2話 他人の友達
「......」
お互いに沈黙が流れるが、なぜか朝川さんは笑顔を浮かべている。
「は?イキってる?なんで?」
「いやイキってるでしょ」
「自分の事情も話せず、昨今の色々と言えない状況に便乗して、好き放題してるじゃん?」
「......それは」
「月咲くんがそれ以上自分のことを話さないなら...どうなるかわかる?」
何かされるのだろうか。
「......何するの?」
「先生に全部報告する」
「それだけ?」
「あと、毎朝迎えに来る」
「そっちのほうが嫌だ」
ただでさえ僕だけの絶対領域に足を踏み入れられて気に食わないというのに、前まで話したこともなかった女子生徒になぜ迎えに来てもらわなきゃいけないんだ。
でも理由は話さないと納得してもらえなさそうだから話したほうがいいか。
「......クラスに馴染めない」
「のは、知ってる」
続けるように朝川さんが答える。
「1つのクラスには30人以上いるけど、全員がそのクラスに馴染めるわけない」
「友達と談笑してる人、読書する人、スマホ弄ってる人、色々いるよね」
「......そうだね」
静かに頷く朝川さん。
「僕には、同じ方向を向いて板書を取るってスタイルが向いてなくて」
「この学校に来たのも僕の意思100%ってわけじゃなくて」
この高校を受験したことを思い出す。
『母さんと父さんね、奈菜のために私立の学費出すこと決めたの』
『英途には申し訳ないけど、近くの高校に通ってもらってもいい?』
『ってかやりたいこともないなら近くの高校でいいべ?』
被せるように父さんが言った。
『......わかった』
今思えば、本当はこの言葉を否定したかった。
確かにやりたいことはないし、高校に通わせてもらってる身。
妹の方が頭が良くて優秀だったし、チヤホヤされていた。両親としては妹の方にお金をかけて育てたかったんだろう。1年生の時からクラスの友達作りにも失敗して馴染めず、反抗心や捻くれた感情を体育館倉庫で晴らしたいと思ったのかもしれない。
やるせない気持ちを思い、拳を握る。
「......大丈夫?」
「うん。ごめ」
「......やっぱりクラスには戻りたくない」
「その唯我独尊ぶりを他で発揮してほしいところではあるけど」
「そっちにも事情があるのは理解したよ。でも、流石にソファは移動させない?」
「だが断る」
──キーンコーンカーンコーン。
英途の言葉とともに、1限目の終了を告げるチャイムが鳴った。
「......また放課後来るから、それまでに考えといてね」
「は?もう来なくてい──」
バンッと扉を開け、朝川さんはその場を後にしてしまった。
◇
僕はクラスに友達はいない。これは紛れも無い事実ではあるけど、一人だけ別クラスに会話ができる人間がいる。そいつは昼休みになったら体育館倉庫に姿を現し、いつも昼食を共にしている。
基本的に昼休みの時間はどこで過ごしても構わないらしいが、体育館倉庫はグレーと言える。
「よーっす」
静かに倉庫の扉が開き、微かに外から差し込む光がトムを照らしている。
「相変わらず暗い顔してんな」
「ちょっと嫌なことを...ね」
「そうか」
金髪が目立つこの同級生の名前は、トムルス・ローデン。通称トム。
日本とアメリカのハーフで強制参加の新入生歓迎会でたまたまグループが同じで、関わり始めた。
ちなみにアメリカに行ったことは全然ないらしく、日本語しか喋れない。
「今日はコンビニなん?」
「あぁ、マイマザーが忙しかったからなっ」
そう言い、白く輝く歯を見せウィンクしてくる。その笑顔が僕の絶対領域に相応しくない。
「聞いてよトム」
自分の弁当を、一口運び飲み込んでからさっきあったことを話そうと思い、問いかける。
「どうしたん?」
「うちのクラスの委員長わかる?」
「お前4組だよな?4組の委員長って、朝川......」
「そ、朝川さん」
弁当を持参している木箱の上に乗せて、考える人のポーズをする。
「その人からクラスに戻らん?って言われて」
「ついに生徒から言われるようになったのか」
綾鷹を飲みながら感心するように言うトム。
「教師に言われても心動かないお前が?」
「ついに生徒に言われたんか」
「......なんか喜んでる?」
「いや、別になんとも思ってない」
「それはそれで悲しいな」
「......同じクラスなら多少喜んだかもしれんがな」
そう。トムは2年2組で違うクラスである。1年生の時も違うクラスで、当時絶望した記憶がある。
「まぁでも、俺はお前を友達だと思ってるが友達が問題児扱いされてんのは正直キツイぞ」
「......」
至極真っ当な気持ちである。
「その朝川さん?だって、お前と話すためだけにわざわざ来てんだろ?」
「でも先生に頼まれただけって言ってたしな...」
「てか英途お前、他人から何かしてもらうことに慣れてなさすぎるんだよ」
「いや別に......」
苦節16年。担任以外の人間とまともに話すこともなく朝礼だけ出席してあとは逃げるように体育館倉庫で過ごす日々。
「......まぁ話くらいは聞くよ」
「いいんじゃないか?」
トムからの本心も聞けたところで、チャイムと共に昼休みは終わりを告げた。




