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ファルトゥスの護衛官(仮)  作者: 北上輝月
Prologue; Episode / Be-4
4/5

§.04 Magic wand

 出かける準備といっても、何も持っていくものは無い。ケータイの類はもらってないし、財布も無いからせいぜいが子供用の肩掛けカバンぐらいか。こんなものは準備の内に入らない。

 ヴァジュラが彼の端末をジャケットから探しているうちに(彼は机の上にそれを置いていた)、俺の準備は終わった。俺の父に連絡を入れてから、部屋を出て玄関に向かう。その道中、ヴァジュラに尋ねた。

「ねぇ先生。魔術杖って何ですか?」

「あぁ……そういえば言ってなかったな。魔術杖ってのは俗称で、正式名は『魔術展開用魔力制御システム』って言うんだが、要は……なんだろうな……。なんて言えば伝わるか……。リモコンみたいなもんかな。テレビのリモコン。分かるだろ?」

「リモコンですか」

 なんとなく射撃指揮装置(FCS)を連想したのだが。

「よく分かりません」

「すまんな。オレもいい例えが思いつかん。使ってるうちに何となく掴め」

 無茶を仰る。

「はぁ。わけが分かりません」

「問題無い。オレも実際よく分からん」

 それでいいのか自称家庭教師。

 あっという間に玄関口に到着して、ヴァジュラが乗ってきた軽自動車に俺も乗り込んだ。こいつの人柄はあまり好きじゃないが、クルマのセンスは ピカイチだと思う。俺が前世で愛用していた軽自動車と見た目が似ているからだ。

 軽自動車を走らせ、中央市場にやって来た。ガッシュトフィルト家が領主を務めるこの地方都市は、毎日のように中央市場で露天市場が開かれている。そのため、午前中から人・人・人の大混雑だ。ヴァジュラに手を引かれながら(このあたり、彼の優しさが垣間見える)軽自動車を降りて市場を歩くこと15分。距離ならそうそう駐車場から離れていないところに、その店はあった。

「よう店長。潰れてないか?」

 やかましいわ、と怒号が響いた。誰だってあの言葉にはキレるよ流石に。

「そうそう潰れるようなヤワな商売じゃねえよ。それで、何しに……誘拐?」

 誘拐だ?誰を見てそんなこと……俺か。

「この人、僕の家庭教師です。誘拐犯に見えるけどそうじゃないです」

 子供っぽく、やんわりと否定してあげた。人相が悪い(ただし、目つきと髪の長さが悪いだけなので、素材はいいのがヴァジュラという男な)のは仕方ない。

「坊主てめえ、よくも言ったな。今日の宿題倍にするからな」

「ごめんなさいなんでもないです」

 棒読みだけどバレてないだろうか。……バレてなかった。なんだか上機嫌だ。ちょろいなこいつ。

「それで、何の用なんだ?ヴァジュラ、お前の杖ならちょっと前に直してやったばかりだろ」

 店長らしい若い男が持っていた工具をヴァジュラに突きつける。そんなに大きいレンチを、一体何の用途に使うんだ?

「いや、今日はこいつだ。――おい坊主、挨拶しろ」

「僕は坊主じゃないですよ……。

 遅れました。僕、イリューシャ・ガッシュトフィルトっていいます。よろしくお願いします」

 ペコリと頭を下げる。

「ガッシュトフィルト?あぁ、領主様か。いつもお世話になってます。第18代〈魔(The Magus)杖〉の[調( of Wand)律]師(Tuner-XVⅢ)、アルヴァロ・ヴィヴィアーニです。当店へはどういったご要件で?」

 良くも悪くもガッシュトフィルト家と民衆は平等なため、街に出てもガチガチの敬語を使われることは無い。住民との距離感がやたら近いのがこの地方都市の特徴だが、本当にこれでいいのか。俺は特段気にしないが……。市民が良いならそれでいいんだろう。実際、ヴァジュラの口は領主の息子に対してかなり悪いし。

「こいつの杖を入手したくてな。今日から始めるから、取り敢えず汎用品でいい」

 ヴァジュラが後を継ぐ。

「汎用品か。それならあそこだな。ちょっと待ってろ」

 アルヴァロ店長はカウンターから出て店の商品棚の前に移動した。エプロンのポケットから鍵を取り出してショーケースを開け、中から数本取り出して鍵をかけ、また別のショーケースから杖を取り出す。

