§.03 EXCALIBUR; The Counterfeit Sacred Sword
手に持っていた、ブッシュマスターⅡが捻じ切られた。
「ヘルファイア!」
対戦車ミサイルを【投影】、グレイに向けて撃った。ただ、それも破壊される。これより破壊力があって、俺でも扱えるものといったら、JDAMか、それとも……。
頭の中に、諦めがよぎった。そんな気がした。
「――ちゃ、ダメ!」幼い女の子の声が、遠くに聞こえるようだ。……幼い女の子?
「パパ、諦めちゃ、ダメ!」
今度ははっきりと聞こえた。これは結希の声だ。かつての俺が愛していた、たった1人の愛娘だ。
直後に、現実に引き戻された。ユーヴェインが「諦めるな!」と珍しく檄を飛ばしながら、自らグレイに接近戦を仕掛けていた。剣の投射と、手持ちの剣による多層攻撃。俺とグレイの間に立ち、侵攻を食い止めていた。
「……ごめんよ、結希。今度は、絶対に諦めないからな」
口の中でつぶやく。不思議と、活力が湧いてきた。
「剣一本、出して!」ユーヴェインに告げる。意図を汲み取ったのかは分からないが、こちらに向かって、柄を向けて飛んできた。
新たに、GAU-8 アヴェンジャーを【投影】した。撃つのは1回きり。柄を踏んで跳び上がり、上空から狙いを定める。復讐者が、憤怒の怒号を鳴り響かせる。
案の定、弾丸はつぶされた。だが、次はどうだ。
「くたばれ!」
アヴェンジャーの銃身で、頭を思いっきり殴りつけた。ごすっ、と鈍い音がした。銃本体で300キロ弱、システム全体だと2000キロ近くまで及ぶこの航空機関砲の直撃だ。仮に頭に触れた瞬間、【暴走】で銃を破壊したとしても強烈なノックバックは消せないはずだ。
狙いは半分当たり、完全に倒すことこそできなかったが、足をふらつかせることはできた。
これで、突破口は開けた。こいつに効くのは物理攻撃だ。銃でも剣でも、レーザーでもない。
ユーヴェインとサクヤに指示を出す。特にサクヤには、グレネード弾の【投影】と投擲も行うよう命じた。
剣を複数本重ねただけの重い剣、これをグレイに投射するユーヴェイン。一種のエアバースト弾と化した剣は、足止めをするにはもってこいだ。
剣の間をすり抜け、徒手空拳、ナイフ、拳銃によるCQCに持ち込んだ俺は、グレイを相手に――普通に押されかけていた。
まず、体格が違いすぎる。こいつは俺よりも身長が高い。ただ、それごときで負ける俺ではない。フィリアにできたことが、俺にできないことはないはずだ。
身体の急所を集中的に攻撃した。眉間はまず届かないが、喉仏、顎、首、心臓、肝臓に突きやアッパーを食らわせ、膝や太もも、脛に蹴りを入れる。ただ、攻撃は十分に届かない。摩擦力が邪魔をしていた。それに、俺に攻撃が入らないなんてことはなく、グレイの反撃や大気の摩擦力の【暴走】による攻撃を食らい続けた。
もう、何度殴り、殴られただろうか。感覚で、もう肋骨あたりはやられている。膝や肘が壊れるのも時間の問題だ。
ふと、あるアイデアが脳内に躍り出た。一体なんだったんだ、と一瞬忘れて――稲妻が走り、そのイメージが明確に撃ち出された。
稲妻だ。電気だ。人体は電気を多少なら通す。しかも、常時微弱電流が流れていて、それは誰一人例外などない。
いける。これなら、こいつを沈黙させられる。これでダメなら、もう自爆しか打つ手がないが、それよりはマシだ。
急いでバックステップを取り、ユーヴェインの所に戻る。
「なあ、ユーヴェイン。【闇を払え、高貴たる粲然】は使えるか?」
静かに尋ねたところ、まさに理想的な回答を得た。
「法的には無理だけど、技術ならあるよ。……何をするんだい?」
「今から、俺が言う言葉を一言一句真似て【闇を払え、高貴たる粲然】を撃ってほしいんだ。できるか?」
「やったことはないけど、やってやるさ」
「頼む。ユーヴェインにしか、できないはずだ」
そう言うと、ユーヴェインはイケメンな笑みを浮かべて言う。
「その言葉、ありがたく頂くよ」
「そうこなくっちゃな」
豪華な装飾が着いた剣を1本引き抜き、頭上に剣先を向けて担ぐ。
まずは、俺の指示。
「身に纏うは、星の息吹……」
続いて、ユーヴェインが詠唱する。
「身に纏うは、星の息吹。」
さらに続く。
「「剣に包むは大地の叫び!」」
「――吠え尽きろ、【約束された――」
「「勝利の剣】!」」
かつて少女騎士が夢見た、星を救う聖剣。俺の知識から引き上げただけの模造でしかないし、なんならこちらの世界に選定の剣伝説は存在しないはずだ。俺の知る限り、は。
猛烈な光の束の中を、俺は全速力で駆け抜ける。片手には、シャルさんから借りた杖剣を逆手に握って。
グレイの顔が、完全な驚愕になっていた。それもそうかもしれない。【闇を払え、高貴たる粲然】だけなら、まだ常識の範囲内だ。
そこに、聞いたことがない詠唱を使う。まず、混乱することは確実だ。おいうちをかけるように、ビームの中を走り抜ける。光の束がスタングレネードを代用し、目を焼いた。サクヤのグレネードの対処に追われていたグレイの対処能力にほころびを作る。
「【電磁気砲】!」
杖剣に稲妻を纏わせた。大電圧がかかり、放電を今か今かと待ち望んでいる。絶縁体の手袋を【投影】しているとはいえ、こちらにも少しずつ電圧がかかり始めているようだ。手の先から少しずつ、しびれ始める。
腕を最大に伸ばし、杖剣を突き刺した。電位がより低い物体――今回はグレイ――に向かって電圧は駆け抜ける。体内電流が存在する以上、見分けがつかなくなって、この電磁気力を【暴走】させることはできやしない。
普通の人間にAEDを使用するようなものだ。心臓に大電圧が加わり、本来なら異常な動きをリセットするための除細動が、正常な動きをリセットしてしまう。――つまり、強制シャットダウンだ。
俺の読み通り、心臓ショックでグレイは気絶し、結果的に勝利を得た。
……のだが、しばらくして、俺もまた、電気ショックでぶっ倒れた。




