならなければいい、という問題が。


 幸いにも、地元密着型アイドルの名前は伊達じゃなくて。母は、近所でもアイドル時代を知られていて、人気者。だから、我が家で行われていることに、皆さん寛大だ。


 それが、いつまで続くか不明だけど。


 とりあえず、アレ……母の持ち歌ライブショー。観客は父だけ……の被害者は、私だけ。


 勉強に集中をするために、ヘッドホンで心を癒して集中力をアップしてくれるクラシックを聞くことに集中するのが、私の日課だ。


 悲しいかな。ポップスだと私自身が音楽に夢中になってしまって、ミイラ取りがミイラになる。勉強に集中出来なくなってしまうのだった。


 それにしても、これはいつまで続くのか、知りたいような知りたくないような気がする。







 とりあえず、これが両親の日常であり、仲良しというわけじゃないけれど。共通の趣味があって、どちらもそれが大切な以上、ウチではメロドラマのような感情に支配されたドロドロの人間関係には、ならないことだけは、確定だ。


 今日もある意味、我が家は平穏。







これを書いていた当時思いました。こんな両親がいたら嫌だな、と。←


お題は「メロドラマ」でした。

お題と乖離しまくる内容……。

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