§.06 A Long-Term Study of an Android
以下、名無しに代わりまして……私、此花咲耶、または単純にサクヤがお送りします。マスターは〈虚ろなる暁〉を直接探しに行くと言って、本舎があるほうへと戻って行きました。しばし、私の観察事案にお付き合いいただければと思います。
私にフィリア様とユーヴェイン様の監視を任せる際、我が主はこう言いました。
「流石に、学院に入るなんていう愚行はしないだろうな。厳重な警備が敷かれているし、よほどの手練れか大量の人員を用意しない限り、侵入は不可能なはずだ」
それに対し、私は「では、なぜここを離れる必要が?」と反論します。
「あいつらの目的が全く分からない以上、無差別に生徒を襲う可能性を否定できないんだ。――だから、最悪の事態に備えて、戦力を二分する。あいつらがここにきたらすぐ、俺に一報入れてくれ。すぐに戻るから、それまでは耐えろ」
マスターがそう判断するのですから、従者たる私は従わざるをえません。
「わかりました、マスター。ご武運を」
そうしか言えませんでした。
以上、数分前の回想でした。
今はフィリア様が2回戦に臨まれています。
不運にも、フィリア様の相手になったのは、緑系の髪色をした男子生徒です。
試合開始が告げられるや否や、緑色は超加速を繰り出しました。それこそ、残像が見えるほどに。
一瞬で視界から消えた試合相手が、フィリア様に初撃を食らわせました。
直感なのか見えていたのかは不明瞭ですが、寸前で防ぎました。やはりこの人は人間を辞めてます。
ニンゲンヤメマスカ?どころではないですね。ニンゲンヤメ“テ”マスカ?が正しいでしょう。
フィリア様が攻撃を防げると知ったからか、緑色はさらに加速、音速でのヒットアンドアウェイを始めました。こんなの、誰なら勝てるんでしょう。
……少なくとも3人+2体は居るかもしれない。
一方のフィリア様は、何度も攻撃を受けるうちに慣れてきたのか、いつの間にか涼しい顔に戻っていました。
何故あの攻撃に慣れることができるんでしょうか。本当に意味が分かりません。
どうやら、反撃のターンに移るようです。十分に距離を取り、フィリア様はまさかの行動にでました。
後光さながらに光を背負い、その光の上に、多数の攻撃魔術が展開されています。遠目から見るだけでは断定できませんが、恐らく「空中に魔術式を固定する魔術式」が展開されているのでしょう。
なお、魔術式とは、魔術を実行する際に作成する二次元イメージのことです。文字による一次元情報で魔術を実行することも可能なようですが、情報処理速度がガタ落ちするので推奨されませんね。
あれよあれよと魔術式が展開され、その数は優に20を超えたように見えます。
さほど優秀ではない私の目(人間の視力換算で1.4〜1.5程度)で、めいっぱい望遠機能を使ったところ、彼女は確かにこう言ったように見えました。
「いきなさい」、と。同時に、私はこう思いました。
「それ、ラスボスの発言です」と。
そして、数々の魔術が放たれます。
炎弾が、水球が、氷塊が。
風刃が、土槍が。
光球が、闇の孔が、呪いの弾丸が。
僅かなタイムラグを置いて、目の前に立ちはだかる魔術師を目掛け、寸分の狂いなく次々と飛んでいきました。
見事に命中した緑色くん。あっさり敗北し、フィリア様の名前が勝者として読み上げられました。
次はユーヴェイン様です。いくら本気を出していないとはいえ、二刀流は強すぎです。今度の相手は――シンプルなスペルキャスター。最もイメージしやすい「魔術師」です。
この試合、私は目と脳を疑いました。
仮の話です。剣使いが、手に持っている剣で、放たれた魔術を切断したと聞いたら、あなたはどうなりますか?
それが現実に起こりました。ユーヴェイン様は、対戦相手の男子生徒が放った火球を切断し、「さっき見たからやってみる」という理由で剣を投擲し、首横を掠めて壁に突き刺さりました。直後に、男子生徒から降参宣言が出て試合終了。
2人揃って化け物です。いろいろあってフィリア様と一緒に戦えないティアさん(曰く、パワーバランスを調節するため)と、「あいつらおかしいな」と一致しました。
続いてはフィリア様、3回戦です。もう、私は考えるのを止めました。だって、考えてみてください。直前まで剣を握って優雅に戦っていた生徒が、次の試合で剣を床に突き刺し、相手に合わせて徒手空拳を繰り出しているんです。しかも、図体の大きい男子生徒(本当に、彼は1年生なのでしょうか……?)と対等に渡り合い、体重、体格、一撃の重さ全てで勝る彼を相手に、速度と手数の多さだけで打ち勝ちました。この方を見るほど、初見殺しとはいえ一度は彼女に勝ったマスターが信じられなくなります。私が直接見たわけではなく、他人からのまた聞きなのでなんとも言えませんが。
もうなんなんですか、この人たち。
そしてこちらの不安を無視して、2人とも、天覧試合への出場権を確保したのでした。続きは1時間後、第3コロッセオにて行われるので、マスターに2人が勝ち残った旨を伝えたところ、私もそちらに向かうよう指示を受けましたので、2人についていくことになりました。




