§.01 Broken everything
数日後、俺は学院の医学部に担ぎ込まれ、ベッドで安静を命じられていた。それもそのはず、肋骨が3本折れ、肩を脱臼、全身に打撲、おまけに擦り傷と切り傷だらけ、極めつけはAED攻撃の弊害で俺にも除細動が必要だったことか。
挙げたらきりがない。
そして暇を持て余していると、不意に来客が来た。誰だろう、と思って入室を許可する。
扉を開けて入ってくる人物に、俺は目を剥いた。
「学院長!?」
ロシュフォール・オックスフォード、その人だった。
「元気にしてるかね、Mr.ガッシュトフィルト」
彼は平穏そうな声質。何故来たのか分からない。見舞いのつもりなのだろうか。
「ええ、まあ……はい。おかげさまで」
気の利いた返事ができたらなぁ、とつくづく思う。これではただの転生した中間管理職だ。
「私から君に、どうしても直接伝えたいことがあってね。少し長くなるけど、時間いいかな」
「いいですよ。俺、どうせこのままなので」
「よかった。それでは、まずは君の栄誉からだ。学院を急襲した反社会的組織に対処したこと、そしてそれが指名手配中だったグレイヴェール・アゼックライトとファルシオス・サヴァンディの2人だったこと。警察庁と法務省、それに魔術局から感謝状と報酬が届いている。授与式には、学生だということで代役を立てた。報酬は君の銀行に振り込めばいいかな?」
なかなか手際がいい。
「はい。俺の口座にお願いします」
「分かった。数日以内に振り込まれるはずだ。退院したら確認してくれ。それと、」
ここで、声音ががらっとひっくり返った。
「ここからは君の処分だ。Ms.アルトロイトやMr.アルバックの証言によると、どうやら君のせいではないとはいえ、コロッセオを破壊したこと。間接的な理由は君だからね。きっちりと処分を受けてもらう」
「しょ、処分ですか……」
聞きたくない言葉だ。いやまあ、学院の施設を破壊した原因を作ったのだから、当然といえば当然なのだが。
「ああ。スターリィ王立魔術学院は、本校の生徒、イリューシャ・ガッシュトフィルトに対し、”十分な時間”の出席停止処分を命じる。この時間は、学院が指名した人物の裁量に従う。右、――」
最後に読み上げられた人名、それは今俺の担当をしている外科医だった。
「学院長。それは……」
「出席停止処分だ。それ以上でも、それ以下でもない。……しっかり傷を治して、それから授業に戻りなさい。私のお説教はこれだけだ。……ああ、そうだ」
終わると思いきや、また続けるらしい。
「これ以上、君だけの中に抱え込まないように。私たちなら、多少は力になれるかもしれないからね。子供であれ大人であれ、我々教員は生徒を守って当然だ。それが、モラトリアムへの滞在を許された者たちへの、当然の権利なのだからな。それと、何かあったら私たちに頼りなさい。君たちはまだ学生なんだから、大人の私たちを遠慮なく使っていいんだよ」
傍から聞いたら、かなり恥ずかしくなるような、青臭いセリフだ。ただ、それを初老に手が届くようなこの人が言うのだから、返って様になっている。
「……善処します」
他にどんな返し方があっただろうか……。
それから数週間が経ち、ようやく退院許可とともに出席停止処分が解除された。とはいえ、しばらく運動は禁止されたし、バイクにも乗れない。それどころか、コロッセオに置いてきたバイクが心配だ。外科医に尋ねたところ、
「あのバイクなら、学院で保管してあるよ。乗れるようになったら返してあげる」
と返ってきた。
仕方ないので、歩いて露天市まで行くことにした。
秋も深まり、少しずつ気温が低くなっていく。だというのに、露天市は活気で暑苦しかった。薄手のコートを着てるから当然っちゃ当然か。
のそのそと、サクヤを連れて歩く。いつもならハイテンションで俺を苦しめるサクヤも、今日は空気を察して黙っている。
そのまま市場の外れに来た。相変わらず人気のないエリアに、ぽつんと彼女の出店がある。
「よう、シャルさん。剣を返しにきたぜ」
レザー製の袋に入れた剣を、少女の店長に手渡す。
「それと、1つ謝りたいんだ。――すまなかった。せっかく預かった試作品、壊しちまった」
袋から剣を抜いて、どんな壊れ具合か確かめたシャルさん。まさかばらばらになっているとは思わなかったようで、目をまん丸にして驚いた。
「これ、一体どうしたらこうなるの!?」
「電気を通して、こう……。悪いやつを倒すのに使ったんだ」
すると、剣の壊れ具合からどんな用途に使われたのか分かったらしく、微笑を浮かべて言うことには。
「それぐらい分かるよ。――誰かを守るために使ったんでしょ。誰かを守るためなら、剣として、鍛冶師として本望だよ」
それに、これは試作品だから壊れてくれないと改良場所が分かんないし、と付け加える。
「そうか。……次は気を付ける。またテストしたかったら、いくらでも付き合うぜ」
「うん。……じゃあね」
その日はこれで、市場を後にした。




