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ファルトゥスの護衛官(仮)  作者: 北上輝月
Prologue; Episode / Be-4
8/35

§.08 Be careful when using magic!

 警官殿の近くに向かった。見ると、よくオフィスに顔を出す警官殿と同一人物だった。なるほど警察がうちに頻繁に来るのは、この時の連携のためだったのか。納得。

「君、領主様の子だね。社会勉強?」

 警官殿が話しかけてきた。毎日のようにオフィスに入り浸っているからか、あるいは一時、学校の帰りに市場へ足繁く通っていたからか、わりと顔が割れている俺である。もしかすると、俺が知っている街の住民よりも、俺を知っている街の住民のほうが多いんじゃないかとすら思っている。

「まぁ、そんな所ですね。おっちゃんに頼み込んで、勝手についてきちゃいました」

 おっちゃんが連れてきてくれた、というわけにもいかない気がした。子供である俺が勝手についてきた、とすればおっちゃんに何らかの責任が問われることはあるまい。

「こらこら。大人の邪魔はしちゃいけないよ。でも、一度は見てみたいよね。おじさんも分かるよ」

「ですよね〜」

 おじさんっていう年齢じゃないと思うのだが。あんた今いくつよ。30代ぐらいはおじさんじゃないよ。

 警官殿の通信機が鳴った。口元に近づける。

「こちらライナー=ガンマ派出所。どうぞ」

『こちらガッシュ傭兵。魔獣1個体を発見した。これより駆除に移る』

「許可します。どうぞ」と言って通信を切った。

「始まったみたいだよ。……ほら、機関銃の音が聞こえるでしょ」

 確かに、森の奥から微かに火薬の音が聞こえた。パパパパ、と連射音がするあたり、RWSだろう。それと同時に、上空に浮遊する物体が見えた。

「お巡りさん、あの、あれは一体!?」

 必死に指をさす。一見航空機だが、主翼が無い。回転翼機か、と疑ったがそもそも回転翼も無い。どうやって浮いているんだ?

「あぁ、あれか。アンリエッタ・ポルナレフさんのボードだね」

「ボード?」

「一種の工業製品でね、魔力を流し込めば空に浮くんだよ。上手い人が使えば……あんな感じ」

 ボード(アンリエッタさん……確か、いつも眠そうな目をしているスレンダーなお姉さんのはず)が空中でターンした。足がボードとくっついているらしく、落ちてくる気配はない。

 なんだろう、このデジャヴ。どこかで見たことがあるような、無いような。

「一体何が起きてるんですか……」

「さぁね。おじさんに分かるのは、ああやって魔獣の意識を引きつけて、反対側から機関銃とかで攻撃するってことだけだよ。ヘリコプターを使うときもあるんだけど、今日みたいに狭い空間とかだとヘリコプターが入れないからね。ボードを使うんだ」

「はあ」

 わけが分からない。いやまぁ、戦術としては理解できるが、そこでなぜボードが出てくるのか。

 俺自身、何が分からないのか分からなくなってきたので、これ以上考えるのはやめることにした。

 機関銃の火薬音に合わせて、ボードが揺れ動いた。いや、逆か。ボードの陽動に応じて機関銃が鳴っているのだ。木の上から頭1個出した魔獣がちらちら見える。あの頭は確かにクマだ。なるほどあんな感じか。魔獣は野生動物が大型化したものか。……本当に?

「ねぇお巡りさん。魔獣って何ですか?」

 聞いてみることにした。餅は餅屋、専門事項は専門家だ。

「魔獣、ねぇ……。そうだね、簡単に言えば、凶暴化した野生動物だね。それとも、法令上の定義でも言おうか?」

「じゃあそれで」

 法令上で決まってるのか。まぁ、特定危険生物対処法が制定されている時点で、魔獣の定義が政府によってされているのは自明か。そりゃそうだ。

 警官殿は一息置いて、

「――魔力の過剰摂取により、身体が肥大化、魔術の限定行使が可能になった生物のうち、人間に害をなすもの、だね。」

 言い切った。すげえ。あとさすが法律だ。一文が長い。これは短い方だが。


 急に、とんでもない爆音がした。明らかに機関銃の音じゃない。

「なんですか、この音。爆弾?」

「たぶん、対戦車ミサイルじゃないかな。このくらいの大きさになると、機関銃だけじゃ火力が足らないし、かといってガッシュ傭兵といっても戦車なんて持ってないからね。必然的に対戦車ミサイルがよく使われるんだ」

 巨大クマを倒すのに対戦車ミサイルか……。……普通にオーバースペックでは?