「取り敢えずこんなものですかね。好きなものを選んでください」

 カウンター近くのテーブルに移動し、俺とアルヴァロ店長は対面で座った。ヴァジュラは勝手に椅子を持ってきて、偉そうに脚を組んで座っている。

「えっと……どう違うんですか?」 

 どれも同じに見える。違うのはデザインだが、それも装飾の流線の色や動きが違うだけだ。

「こちらから順に標準魔力量が多い方、平均的な方、少ない方向けの汎用モデルですね。魔術学習の初期段階、まだご自身の特性が把握できていない、または決まっていない方向けのモデルです。イリューシャ君は……魔力量はどれくらいですか?」

 魔力量?何それ。

「まだ測ってはないな。ただ、そこまで多くはないと思うぞ」

 とは案の定ヴァジュラだ。なんとなくむっとした。まだ測定していないのに勝手に憶測でものを言うのは、科学系の人間として許容できない。

「じゃあ測っておきますか。イリューシャ君、利き手出して、テーブルの上に置いてください」

 言われた通りに、右手を出した。

「本格的な測定装置は病院とか学校とかにしか無いから、あくまで就学前の簡易検査だと思ってくださいね」

 カウンター後方の棚からデジタル機器を持ってきた。なんと言うか、血圧測定器みたいな見た目である。

「それじゃ、ここに腕突っ込んで」

 モロ、血圧測定器でした。

 この腕が締め付けられる感覚、どこからどう見ても血圧測定だ。人間ドックを思い出す。

「出たよ。平均魔力量は……182。イリューシャ君、今いくつ?」

「5歳です」

「じゃあ普通ぐらいだね。5歳男子の平均は200プラマイ10から15ぐらいだから、若干少ないけど、まぁ子供だし、コレぐらい誤差だね」

 ヴァジュラ……お前よく分かったな。本当に、少ない側の分布だった。

「魔力量がこのくらいなら……当面はこれでいいかな。これ貸してあげるから、試しに使ってみて。使いやすかったらそのまま買ってもらえばいいし、使いにくかったらまた別のものと変えてあげるよ」

 太っ腹すぎるぞこの店長。アルヴァロ店長……こんな善人が、どこでヴァジュラみたいなヤツと出会ったんだ……。

「ありがとうございます」

 ちゃんとお礼を言って、その魔術杖をもらった。ブンブンと軽く振ってみる。なるほど、芯材となる木材に金属部品を組み付けた構造をしているようだ。この重量感覚……なんだこの金属。金属単体でもなければ、俺が知っている合金の中にも無い。新型の合金なら納得だが。

「おいアル……。お前、そんなことするからこの店が潰れかけるんじゃねえのか?形骸化して100年ぐらいとはいえ、領主の息子だぞ?そこそこの金持ちだぞ?金は持ってるやつから取れるときに取れるだけ取るもんだろ」

「仮にも本人の前でそれを言うかね、お前は。別に構わないさ。初回限定サービスだよ」

「おう?その割には、オレにそんなサービスはしてくれなかったよな?」

「お前いくつだよ。20越えてるだろ?サービスする年齢じゃねえよ」

 俺のいる前でする会話かねこれ。

「ヴァジュラ先生、そろそろ練習に移りませんか?」

 遠回しなストレートを投げた。いつまでも口喧嘩をしてそうな2人だった。

「おう、そうだな。そろそろ出るか。助かったよ。またな」

 片手を軽く振った。なんやかんや言って仲がいいのかもしれない。悪友、っていうやつか。俺には分からない。

 市場の人波を抜けながら、俺はヴァジュラに尋ねた。

「ねぇ先生。先生はいつ、あの店長と知り合いになったんですか?」

「店長……?あぁ、アルか。……ただの同級生だ。中央に行けるだけの学力があったのに、わざわざここにい続けた物好きだよ」

 どこの世界にも、そんなやつが一定数いるらしい。大都市圏へ登った側の俺とは対照的だ。

 ......。うん?今、同級生って言ったか?あの見た目40代の男が、20代後半のヴァジュラと同い年だと?

「意外か?オレとあいつ、同級生だぜ?」

 どうやら表情に出ていたらしい。

「いやまぁ……老け顔の人なんてたくさん居ますから……」

 実際、今世の父ことグウェナエル・ガッシュトフィルトは実年齢よりかなり老け顔だ。本人曰く37歳らしいが、50代後半以降にしか見えない。

「そんなことはどうでもいいんだ。とっとと帰って練習始めるぞ」

 そうこうしているうちに駐車場にたどり着いた。


ルビ10文字までしか設定できないの辛い……。

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