6話 早速廃部案件なんだが?
俺、高橋敬は今の状況に驚愕していた。
現在34歳。教員生活9年目にして、今目の前で男女の生徒二人がソファに座り、紅茶を片手に会話を繰り広げているのだ。そんな生徒は今までみたこともない。片方はともかくとして。
「......いや、何やっとんねん」
「「あ」」
委員長である朝川が何か言いかけていたが、それを遮ったつもりはなくとも、自然に言葉を発してしまっていた。
◇
なぜか僕と朝川さんはその場で正座をさせられており、刑法223条に該当しそうな勢いだが強要ではなく朝川さんに催促されてそうしているので罪は成立しない。
「で、月咲。朝礼終わったらここにきてたのか」
「......」
普段担任との接点もなく、朝礼しかまともに出席していない僕は何も言えばわからず沈黙してしまう。
「黙秘してもいいが、説明はしてもらわないと」
「黙秘とか言うんならカツ丼ください」
朝川さんはなぜか余計な口を挟んで担任を煽ろうとしていた。なんでや。
そんなに体育館倉庫から僕を出すよう頼まれたのが嫌だったのだろうか?
「はぁ...聞きたいことはたくさんあるが、まずここはなんだ?」
「休息ファンクラブです」
迷いもなく、真剣な眼差しで答える朝川さん。
「そういえばそんな名前だったね」
「お、喋ったな月咲」
「......」
「あれ?俺嫌われてんの?」
「朝礼しか出席してないコミュ障陰キャの月咲くんは、単に距離感がわからないだけだと思います」
「なんだとコラ」
急な僕に対する罵倒と偏見。いや間違ってはないのが悔しいんだけれども。
「ごめんごめん」
「うちの学校にファンクラブなんてねぇし、廃部だ廃部」
それに昼休みだぞ、と付け加える名前おもしろ先生。ごもっともな言葉である。
「......ちゃんと活動してますよ、まだ二日目ですけど」
え?何言ってるの?
「何を?」
「休んでます。だから休息ファンクラブです」
「それは活動じゃねえ!」
「流石に職員会議&報告案件だぞ。これ他の人にバレてないのか?」
「今のとこ誰も来てないですね」
「まぁ、ここ元々楽器置いてた場所だしな...」
ため息を吐く高橋先生を、僕はじーっと見つめていた。
でも先生側から見れば、朝川さんに僕を更生させてほしいと頼んだと仮定すると、朝川さんを巻き込んで新しいサボり場所を作ってるみたいな認識をするか。つまり、僕が平穏にこの教室で過ごせる条件は。
「......この教室を使うなら何か活動実績みたいなものがあれば良いと?」
「ん?あぁ、そう言うことになるな」
「そもそもファンクラブがうちの高校には前代未聞なんだがな...」
「月咲くん、何か考えがあるの?」
「いや、ない」
あくまで僕がこの教室を使う条件を考えただけ。ここははっきりと考えはないと伝えておく。
「とりあえず校外学習までは猶予をやる」
映画の悪役みたいなセリフを担任からもらった。校外学習までは多めにみてくれるらしい。
「あと2週間...ですか」
「あぁ、少なくとも俺以外の先生ならすぐ報告するからな?感謝しろよ?」
「ありがとうございます」
癪だがここは素直にお礼を言っておこう。
──キンコーンカーンコーン。
予令が鳴った。まもなく5限が始まろうとしている。
「予令か。朝川さんは教室戻れ」
「......はい」
「じゃあまた放課後来るね」
「いや別に来なくても──」
言いかけたところで、ドアが勢いよくしまった。
来るからね?という強い圧を感じ、僕は近くにあった本で顔を隠すのだった。
にしても、まだ会って二日のやつとなんであんな会話できているのか、不思議でならない。
◇
あっという間に放課後になったが、17時を過ぎても朝川さんは姿を見せなかった。
忘れかけていたがあの人は吹部の部員なのだから、普通に部活動に行っているのだろう。
この時間に家に帰っても妹と帰宅時間が被ってかまちょさせられるし、昼寝をするに限る。
そう思い、目を瞑ろうとしたところで、疫病神は現れた。
「おまたセキュリティーボックス」
「誰も呼んでない」
セキュリティーボックスと名乗るのならこの教室をセキュリティしてほしいものだ。
「じゃあ、会議を始める」
まるで先生かのように、ホワイトボードと指揮棒のようなものを持ってきた。
昼休みの時も感じたが、やけにテンションが高いな。プリンセスの日が近いのか?なんてブラックジョークを言ったら殺されてしまうだろうか?
「てか朝川さん、部活行かなくていいの?」
「そう、それなんだけどね」
「今年の吹部1年がたくさん入ってきたからね〜幽霊部員と化す可能性がある」
「もうここにいる時点で幽霊部員なんじゃ...」
「......で、活動実績がどうこうだっけ?」
華麗にスルーしやがった。奈菜と同じく都合の悪いことは聞こえない主義か。
その後30分ほど話し合うも、休息ファンクラブとかいうふざけた名前も合わせて、やれることが限られているし、そもそも二人しかいないのですぐに行き詰まった。
結果的に最終下校時刻になってしまったので、今日はもう帰ることになった。
◇
「ボードゲームの大会に出るとか」
地面に落ちてる石ころを蹴りながら、案を出そうとお互いに口を動かしている。
「嫌すぎる...目立ちたくないのに」
「月咲くんそう言うの向いてそうな」
「いちいち言わなければ偏見にならないのに」
僕と朝川さんは二人並んで、駅まで10分ほどの道を歩いている。
夕日が心地よく街を照らしている。
「校外学習のこともだけど、月咲くんどうするのさ」
「水族館ねー」
水族館の話をしようとしたところで朝川さんの動きがなぜか止まった。
道路を挟んだ反対側の道を歩いている白い髪の女子の方を見ている。制服は着ていない。
「あの人...」
「あれ?朝川さん知ってる人?」
「いや...なんか少し前に話題になった不登校の子に似てるなって」
ん?待てよ?白い髪であの横顔と肩幅...恐らく白石希望だ。入学式と新入生歓迎会で関わりがあった。あった、と過去形なのは悲しいが。
「もしかして白石さん?」
「......そうだ!その子!」
「月咲くんよく知ってたね」
「ちょっと関わり...というほどでもないんだけど」
「ていうか話題になった?ってなに」
「ちょっと...ね」
不登校というワード、そして朝川さんの表情からして何か事情がありそうだが、タブーなことなんだろう。そういえば1年生の時の歓迎会以降、姿を見ていないような気もする。




