§.01 The Hollow Down
結界の中、俺は小銃を突きつけながら大柄な男に告げる。
「グレイヴェール・アゼックライトだな?――それと、お前はファルシオス・サヴァンディ。違うか?」
銃口が顔を向いているというのに、微動だにしない。こいつ、精神がかなり強い。
「――ああ、そうだ。私がグレイヴェール・アゼックライト。そして、」
「僕がファルシオス・サヴァンディ。一体どこで、それを知った?」
怪訝そうな彼らに告げる。
「いや、情報通な知人がいてね。対価に、君たちの情報をもらったんだよ。……悪く思うなよ」
「悪くなんて思わないさ。僕たちも有名になったもんだ。……なあ、グレイ」
ファルスが軽口を飛ばす。
そんな中、たった1人、驚愕を隠せない者がいた。――まさかのフィリアである。
「グレイヴェール・アゼックライト、それにファルシオス・サヴァンディ。――あなたたち、まさか……。
まさか、元〈円卓の魔導師〉、ね?」
驚いてはいるが、声が裏返ってはいない。それもそれですごい。
「知ってるのか?」
フィリアに目を向けず、声だけで尋ねた。
「知ってるも何も、数年前にスクープになったわ。……覚えてないのね」
ごもっともで。見事に忘れてしまった。
「今から教えてあげるわ。……彼らは、〈円卓の魔導師〉でありながら反社会的勢力と繋がっていた、その疑いで追放されたのよ。魔術師資格の剥奪とセットでね」
「そりゃどうも。……でもどうせ3時間後には忘れてる」
「どうやら、思った以上に私たちは有名になっていたようだな。女。……追加情報をくれてやろうか」
「結構。あたし、ゴシップは嫌いなのよ」
「全く。口の減らぬ女だ。……ファルス。こいつもまとめて片付ける。お前はあの女をやれ。私は残りをする」
グレイの指示に従い、ファルスが動き出す。
「わざわざ戦力を分けてくれるのか?……ありがたいことだ、後で口先八丁を悔やむんだな」
俺も俺で煽り返す。
「口が減らんのはお前もか。……いいだろう。まとめてかかってこい。相手してやる」
俺とユーヴェインとサクヤ、そしてフィリアとティアに分かれ、決戦になる。
親切なことに、フードをとって顔を見せてくれたグレイに相対する俺たち3人。
ユーヴェインに近づき、耳打ちする。
「どこまでも精密攻撃できる?」
「視界距離ならほぼ当たるよ」
十分な攻撃能力だ。
「ユーヴェインは後方から精密攻撃、サクヤは俺と撹乱。……いいな?」
2人の返事を聞いて、俺は20式小銃を2丁、投影する。サクヤと共に駆け出した。
弾幕を張る。まさか銃火器を撃ってくるとは思わなかったようで、一瞬目が開いた後、魔力フィールドを張って弾幕から身を守った。
「くだらぬ!今の魔術師は、ついにここまで落ちたか!?」
唐突に叫びだした。
「知るかよ!てめぇのステレオタイプなぞ、とうに滅んでらぁ!……サクヤ!」
「はい」
無言で炎弾を撃つ。これぞまさしく無詠唱魔術。魔術のイメージを脳内で強く描けない限り使えない、ひどくピーキーなものだ。
サクヤはAI、つまり一度記憶すれば絶対に忘れることはない。
銃弾と炎弾に挟まれたグレイは、はっきりとこう言った。
「無詠唱魔術、か。......男。それはお前の使い魔だな?であるのなら、話は別だ。お前は優秀な魔術師だ。名前を聞こう。忘れていなければ弔ってやる」
「そりゃどうも。……だが、俺は魔術師である以前に、一介の傭兵風情でね。弔ってもらう名前は持ち合わせてねぇんだ。それに」
「俺はもう二度と、誰かから弔いを受けるわけにはいかない」
さらに弾幕を張る。
それでも、被弾するそぶりを見せないグレイ。一体何を隠しているのか.......全く見当がつかない。
「ユーヴェイン!」
「【射出】!」
背後から剣が複数、まとめて撃ち出された。マッハで飛ぶロングソードは、寸分たがわずグレイに着弾――
しなかった。
直撃する寸前、何か大きなものに掴まれたように空中で静止し、握りつぶされて落下した。
「な、なんだよ、あれ……」
引き金の指が止まる。フィリアの対応能力も、ユーヴェインの飽和火力も見てきたが、こいつは別格だ。攻撃が――通じていない。
まるでこちらを嘲笑うかのように、グレイがにやついた。
「そうか。――お前は、私を知らないのだったな。天界の門番との、雑談の種をくれてやろう。――私の魔術は【暴走】だ。この世にあまねく存在する全ての力を暴走させ、オーバードライブを引き起こす」
自分の情報を開示したこと以上に、その中身が恐ろしかった。この世に存在する、全ての力。基本相互作用である重力、電磁気力、強い力、弱い力。そして、それらの派生である磁力、引力、慣性力、摩擦力、弾性力。
力が働かなければ、相手に攻撃を与えることはできない。
「ああそうかい。……じゃあ、こっちも火力を上げるだけだ!――ブローニングM2!」
20式小銃を消し、代わりに12.7ミリ重機関銃M2を出す。この相手に、MINIMIでは力不足だ。破壊力が足りない。
両手にM2を構えて、撃つ。恐らく、陸軍関係者が見たら卒倒するだろう。それぐらい無茶をしないと、恐らく話にならない。
サクヤも、炎弾に加えて氷塊、風の刃、呪いの弾丸――そして、地面から生やした流体の槍で、グレイを追い詰める。




