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幼なじみのロゼがお国のお偉いさんに気に入られたらしい。
常日頃からロゼに、主に生活面でおんぶに抱っこされている僕、シオンも当然の流れで一緒に王都に行くことになりました。
これは、もしや王都で二人っきりの同棲生活!? とか一人ではしゃいでいたら、そういえばロゼには性別偽ったまんまだった事に気が付いた。なんてこった、このままじゃ新婚さんよろしくイチャラブ出来ないじゃないか。
僕ぼく言っているけれど、僕はれっきとした女の子である。
短い赤みがかった金髪、いわゆるストロベリーブロンドというやつに、くすんだ菫色の瞳で、よく熱を出して寝込むので、お肌が白を通り越して青白い。外を歩くと豪気なおば様たちに高確率で気を使われ何か食べ物を恵まれるほどのひょろい見た目の典型的なもやしっ子である。
僕の身分はロゼの小間使いだが、こう、気になる異性と同居とか夢があふれすぎて、……妄想が止まりません。例えお遊びでもロゼなら、ばっち来い!だ。
性別偽ってたのには理由がある。実に下らない理由が。
とある事情から街の領主たる子爵のもとへ預けられた幼い僕は、やはりとある事情により人間不信に陥っていた。
そこで出会ったのが子爵の息子、ロゼである。
過去の惨事から無表情無反応だった僕を、ロゼは何かと気に掛け、今では僕、ロゼに骨抜き状態である。もう、ぐにゃぐにゃめろめろです。
幼い僕がロゼにすっかり懐いたころ、僕はしょっちゅう雛鳥のごとくピヨピヨとロゼの後ろにくっついていた訳だが、当時町には女神もビックリな天使のごとく愛らしい男の子がいた。当時のちびっこい僕でさえ、くいくいとロゼの袖を引きながら「てんししゃま~?」とか聞いたくらいである。
町ん中には悪ガキがいて、おまけにソイツは子どもには凄い影響力があった。そんな奴が「やーい、女、なんでスカート履いてないんだよ!」と囃し立てれば、当然のごとく他の子どもも追随した。からかわれた方は顔は女の子のように可愛らしいが言われっぱなしではない。それはもう、立派な漢の子で、いつもの恒例となった取っ組み合いが始まる。殴るは蹴るは、髪は引っ張るわ。
悪ガキ共から一目置かれていたロゼにべったりだった僕が虐められることは無かったが、当時それを見ていた一番チビだった僕はビビりにビビり、女の子じゃ虐められるんだ! と勘違いしてしまったのが始まりである。
あの頃、街に来たばかりのよそ者だった僕は、なんとか周りに溶け込もうと必死だった訳なのでした。ちゃんちゃん。
その時にうっかり付いてしまった嘘をずるずるずる……と引きずりながらお年頃になった僕は、ずっと僕を本当の弟のように可愛がり守ってくれているロゼに、恋心を抱くようになったのは当然といえた。
あああ、こんなことならさっさと性別バラしとくんだった……っ!
しかし、今さら僕の方からバラすなんて、そんな事は絶対にできない。
ロゼも僕の性別が女だなんて、きっと夢にも思っていないだろう。……でなきゃ僕の前で、女体にまつわるお話なんてお友達と出来ないはず。へぇへぇ、大きくもなく小さくもなく手にすっぽり収まるサイズがいいのか、メモメモ。でかくするには揉むといいんですね、メモメモ。
最後の方には僕が、男って……! と冷えた視線になるのは最早お約束である。もう、諦めました。
どうせバレるのなら、できればお風呂場でばったり遭遇! や、着替え中にうっかり扉を開けてビックリ! などのエロシュチュを熱烈希望しております。ロゼは筋金入りの鈍感なので、コレくらいのインパクトがないときっと僕を女の子と認識してくれないと思います。ちなみに着替え中にうっかり、はよくやってます、僕が。ごちそうさまです。
しかしながら敵も手強い。
この間も同僚の方と羽目を外したらしく、べろんべろんに酔っ払って帰ってきた時も、よろけたロゼを僕が慌てて支えた訳だが、その時確かに、まあ、身体が密着しまして、当たったはずなのですよ、僕の胸に。
けれど、その件に関してはまったくの無反応。……そんなに僕、まな板っすか。いやいや、ただ酔っぱらってたから気付かなかっただけだよね? そうだよね!?
