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ファルトゥスの護衛官(仮)  作者: 北上輝月
Prologue; Episode / Be-4
5/25

§.05 What is Acushnium…?

 庭を魔術の練習に使う旨は伝えてあったらしく、帰宅するなり庭らしき(・・・)空間に連れられた。

「これ、本当に庭ですか?」

「坊主、てめえ自身の家だろ。なんで知らねえんだ。……にしてもひでぇな」

 先ほど庭らしき、と表現したが、これは誰が見ても“領主屋敷の庭園”とは信じるまい。雑草はボーボー、庭木はロクに剪定されず、恐らくは西洋式庭園だと推測されるそこそこ広い空間が辺り一帯サバンナと化していた。野良猫か野良犬、ドブネズミあたりが棲み着いていてもなんら不思議じゃない。

「なんでこうなってるんですか……?」

 呆れ返って俺は嘆いた。ヴァジュラも続く。

「オレが分かるわけねぇだろ。どれだけ整備してないんだ……。業者に頼めば一瞬だろ……。

 しゃあねぇな。オレがやるか。坊主、一度家の中に入ってろ。飛ぶぞ」

「飛ぶ?」

 何が飛ぶんだ。刈った草か?

 よく分からないでいると、サンルームに放り込まれた。窓ガラス越しに彼を見ていると……。

 まず、懐から魔術杖を取り出した。装飾の少ないスッキリしたデザインで、先ほど俺が借りたものよりも直棒に近い。

第1階層(Formalise)……〈現象〉(Phénomène)

 第2(Transfert) 階層(thermique)……〈上昇〉(Ascension)

 第3(Changement)(d'ent)(ropie)……〈増(Augmen)大〉(tation)

 第4階層(Détail)……〈風(Vent)(et )光〉( lumière)

 第5(Comport)階層(ement)……〈収(Conver)束〉(gence)

 第6階層(Activer)……【風(セカンス)()刃】(ウェントゥス)!」

 やたら長い詠唱を終えると、ヴァジュラの杖の先に少しずつ風が集まりだした。風は杖の先にまとわりつくように収束し、やがて竜巻となる。

行け(GO)

 ヴァジュラの合図とともに、竜巻は動き出した。思考制御なのかプログラム制御なのかはここからでは判断できないが、とにかくヴァジュラの指示をきっかけとして竜巻が動き出した。

 庭を撫でるように動いていく。時折出てきた異物……庭石とか埋もれていた低木とか、挙句の果てにはやっぱり棲み着いていた野良犬やドブネズミとか!が竜巻の上に乗せられて庭を縦横無尽に駆け巡る。

 10分ほど芝刈りが続き、竜巻が消えた。そこに残ったのは、まるで庭師が帰った直後のように整えられた芝生、生垣、庭木と野生動物たちだった。

「えー……。何あれ……」

 呆然とするしかない俺。何が起こっているんだ。

「これが、現実の魔術だ。どうだ?アニメとは違うだろ?」

 ただただ頷くしかない。『魔法使いアルジャーノンの冒険』では、芝刈りなんていうこんなみみっちいことに魔術を使っていなかった。

「これで準備は万端だ。坊主、魔術の練習をやっと始められるぞ。喜べ」

「わーい」

 すげー棒読み。もっと子供らしく喜べないのかね、俺は。

「まず、いくら魔術の練習と言ってもそもそも魔力を自在に扱えなければなにも始まらん。というわけで、当面は魔術杖を使わん。どこかに片付けて置いておけ。失くすなよ」

「失くしませんよ」

 どこのどいつだ、そんなやつ。

「オレが失くしたから言ってんだ。気をつけろよ、気を抜いているとある日突然消えるぞ」

「……はぁ」

 一体何があったんだ、あんたの過去は。ただのおっちょこちょいじゃないだろうな。

「それじゃ坊主、魔力の扱い方だ。よーく息を吸って吐いて、力を思いっきり抜け。頭のてっぺんから足のつま先まで、指の先まであらゆる力を抜くんだ」

「はい」

 言われた通りに息を吸い、吐く。力が隅々から抜けていき、――身体の中心に、何か熱を感じた。

「先生。……何か、身体の底に熱が……」

「そうしたら、もう一度息を吸い込め。その熱を、利き手に集めろ。なるべく多くだ」

「はい」

 右手に熱を集める。少しずつ熱源が移動してきて、右腕に差し掛かった。

「何か――それこそ炎とか水とか、具体的なモノを出そうとするな。そのままでいい、魔力をそのまま身体の外に出せ」

「はい」

 右の掌に光が集まる。少しずつ収束する中に、未知の固体物が形成されるのが分かった。

「っ……はァっ……!」

 全ての熱源が身体の外に出た。固体物はゴムまりのように丸まっていて、白く透明に光っていた。

「先生……これは、一体……?」

 肩で息をしながら、ヴァジュラに問う。

「よくできたな。坊主、偉いぞ。――これはアキュシュニウム、その塊だ。アキュシュニウムってのは魔力源で、空気中に気体として存在している。オレたちはこれを吸い込んで魔力に変え、魔術として活用しているんだ」

 へぇ。ここの世界の魔術はそんな仕組みなのか。無駄に科学的だな。だが、それよりも。

「先生……。魔術って、こんなに、疲れるものなんですか……!?」

 ここ10年くらいで、1番体力を使った。学生時代に、調子に乗ってレンジャー部隊の真似事をした時よりもキツい!

「そりゃ坊主、お前魔力に触れたの始めてだろ?最初は誰だってそんなもんだ。ゆっくりやっていけばいつかは慣れるさ。そうだな、遅くても始めて1年以内に疲れなくなる」

「そんなに続くんですか……!」

 道は長い。魔術師(魔法使い?)への道は、まだまだ始まったばかり、それどころかスタートラインに並んだばかりだった。「位置について(オンユアマークス)」すら宣言されていないのだ。


ルビ設定むずい……(´・ω・`)

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