§.07 I have nightmares just when I've forgotten about them.
バイクに乗ってコロッセオから離れ、本舎に戻った俺である。
正直、どこにいるのか、何をしたいのかが分からない〈虚ろなる暁〉を探すのは手間だ。神――〈裁定の機構たる男神〉と言ったか。あいつに聞いても「私の権限では、そこまで把握できない。アカシックレコードへのアクセス権は持っているが、そこに記載されるのは数日後の未来までな上に、本人の意識は記載されない。ただただ、事実が淡々と残るだけだ」としか帰ってこないのだ。
この文化祭の警備として雇われたというガッシュ傭兵を使って〈虚ろなる暁〉を探す、という手もある。ほぼ全員と顔見知りだから、多少は融通が利くはずだ。
ただ、それもどこまで使えるか。今のガッシュ傭兵は、会場警備の軽装備でしかないのだ。持っている最大火力はオートマチック拳銃。機関銃がなければ、彼らを戦力に迎えることはできない。よって、俺がやるしかないのである。
ただ、一応「怪しい格好や行動を取っている人間を複数見つけたら、俺にも伝えて」とは言っておいたから、通信網としては有用なのだが。
うーむ。本当に怖い。
どうしたものかなぁ、と思いながら校舎内をうろついていた。次の丁字路で曲がろう、と思ったとき。
ふと、壁際に目が留まった。見慣れない制服の女子生徒だ。なぜ、人の少ないここに要るのか、と思った。直後、ああ文化祭だった、と思い出す。ということは……迷子なのか?
「やあ。一体ここでどうしたの?」
とりあえず、声をかけることにした。流石に無いと思うが、ここで野垂れ死ぬと大問題になる。
端末を握りしめた彼女は、俺の声を聴くと怯えたように肩を震わせた。俺を怪しい者だと思っているのだろうか。失礼な話だ。
「ここに来る人は少ないぞ。……誰かを探してるのか?」
無言で、首を縦に振る。やっぱり迷子のようだ。
「そうか。……もう大丈夫だ。探しているのは友達?」
首肯。しばらくすると。
「はっ……、はい……。わたしの、友達です……。一緒に来てたら、はぐれちゃって……ッ!」
半泣きになる彼女。頼むから泣くな、俺が泣かせたみたいになっちゃうだろ。
「あ~、大丈夫だ。……だから泣くな、とは言わないから……とりあえず落ち着け。落ち着いたら、一緒に友達を探しに行こう。な?」
ぐずっと洟をすする音が聞こえた。背中をさすり、落ち着くのを待つ。
なんやかんやで10分くらい経った気がする。ようやく落ち着いた彼女と一緒に、友達と端末で場所を聞いてそこまで向かうことにした。場所を聞いて仰天、隣の校舎だった。
友達に迷子の少女を引き渡し、一息。直後。
――本職忘れてたァ!
大急ぎで見晴らしがいい場所に行き、怪しい者がいないか探してまわった。俺が一番怪しいのは十分わかっているのだが。
あれから1時間が経過し、無事に天覧試合が始まりました。記念すべき初戦は、1年の部の準決勝。フィリア様とユーヴェイン様の対決です。
双方の名前が読み上げられ、来賓が座る向きに一例。試合開始が告げられる……はずでした。
大きな音とともに、試合場と外部とが繋がる扉が開き、2人組が入ってきました。悪びれるそぶりもなく、さもいて当然だと言わんばかりに。
大柄の男は、試合場にいる人たちに向かってこう言い放ちました。
「ここにいたのか。――探したぞ」
現実に戻った審判が、彼に警告を鳴らします。
「あなた方は誰ですか?――部外者は立ち退きなさい。」
その後、審判は膝から崩れ落ちました。見ると、大柄な男が肩に手を置いています。さしあたり、エナジードレインでしょうか。
そして、やせぎすな男が続きます。
「僕たちが用があるのは君だ。――ユーヴェイン・アルバック」
――〈虚ろなる暁〉。確信しました。私はただちにマスターに一報を入れ、放送室のネットワークを外部からハッキング、コロッセオの観客室にいない方たちが新たに入ることのないよう、清掃中を偽って追い返しました。
「あとは、中にいる人だけ……」
思いつめた顔をしていると、突然。
「サクヤ。何がしたいのか分からんが、アタシならここにいるぞ?」
ティアさんでした。彼女ほど、私が求める人材はいません。彼女に、あの2人はテロ組織で、ユーヴェイン様の命を狙っていること、学院関係者はこれを知らないことを簡単に伝えます。
「分かった。あいつらに被害が出なきゃいいんだな?」
そう言って、観客席から試合場に飛び降りました。援護のため、私も続きます。
フィリア様は長剣を、ユーヴェイン様は2本の剣を、それぞれ構えています。既に臨戦態勢です。
気づけば、ティア様もファイティングポーズを取っています。戦闘が始まるのは明らかでした。見ると、来賓は皆、退避した後でした。客席の生徒も、少しずつ退席しています。騒ぐ声が聞こえないのは、ここが魔術学院という、ある種特殊な環境だからでしょうか。
一触即発の中、突然、観客席から飛び降りる人影が見えました。同時に、聞きなじみのある薬莢音。
次の瞬間には、私たちは見知らぬ空間に飛ばされていました。
サクヤから連絡が来たのは、見晴らしのいい場所に上った数分後だった。
「クソっ!やっぱり来たのか!」
大急ぎでバイクの鍵を開け、飛び乗ってコロッセオまで走らせた。法定速度を大きく超えているが、そんなもの無視だ。今はそれどころじゃない。
コロッセオの駐車場に、バイクをスライド駐車させた。大きく地面とタイヤが削れ、白煙が上がっている。鍵なんてかけている暇はない。人の波をかき分けて、コロッセオに入ろうとしたが、試合場につながる道は封鎖されていた。
「……準備だけはできてるってことか。抜かりない!」
恐らくサクヤの手柄だろうと判断し、観客席に駆け上がった。見ると、中央に数人が固まっている。銀髪のポニーテール、金髪の二刀流、それに着流し姿の小柄な少女。
20式小銃を投影し、助走をつけて撃ちながら飛び降り、同時に外部干渉不可能結界を展開した。




