表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/17

最終話

やっとこさ終了です

 ガラガラッ! 轟音とともに、細かいコンクリートのかけらが舞い上がる。周囲の状況をはっきりとは確認できないが、そろそろ完全に崩れるのか?


「クロウ君、早く逃げろ!」


「お前はどうすんだよ!?」


「この滑車の鉄骨でしばらくは持つ!」


 ギギギギッ。む、嫌な音が。


「きしんでんじゃねえかよ!」


「ぬぅあーっはっは! バレた」


「明るく言うな!」


「マイナス思考は私らしくないと言われたから明るくしたのに!」


 本当なら泣きたい!


 地震のような地響き。もはや最後かと思ったその時。私の足が突然何者かに引っ張られた。


 宙吊りになりながら私が目にした光景は。ハサミで切ったのか切断面がつぶれた鉄骨数本と、世界一美しい女性だった。


「――リカ、戻ってきたのか」


「こんなところに閉じ込められるなんて、ドジにもほどがあるちょき」


「リカこそ、怪我でもしたらどうするつもりだったんだ」


「私が居ないと何もできないのに何言ってるちょき」


「……なんだか聞き覚えのあるセリフだな」


「どのような状況でも使える行動様式を持っておくということは、それだけそれが完成されているという事ちょきっ」


 リカはいたずらっぽく笑った。……うまいことを言うようになったな。


 ところで。


「そろそろおろしてくれないか? 私の天才的な頭脳に血が上って今にも脳内出血を起こしそうなのだが」


「あっ、ごめんちょきっ」


 どさっ。


 先ほどからずっと逆さ吊りの体制だったのだ。そしてリカ。おろすならもっと優しくおろしてくれないか。顔面を強打したんだが。


 あー、工場は全壊してしまったな。何と説明すればいいのやら。とりあえず私は何も悪くないぞ。


「クロウくーん、クロウくーん! 無事?」


 噂をすれば元凶アルカナガールの声が……、いや、服装がワンピースから元の制服に戻っているから東宮美結ちゃんと呼んだほうがいいか。


「逃げたはずなのにいないから心配してるんじゃないのか? 工場もこんな状況だし。あっちに行ったほうがいいかもな」


「そーだな。じゃ、いろいろとありがとな、博士!」


 早足で去っていくクロウ君の背中を私とリカは見送る。


「おーい、ここ、ここ」


「大丈夫だったの?」


「ちょっとドジ踏んで脱出に戸惑っちまった」


「――あ、あなたのことはアルカナガールから聞いたのよ。私は一回逃げて、戻ってきただけだから」


「……」


 あくまで正体は隠したいらしいな、東宮美結ちゃん。


「ところで、クロウ君って本当に脱走したの? 蛇柳蝮之助とちょっと親しそうに話してたけど、じゃない、って、アルカナガールから聞いたけど」


「えっ、それは……まあ」


 まずい。ここはひとまず、助け船を出すか。私はちょうどいい具合に盛り上がっている瓦礫の上に飛び乗った。


「ぬぅあーっはっはっは! 運良く生き残ったようだな!」


「博士はクロウ君に何もしてないちょきよ」


 リカが東宮美結ちゃんには聞こえないように指摘した。いちいち反応していたら演技がばれそうなのでとりあえずスルーしたが。


「だが、しかし、次に会うときは必ずしとめるからな!」


 可能な限り凶悪な笑みを浮かべながら言いきったあと、声を出さずに


「クロウ君、お幸せに」


 と、口の形だけで呟いて。


「覚悟していろよ。今回はひとまず退却だ。ぬぅあーっはっはっはっはっはっは!」


「ちょきちょきー」


 そろそろ本格的にどっと疲れが出そうなのだが、精一杯の虚勢を張って、私は夕日に向かって走り出す。走りながら二人の会話に耳を傾けると。


「あーっ、逃がした! 悔しいー……って、アルカナガールなら言うと思うわ」


「ははは。俺には隠さないでいいよ、もうバレてるし」


「えっ!? そ、そう? ところで、クロウ君。これからどうするの?」


「どうって……」


「そのカッコじゃ巣にも戻れないでしょ。とりあえずうちに来ない?」


「いいのか?」


「うん、あれほどの早握りができるんだったら父さんの手伝いもできると思うし」


「そういやお前の父さん寿司屋だったな……」


 どうやらうまくいったみたいだ。「愛すべき動物を怪人化計画」、今回も大成功!


「うっ、ゴホゴホ。どうやら発作ついでに砂埃で肺を痛めたな。一週間は絶対安静だぞ、これは」

「博士はいつも絶対安静みたいなものちょき」


「……相変わらず、リカの毒舌には反論できんな」


「――博士?」


「ん、何だ?」


「クロウ君も優しいけど、博士も優しいちょきっ」


 彼女は天使のように笑った。





 それから数カ月が過ぎた。


「『愛すべき動物を怪人化計画』、今回のターゲットはホワイトタイガーか。公共施設内のターゲットはリオネちゃん以来だな」


 一般的な施設の防犯設備など私の天才的な頭脳と科学力、そしてリカのハサミをもってすれば屁でもないのだが最近はそうも言っていられない。


 なぜならば。


「現れたわね! 悪の大幹部、蛇柳蝮之助!」


「やっぱりいたか、アルカナガール!」


 私のことを相変わらず悪の大幹部と勘違いしている正義の味方、アルカナガールと。


「行くわよ、クロウ君!」


「わ、わかったよ」


 ちょっと申し訳なさそうにしながらも今更後には引けないらしく襲い掛かってくるクロウ君。最近はこの二人への対策のため何やら私のほうの装備も物騒になりつつあり、本格的に悪の大幹部のようになってきているのも事実だが。


 しかし、世界中の悩める飼い主と動物のため、そしてメアリのような犠牲者を増やさないためにも、計画をここでやめるわけにはいかない!



「行くぞっ、リカ!」


「ちょきっ!」




と、いうわけで「愛すべき動物を怪人化計画」、いかがだったでしょうか?

この小説はライトノベル作法研究所2009年度GW祭りに投稿した小説に、加筆、訂正を加えたものです。

お題として、GWお題の「子供」「幸せ」「メーデー」、および内藤悠さん提供の「鴉」「怪人」「黒髪長髪美人」を使わせていただきました。

続編は気が向いたら書くかもしれませんし、書かないかもしれません。

書くとしたらリカと博士の出会いの話か、

アルカナガールに新たなる敵が現れる話になると思います。


ではでは。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