§.05 Mental Control
「それに、寝転がった状態でどう勝つつもりなのかしら?……剣はなくても、あたしにはこの身体がある。――勝てると、本気で思ってるのね?」
盾を突きつけ、起き上がるのを警戒する。むやみに押し付けて接触して、よからぬことになるのを防ぐためだ。
「っは!……君が!僕に!勝つだぁ?……冗談じゃない、それは一番つまらない!」
またも絶叫したのち、
「【行動束縛】!」
【フィリア・ファルトゥス=アルトロイトは、ファルシオス・サヴァンディと目を合わせない!】
「何を……!?」
目が見えなくなった。いや、ファルスの姿が消えている。視界に入れようとするたび、眼球が脳の命令を拒否している。
さらに追い打ちをかけるように、
【フィリア・ファルトゥス=アルトロイトは、地面に立てない】
母なる大地を束縛し、あたしは足から崩れ落ちた。
「立てない、か。――厄介ね」
地面に這いつくばる姿は、これこそ無様な姿そのものに見えるだろう。ただ、戦闘は、必ずしも地面に立ってやるものではない。
「ティア。……空」
「あぁ?――そういうことか。いいぜ。アタシはこいつを引き留めておく。この盾借りるぞ」
ティアに盾を与え、あたしは魔術の構築を始めた。
ティアの戦闘技術は凄まじい。悪魔なだけあって、基礎体力は人間を遠く引き離しているし、リーチも長い。そもそも相手が相手なので、本来なら数秒で打ちのめしているはずだ。
本来なら。
【束縛】でティアの攻撃を避け続けるファルス。ついには【盾は殴るものじゃない】と言い出し、ティアに盾を投げ捨てさせた。
「第1階層……〈現象〉
第2階層……〈上昇〉
第3階層……〈増大〉
第4階層……〈火/雷〉
第5階層……〈維持〉
第6階層……【灼熱の紅翼】」
あたしを包むように、炎の翼が形成された。背中から直接生えているわけではないが、2対4枚、地面に立てない足の代わりに宙に浮かぶ。
「【複製】」
そして、杖剣をコピーし、二刀流にした。あたし専用にチューニングが施された長剣。魔力コンデンサまで埋め込まれた、唯一無二の武器だ。
剣も盾も効かないなら、炎で焼きつくしてやればいい。目で見えないなら、炎の揺らぎで間接的に見ればいい。
対処法はいくらでもある。
そう考えると、自信が湧いてきた。きっとイリヤならこう言うだろう、と思うと視界が広がる。
「――いける」
空を蹴り、空中からファルスに剣を向けた。そして、大量の炎弾を生成、撃ち出した。
炎の雨霰を見て、ファルスは叫ぶ。
「【環境束縛】!」
【大気中の水よ、氷壁となれ】
あたしとファルスの間に氷の壁が生まれ、全ての炎弾が防がれた。
「氷で防がれるなら、もっと熱を上げるだけよ」
翼をはばたかせ、地面の小石を巻き上げた。熱を加えてあげれば、溶けて――マグマになる。
「行け」
マグマの弾丸が氷にぶつかる。じゅうじゅうと氷を融かし、やがて抜けた。
【大地の土砂よ、壁となれ】
ファルスは大地を【束縛】し、土の壁を作る。土なら燃えないと思ったのだろう。
「甘いわね。……地球科学を学び直しなさい」
マグマの熱を侮るなかれ。土など恐れる敵ではなかった。
ティアとタイミングを合わせ、ファルスをめがけて突進した。あたしは上空から急降下し、ティアは地上をダッシュする。
一足先に、ティアがファルスに組み付いた。首元をつかみ、地面に叩きつける。
「がはっ……!」
吐息が漏れ出た。首元を締め付けられ、ティアの長身によって空中に掲げられる。
「おい、若造。……ファルスとか言ったな。たかが人間風情で、アタシに勝てると思ったのか?」
その言葉を聞いて、ファルスは態度を豹変させた。
「その言い方、それにその溢れ出る魔力の質……。そうか!君は人間じゃないのか!あぁなんてことだ、ちくしょう!ファルトゥスなんかより、こっちのほうがずっと重要じゃないか!もうこんな封印なんか要らないなぁ!――蠢け、セイレーンの声帯!」
喉元の布を破り捨て、言葉を続けるには、
「いいか、人間モドキの女!よく聞け。【精神束縛】」
続く言葉に、あたしは正気を疑った。
【お前は俺の支配下にある!】
瞬間、ティアが眼の光を失った。そっとファルスを床に下ろし、あろうことかあたしに立ちはだかる。
「ティア。何のつもり?」
語気を強めてみたが、音沙汰なし。
「ティア、とか言ったな――【行動束縛】」
【フィリア・ファルトゥス=アルトロイトを倒せ。なるべく殺すな】




