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ファルトゥスの護衛官(仮)  作者: 北上輝月
Episode;05/ At the End of the Projection.(投影の果てに。)
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§.06 Hrunting-Dainsleif; The Demon Sword of Star-Eater

 ファルスの【束縛】に従い、ティアは浮き上がった。さすが悪魔、空を飛ぶくらい朝飯前らしい。


 無言で、正拳突きを繰り出してきた。それも空中で、正確にあたしの胸を狙って。大急ぎで剣をクロス、拳を受け止める。

「ティア!何のつもり!?――答えて!」

 必死に呼びかけるも、応答はない。それどころか、焦点の合わない目であたしを見つめ、ただ無言で襲い掛かってくる。

 剣で拳を弾いた。体勢が崩れ、双方距離を取る。今度は斬りかかった。拳で防がれる。また斬りかかり、今度は拳が顔に飛んできた。寸前で剣でいなし、攻勢に転じる。しかし器用に、魔力フィールドを張って剣から身を守っている。さすがティアだ。

 ――これで、ティアを殺す心配はなくなった。


 地上で見ていたファルスが、相も変わらず高々と叫ぶ。

「ああ、これこそが、僕が見たかったものだ!信頼のある2人が引き剥がされ、一方は精神支配を受けている!他方の説得は届かない!」


 ああもう、五月蠅い。気が散るじゃないの。

「喋らないで。――あなたの声なんか、二度と聞きたくないわ」


 最大級の侮蔑をぶつけたはずだったのに。

「その目!その声!――ああ、なんと狂おしいものか!いいぞティア、もっと壊せ!」


 ――その名前を呼ぶな。この変態野郎が。

 ふつふつと怒りが湧いてきた。もうこいつを許したくはない。だが、ここで怒りに任せるのはあいつのどつぼにハマることに同義。

「ティア、早く楽にしてあげるから――少しだけ、痛いけど我慢して」

 2本の剣のうち、1本を上空に投げ上げた。残る1本をティアに向け、最大速度で突っ込む。

 斬りかかった刃は、案の定フィールドに阻まれた。ノックバックがあたしとティアを襲う。ただ、これも読みのうち。

 あたしは上から襲い掛かり、上空に反動を逃がした。対するティアは下方。であれば、重力に従って落ちていくのは当然。


 残る1本、オリジナルの杖剣に魔力を流し込む。使うのは覚えたてのこれ。本来なら使用には魔術師の資格が必要だけど、今は緊急時だ。学院長が書類でなんとかしてくれるだろう。


【闇を払え、(クレイヴ・)高貴たる粲然(ソリッシュ)】!」

 放たれたのは、星を救う聖剣――と言われた光、その再現。あたし程度の技量では劣化版でしかないけど、本来のティアならまだ知らず、今のティアを墜とすにはこれだけで十分だ。


 遠く地上で、ファルスが驚きに顔を染めているように見えた。いい様だ。あいつには狂言がよく似合う。見たいとは思わないけど。


 狙い通り、魔力フィールドごとティアに命中した。フィールドを焼き尽くし、床に落下する。

 そして、柄を下に向けて落ちてきた剣を掴む。重力加速度が相まって、相当の質量兵器になっている。指先を触れさせ、軌道修正。剣はティアの額に落下し、ティアは一度気絶した。