後悔の日々を送りながら、今日も「いってらっしゃ~い」と王城に出仕に行く幼なじみのご主人様をお見送り。
ホント性別さえ偽ってなかったら新妻だったね、今ごろ!
けど最近一段と格好よくなってきたから、それはそれで気苦労したような。
宿の看板娘に、向かいのパン屋の長女、今でもお嬢さん方の視線が痛いよ。おば様方には人気の僕だが、ロゼ狙いのお嬢さん方にはすこぶる人気がない。きっと本能でわかるのでしょう、こいつ敵だ! って。僕も敵認定してますから。
こないだも何か家に来た。貴女はロゼの同僚ですか、そうですか。女兵士、格好いいですね。みなさーん、ロゼの外見に惑わされてはいけませんよー、中身はエロですよー、狼ですよー。今日も牽制に忙しいです、ふう。
とか毎日充実した日々を送っていたら、おっ、なんか儀式の準備が整ったって連絡が。
じゃ、さっそく同志兼部下に通達送りましょうか。
次の祝祭日に儀式決行~!
はい、こっちの方が僕の本業です。
病弱小間使いとは世を忍ぶ仮の姿。しかしてその正体は、世界に蔓延る悪の、いやいや嘘です。
本当は、世界最大規模の魔術師同盟、オルタリアルの席持ち幹部をやってます。
儀式と言えば、女子どもを生け贄にスプラッタな印象がありますが、そんなことしません。
これは、大地に満ちた魔力を固めて魔石を精製しましょ、ってやつである。
僕を含めた同盟魔術師が数人集まって、然るべき時に然るべき手順でうんたらたんたらと長ったらしい呪文を唱えてその地の魔力を固めます。
邪魔が入ると大変な事になるので、護衛もうじゃうじゃ。かなりの大所帯。もちろん非公式で、みんな仮面かぶって祭壇取り囲んだりしているから、知らない人が見たら、怪しい。すんごく怪しい。
素顔を隠すのは、まあ、みんな隠れ蓑の生活がありますから。
うん、僕もロゼにバレたくない。
仮面の中身は僕直属の部下たちしか知りませんよ。他の部署の事はさっぱり。
もちろん僕の中身は、幹部ですから僕の直属の一部の部下しか知りません。それでも普段の暮らしは殆ど知られてないと思う。幼なじみのヒモしてるってバレたら、ただでさえ無い威厳が……。
因みに衣装は赤毛のカツラを被って顔に仮面。対衝撃、対斬性に優れた手袋をはめ、魔導コートを羽織り、中はスカートの裾は短めに、代わりに長めのブーツ履いて、はい完璧に怪しい女の出来上がり。
もちろん、ちらりと見える太股。幹部には、すでにマスコット的存在と清純清楚派がいるそうなので、僕はお色気担当だそうです。ロゼすら籠絡出来ないのに、なんという無茶配役……。
衣装を提案した部下曰く、「この隙間の肌色こそ、これぞ全ての男が鑑賞に値するする芸術、これぞ黄金比、神すら侵せない絶対領域! この一瞬の隙が生死を分けます!」だそうな。
ちらりと見えそで見えないのが良いらしいですね、ホント訳がわかりません。
しかし、出すだけで生存率が上がるのならば、太股くらい僕はいくらでも出します。
お約束のように男性諸君がチラッと剥き出しの太股を見ては、慌てて視線を逸らしては、また思い出したようにチラッと見ては目を逸らします。え、なにコレ、効果絶大?
