§.02 Rest In Peace.
そして、
「――フルスロットルでいくよ、イリヤ」
「よし来た。――遠慮は要らねぇ」
剣の投射速度を大幅に上げた。VLSはすでに飛び越え、CIWSもかくやの発射密度。俺とサクヤの隙間をすり抜け、グレイを目掛けて襲い掛かる。
常に挟撃できるような位置取りを確保し続け、重機関銃による攻撃を加え続ける。――それでも、火力は叩き落されるばかりだった。重力を【暴走】させて弾丸を落下させたり、電磁気力を【暴走】させて弾丸を空中分解させたり、極めつけに大気中の摩擦力を【暴走】させて弾丸を空中停止させている。
それら一切を、涼しい顔でやってのけている。
「ほら、もっと本気を見せたらどうだ?――私の賞賛を返してもらうことも可能だが?」
「誰がてめぇの賞賛なんか!」
軽口ならいくらでも叩けるが、見せかけのこけおどしにしかならない。片方のM2に遅延型の魔術を書き込み、地面に突き刺した。――これで、俺が命令を出せばすぐに動き出すはず。
「ユーヴェイン!」
また叫び、グレイを挟んでユーヴェインの向かい側に走った。撃ち出された剣のうち、グレイを飛び越えたものを1つ、柄を掴む。加速で肩が持っていかれそうになるが、M2を片手撃ちする肩が、マッハの剣を掴めないはずがない。
「ぬぁあああ!」
逆向きに持ってきて、グレイに斬りかかった。どうやらこれは完全に意表を突いたらしく、防御が一瞬遅れた。剣は強い力の【暴走】に遭い、弾け飛んだ。だが、俺の本命はこっちじゃない。
剣で切りかかると同時に、M2を突き出して撃った。2発目以降は破壊されたものの、初弾は確かに、彼の腕に当たった。
グレイの顔に、痛覚が走った。
「そうか。……これが、今の魔術師か。俗世から離れると、どうしても常識を更新できなくなって困る。いいだろう。これこそ、対魔術師戦というものだ。非魔術師は魔術師に強く、魔術師は非魔術師に強い。互いが互いの弱みを付け狙い、強みでもって相手を殲滅せんとする」
グレイは演説を展開しつつ、迎撃の手を止めない。
発射レートをさらに上げ、もうM2の上限に達した。これ以上は、火力の向上を見込めない。――【投影】、ブッシュマスターⅡ。
30ミリ口径のクサリヘビが1匹、猛毒をまき散らす。タングステンの徹甲弾を吐き散らし、飽和攻撃で、一発でも迎撃できなくなる可能性に賭けている。
「だからこそ、私は君たちを賞賛しよう。相手の弱みを見つけ、君たちの強みで一点突破する。それが王道にして覇道だ!」
高らかに宣言した。……今だ。
「――ファランクス!」
先ほど突き刺したM2が変形し、俺の魔力を遠隔で吸い上げ、大きく成長した。
Mk.15 Phalanx、或いは高性能20mm機関砲。世界で最も採用されたCIWS、通称バルカン・ファランクスだ。
グレイがファランクスを背後にして立つよう、必死に誘導した甲斐があった。
毎秒60発のタングステン徹甲弾が、グレイの背中を狙い撃つ。対空機銃の発展形とはいえ、生身の人間に撃てばひとたまりもない。
そう、近代兵器を過信していた。前世の知識と、今世の傭兵技術が、確かにそう言っていたからだ。
「マスター!」
サクヤが叫び、慌ててバックステップ。俺が立っていた場所には、バルカンの砲身が引き剝がされて突き刺さった。見ると、ファランクスは見る影もなく破壊されている。
「嘘……だろ……?」
握りつぶすだけじゃなくて、解体までできてしまうのか。
「私をここまで追い詰めたのは、君たちが……ええと、6人目だ。いいだろう。聖体遺物の本領を発揮する時が来たようだ。こぼれ出る残滓によくぞ耐えきった君たちに、盛大な賛辞を送ろう。そして……Requiescat in pace.」
R.I.P.が宣言される。
「そうかい。てめぇには残念だが、実力を持って排除せよ、と上から命じられてるんでね。――お前にゃ悪いが、ここでレッドカードだ」
煽り返したところ、彼の姿に直ちに変化が起きた。
グレイの腕には、白い布が巻かれていた。上着の裾からちらちら見えるこれを、俺は強化用の護符かと思っていたが、どうやら逆のようだ。……封印器具だ。
その布がするすると解け落ち、地面に落ちた。ぼう、と不気味な色で燃えたそれは、大気中に禍々しい魔力を満たして消える。
「レッドカード、か。笑わせる。……テュールの右腕、ヌァザの左腕……封印解除だ。存分に暴れろ」
テュールに、ヌァザ。どちらも、隻腕であることが有名な神々の名だ。であれば、あの両腕は、失われた神々の腕でもあると言いたいのか。……気色悪い発想だ。
「趣味悪ィ名前だな」
思わず、口を破ってそんな言葉が飛び出した。
そして、横方向に吹っ飛ばされた。
「かっ……!?」
壁に叩きつけられる。こちらに明確な殺意を向けたグレイが、一歩、また一歩と歩みを詰める。
「私を侮辱するのはまだいい。ただ、この腕を授けてくださった上席の方々、なにより神々を侮辱することは……断じて許さない」
静かに怒っていた。言葉の端々から、明確な怒りが伝わってくる。ある種の懐かしさがよみがえった。アガタルキデスにいたとき、こんな風に怒る先生がいたものだ。