 静かに地面へ舞い降り、隣に座る。あたしの使い魔である悪魔の肩を揺らした。

「ティア。起きて。……今すぐ起きて」

 【束縛】の支配から逃れるためのリセットとして、かなり計算して剣を投げ上げたはずだ。ぶっつけ本番だったけど、失敗しているはずがない。

 しばらく揺らしていると、ティアがようやく目を開けた。

「んん?……アタシ、一体何してたんだ?」

 どうやら、ファルスの支配下にあったことを覚えていないらしい。それはそれでありがたい。

「あいつの攻撃を受けて、少し気絶してただけよ。――それよりティア、早く立って」

「そうか。――そりゃ、すまねえ。アタシも今から復帰……。おい、フィリア。その傷はなんだ?」

「傷?」

「顔にある。……誰にやられた?」

 恐る恐る触れてみる。――鈍い痛覚が走った。無我夢中で戦ううち、無意識のうちに傷が走ったようだ。

「正直に言うわ。――あなたよ、ティア。あいつに精神支配されたティアが、あたしと戦ったときの傷、だと思う。」

「そうか。アタシが、あいつの支配下に。……フィリア。あいつはアタシが倒す。そこで待ってろ」

 怒気を湛えた表情のティアに、すっかりこちらも気後れしてしまう。

「なに、心配すんなって。アタシだぞ?〈神殺しの大悪魔(テアマート)〉を、舐めるんじゃない」


 その言葉を聞いていたらしく、ファルスはまた上機嫌。

「〈神殺しの大悪魔(テアマート)〉!まさかの神話の悪魔か!――どうしてこうも、君は僕を愉しませてくれるんだ!?精神支配は解除しちゃうし、どうしてこうも僕のいいなりになってくれないんだ!」

 ちっとも悲しがっているようには見えない、むしろこの状況を愉しんでいるようだ。

「ティア、好きにしていいわ」

 もう、こいつとは付き合いたくなくなった。


「任せとけって。アタシの、オトシマエをつけなきゃ、気が済まねえんだ」

 一歩ずつ、ファルスに向かって歩みを進めていく。


「――【命果てよ(フルンティング・)、――剣尽きるまで】(ダインスレフ)

 ティアが地面を蹴る。瞬間、彼女の手に“剣”が生み出された。地面を蹴るたびに魔力を吸い取り、少しずつ、確かに大きくなる。

 いや、違う。

 あの“剣”は。

 剣、と呼ぶには――あまりにも大きすぎ、重すぎた。

 柄を挟むように両側に剣が作られ、刃の一部はグリップガードを形成している。

 ティアの後方に伸びる刃は徐々に長くなり、ついに目測で彼女の身長を超えた。

 まだ、長くなるのか――。


 ファルスが意を決して、

「【環境束縛】!」


【その剣は届かない。誰にも、いつでも、絶対に――】


 と法則を【束縛】する。


 瞬間、脚を停めたティアが叫んだ。

「【束縛】ごときで……届かねえ剣じゃなねェんだよ!あいつの……あいつの、最期の剣は!」

 叫ぶと同時に、“剣”を振る。振る間も剣先は伸び続ける。そして……


 血飛沫が舞った。

「――は、?」現状が理解できないのはファルス、ただ1人。

 それもそのはず。誰にも、この星すら抗えないはずの【束縛】に、たった1000年と少し前程度の“神殺し”が、しかもその弱体化版が――打ち破ったのだから。


【命果てよ(フルンティング)、剣尽きるまで】(・ダインスレフ)……星喰の魔剣、か。――まさか、現実で見るとは、ね……」

 ファルスが斬られた直後、あたしの足は復活した。炎の翼を解除し、剣を構えて地面に転がるファルスに突きつける。


「はは……。君たちは、本当にどこまでも僕の想像を超えてくる。――愉しませてもらったよ。また、会おうじゃないか」

「こっちからお断りよ。――次は無いわ」

 冷徹なあたしの声を聞いて満足したのか、ファルスから、目の光が消えた。どうやら、気絶したようだ。


 “剣”を携えたまま、ティアは直立に戻った。長い方の切先を地面に突き立て、その“剣”を眺めている。

 さらさら、と“剣”がアキュシュニウム粒子へと還元され始めた。黄色く淡く光る粒子へと“剣”が呑み込まれ、徐々に短くなる。

 黙りこくっていたティアの口が、ようやく動いた。

「――助かったよ。ありがとう。ゆっくり眠れ。

 ――名も知らぬ魔術師」

 誰に対してその感謝を告げているのか、今の俺には分からない。本人に聞くことではないだろうから、これから彼女に尋ねる予定もない。それでも、

 ――彼女は笑っていた。きっと()()は、彼女にとってかけがえのない存在なのだろう。命を助けてくれた関係か、はたまた命を奪い合った関係か。それも分からない。

 分からなくたっていい。彼女の思い出は、彼女だけのものだ。あたしには関係のないものだから。


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