僕は炎の属性なので、衣装は赤や緋色の色を使われる事が多い。部下も強制した覚えはないのに、気が付けば同じような色合いの鎧やローブが多くて正直目が痛い。
今回の儀式の場所は、とある村外れにある古い遺跡だ。こういう古の祭壇の中心は、大抵は世界に満ちた魔力の集約点であることが多い。魔力が自然に大変集まりやすいという事は、ほっとけば勝手に魔石が産まれるが、その前にその遺跡に住む動物などが魔力として胎内に取り入れるのが殆どだ。
高濃度の魔力に長い間晒されることで、結果やばーいくらい強い魔獣となる訳です、はい。
オルタリアルの主な活動内容は、世界に正しい魔力の巡りをもたらし、秩序と平穏を守ろう! みたいなモットーで、世のため、人のため、自分たちのために、せっせと影ながら働いてはいるが、いかんせん秘密にする事が多すぎる。
もともと魔術師は忌み子や魔物の子などと呼ばれるのが、何も知らない一般人の常識である。僕がロゼに内緒にしているのも半分くらいその常識のせいである。たまーに祭り上げられ神子になったりするが、大事にされる代わりに神殿で一生幽閉が妥当なところだ。そして漏れ無く搾取される、と。
それでも一昔前に水晶の女王と呼ばれた北西大陸の覇者が、魔術師を重用し、お国が盛大な発展を遂げたおかげで、魔術師の偏見はだいぶと良くなった。
むしろ各国の権力者が魔術師に興味津々となった今では手厚く保護されるようになったが、まだまだ一般の方には浸透しておらず、ぶっちゃけよく邪教の集団と間違えられます。まあ、ある意味間違っちゃいない。
今回も近隣の村人に目撃されてたらしい。……仮面着けた赤いのがウロチョロしてたら、そりゃあ怪しいですよね、目立ちますよね!
気が付けばお約束のように王立騎士団に包囲されてました。村人よ、チクったな。
そんなこんなで、もはや顔馴染みとなった騎士団の連中をかるーくいなします。
脳筋の団長からかうの超楽しい。
なんでも数いる王子様の一人とかで、もともとお飾りのつもりでお上から与えられた役職が、よりにもよって遠征騎士団団長だったらしい。
実力派荒くれ集団もとい遠征騎士団からの風当たりが強かったらしいのだが、そこは脳筋パワーでのしあがったとか何とか。
腕が立つ、身分高い、威圧感ありの三拍子そろった敵にしたくないお人だが、残念な事に頭の栄養は全部筋肉にいったと専らの評判、つまり馬鹿。
そんな馬鹿でも三拍子揃っているばかりに、高貴なお人から自信ありげに指示されたら、同じく脳筋の騎士たちはうっかり従ってしまうわけで、……楽させてもらってます。見事な統率力で素晴らしい限りです。
え、なになに今日は宮廷魔術師の助っ人頼んだの?
あっれー、脳筋騎士団と根暗宮廷魔術師って仲悪く無かったけ?
ああ!脳筋団長の腹違いの妹君!
そうですか。噂の王女殿下ですか。
道理で何か新顔が大勢いるなぁ、と……ん?
んんん!?
あああ、れれれ??
何だかその中に見知りまくった顔が!
まさかロゼ? 本物!?
間違いないっ。っていうか、あんな格好良いのが他にいるはずが……!
え、惚れた欲目? いやいや、ホントかっこイイんです。そういえば真面目に隊服着てるロゼって初めてみた。見てるだけで僕もう胸がドキドキ……って、僕! 見慣れないロゼの姿にトキめいてる場合じゃない! いつもの着崩した隊服姿もステキなんだからっ、これくらいで動揺してどうする!
いつものロゼを思い出せ! いつものロゼ、……開け放たれた詰襟からチラッと見える喉元がとってもせくしぃなのです。
やっぱり僕、太股チラリのロマンをコレに置き換えたら理解できるかも、太股にロマンは感じませんが。……じゃなくて! もう、しっかりしろ僕!
そ、そういえば何か嬉しそうに出世したとか報告してくれてましたね。近衛がどーのとか。
……やっべ、僕が儀式取り仕切ってるのバレたらどうなんのコレ!?