「あまりにも過剰威力すぎません?」

「そうでもないと、魔力の壁を破壊できないんだよね。個体にもよるけど、中には魔力で壁を作って、機関銃とか弾いちゃうのもいるから」

 想像の斜め上が来た。それなら適正火力ですわ。

 ――対戦車ミサイルでも倒せない魔獣って一体……?対戦車ミサイルがだめならどうする気なんだ。戦車砲でもぶち込むのか?まさか対地ミサイル……。

 もしかすると、強烈な魔術をぶち込むのかもしれない。死の痛みを与える魔術とか、身体を爆散させる魔術とか。


 

 ……。

 一瞬、魔獣と目が合った気がする。あのうつろな目には何も映っていないようだが、まさか。

 いやまさか、な。

「お巡りさん……。今、魔獣と目が合った気がするんですが」

「え?」

 警官殿が素っ頓狂な返事をした。明らかに目が泳いでいる状態でまっすぐ前を見ながら、少しずつ後退している。

「イリヤくん。とっとと逃げよう。逃げ方はクマと同じだ。目をそらさず、少しずつ後ろに……」

「は、はい……」

 ゆっくり後退し、パトカーの後ろに隠れた。

「たいていの魔獣は頭が悪いから、きっと見つけられないはず……」

 警官殿。それは死亡フラグってやつだぞ。


 ――恐る恐る、車体の底から、背後を覗いてみた。

 ……あ。

 来た。

「来た!」

「乗って!」

 パトカーに乗り込むや否や、颯爽と逃げ出す警官殿。上司に職務放棄で怒られない?

 脈絡もなく、急に何か考えが湧いた。

「お巡りさん……。魔獣に、魔術って効きますか?」

「モノによるけど、効くよ。……急にどうしたの」

「魔獣を迎撃します。窓、開けてくれませんか?」

「迎撃!?何言ってるの!?」

 まぁ〜そうなるよな。だがだめだ。俺はドアを開けて身を乗り出した。

「ちょ、何してるの!危ないよ!」

 警官殿の言葉を右から左へ。右目を閉じ、左手を左目に沿わせた。

 魔術の練習を始めてやがて10年、それなりのものなら使えるようにはなった。とはいえ、まだまだ子供でしかないので大がかりなものはできないのだが。

 やることはただ1つ、あの魔獣を迎撃すること。最悪死ななくても、気絶させるだけの威力を出す必要がある。

 そうとなれば、取るべき手段は魔眼魔術――“見ること”をトリガーとして魔術を発動させる、応用技の1つだ。

 眼球に魔力を集中させる。ちりちりと痛みがちらつくのを無視して、大枠を形成する。

第1階層(Formalise)……〈現象〉(Phénomène)

 眼球の中に、魔術式が仮想構築され始めた。眼の前にそれが投影され、景色に薄紫がかかる。

第2(Transfert)階層(thermique)……〈上昇〉(Ascension)

 円状に形成された魔術基盤に、外縁部から順に魔術式が描き込まれていく。字が踊る速度は目に追える程度に遅いが、これは俺の実力不足なので何も言えない。

第3(Changement)(d'ent)(ropie)……〈増(Augmen)大〉(tation)

 追加でさらに1つ、射程距離延長の魔術を組み込む。同時に2つの魔術を使うのは今が初めてだが、やってみるより他にない。

 元より、魔眼魔術は精密攻撃が不得手なものだ。それを俺は精密射撃に使おうとしているのだから、射程距離延長の魔術を使わずしてどうする、という話である。もっとも、魔眼魔術に、さらに射程距離延長魔術を併用するのはテキストブックでは推奨されていない。むしろやらないよう釘を差している。

第4階層(Détail)……〈闇〉(Obscurité)

 第5(Compo)階層(rtement)……〈収(Conver)束〉(gence)

 第6階層(Activer)……【呪殺の魔眼(Long-range)・射程延長】(Gund)

 魔力が収束する。円形の魔術式が小さく縮み、回転して――呪いを放った。

 ヴン、と眼球が震える。呪いは正確に飛び、魔獣の目を目掛けて飛び込む。

 ぐらりと魔獣が揺れるのを確認して、すぐに俺はぶっ倒れた。

(……あっこれまずいかも……)

 そう思った次の瞬間には、パトカーの中で意識を失っていた。

 グエー死んだンゴ。



 ……。

 気付いたら、そこはベッドの中だった。病院か?と思って辺りを見渡してみる。

 ――俺の部屋だった。

「……父さん?」

 ベッドの側でオールを漕いでいた。規則的に身体が揺れているのだが、あまりにも規則的すぎて一周回って起きているんじゃないだろうか、と疑ってしまう。

「……起きたか」

 目が開いた父。声がふわふわしているあたり、どうやら本当に眠っていたようだ。

「何を思ってあんな無茶をしたのかは聞かないけど、やりすぎるなよ。身体壊してからじゃ遅いからね」

「……はい」

 ぐうの音も出ない。更に続ける。

「僕の職場を見たいのなら、いつでも言っていいからね。勝手に行こうとしないで」

 探すの、大変なんだから。そう付け加えた。


 この後に聞いた話、俺を乗せてくれたおっちゃんに1カ月のトイレ掃除と反省文、減給に加え、1週間の謹慎処分が言い渡されたそうだ。

 軽いのか重いのかわからない懲罰である。


 それから数ヶ月。言われた通り、15年ぶりに神からのアクセスがあった。曰く。

――君の監視対象、フィリア・ファルトゥス=アルトロイトはスターリィ王立魔術学院へ進学することが決まった。そこへ行け。


――無茶を言うな。今の成績じゃ行けそうにない。


――学校推薦を使え。君の素行なら問題無い。それに、私は神だ。それくらい、どうとでもしてやるさ。


――お、おう。


 そして、本当に学校推薦を利用してスターリィ王立魔術学院に進学することが決まってしまったのだった。

 神の力こえー。

ルビつけるの大変

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