§.04 Fighting Heroine
俺を迎えていたのは、温かい応援からかけ離れた、冷たい視線そのものだった。
「何よ、あれ。……殺意MAXじゃないの」
「この前僕とやったときと全然違うね」
「やりすぎです、マスター。とっても目立ってます」
「戦闘技術がたけぇのはいいことだ。……だがなお前、それはやりすぎだ」
最初からフィリア、ユーヴェイン、サクヤ、そして久々の登場、ティアである。散々な言われよう。きっとソフィアさんがいても同じことを言いそうだ。
「……なんかすみません」
謝ることしかできないむのーな俺ちゃんでした。
数分後。
「次、あたしね。……勝ってくるわ」
さらっと勝利宣言するな。信頼性しかなくて、逆に不安なんだ。
観客席から試合場へ移動したフィリアが、Aブロックに姿を見せた。
対して、名も知らぬ生徒と互いに得物を構えた。
フィリアは、無駄な装飾を廃した、細身の長剣を。
相手の生徒は……珍しく、短槍だった。
「槍使いか。……レアだな」
「文字通りの珍獣な君にだけは言われたくないと思うよ」
「は?」
酷い言い方だな。
そのことから逃げたユーヴェインが言うには。
「そんなことより。……あれが杖剣ってものかい?」
そんなこと、ねえ。俺は寛大だから水に流してあげようじゃないか。感謝しろよ。
「そうだな。今のところ、個人個人の特性に合わせてしか作れないヤツだ」
「へぇ。よく知ってるね」
俺も持ってるからね、とは言えない。話が拗れそうだから。その代わりに、
「技術畑の人間からしたら、有名な話だからな」
と答えた。あながち間違いではない。
〈試合開始〉
審判が告げた。さて、どのように無双するのか見ものだ。
両者互いに駆け出し、半身になって剣なり槍なりを突き出す。真正面からぶつかった2つは側面で押し合い……
両手で構えていたはずの、槍が吹っ飛んだ。
「……なんで槍が飛ぶんだい?」
「俺に聞くな。……何も分からん」
揃って匙をバリスタ投射する男2人。すると、黙っていたティアが言った。
「理由なんか無いぞ。単純な、パワー出力の差だ」
……そういえばあいつ、ソフトだけじゃなくてハードもクッソ強いんだった。
そこから勝負はもうすぐだろうと思ったのだが。
よく見ると、相手の生徒が場所を移動している。一瞬しか目を離していないのに、フィリアを挟んで反対側、吹き飛ばしたはずの槍を手に持って。
高速移動でもしたのか、としか思わなかった。魔術師には、そんなやつが珍しくない。
ところがどっこい、やはり安定のフィリアだった。背後から繰り出される突きをノールックで受け止め、回し蹴りをがら空きの胴体めがけ、半身の背中側に決めた。
横方向に吹っ飛ぶ相手の生徒。……だが、その後ろに、もう1人、同じ顔の生徒がいた!
「分身!?」
思わず叫ぶ俺。にわかには信じられない現象だ。
「ふっ飛ばされた個体がしばらくして消滅しています。……恐らく、幻術か、その類かと」
「僕もそう思う。だとしても……精度がかなり高いな」
サクヤの仮説に、ユーヴェインが乗っかった。これぞまさしくおまいう案件なのをわかってるのか、こいつは。
そうこうするうちに、試合場の勢力図に変化が訪れた。
少しずつではあるが、フィリアがコロッセオを四分する増設壁、そこに詰められているのである。
あっまずい、とユーヴェインが言うも。
「「いや、違うな」」
2人分の声で否定された。視線がぶつかり、発言権を譲り合った押しつけ合ったところ、押し負けたティアが言った。
「あれも作戦のうちだ。数的優勢の敵に背後を取られないための、な。……違うか?」
「いいや。完全一致だ」
にやりと笑ったティアに応じる俺。
「見てろ、ユーヴェイン。……そろそろ反撃だ」
壁際に追い詰められたフィリアが、不意に剣を横に凪いだ。数体の分身が巻き込まれて消滅したが、微小量だ。
1箇所で腕が止まった。そこを目掛け、おもむろに……剣を投げた!?
たった1体の分身が槍で剣を防いだ。たった1体が。
つまり、それこそが本物だと、言わんばかりに。
分身の肩を踏み台にして飛び上がり、相手の生徒の真ん前に着陸。アッパーを極めて一発ノックアウト。
〈試合終了。勝者、フィリア・ファルトゥス=アルトロイト〉
有言実行となった。
「ほら、言った通りになったでしょ」
片手を腰に当て、自信満々のフィリアである。さすがファルトゥスの家系、近衛騎士の血統(なお、本人は気にしていない)は伊達ではない。
「そういえばあのとき、どうして剣を横に振ったんだ?」
ふと、さっき抱いた疑問をぶつける。
「あぁ、あれ?……あれね、魔力レーダー。相手が分身を使うとしたら、どこかに本体がいるはずだから、帰ってくる魔力の違いを読んだのよ」
アクティブ・フェーズド・アレイ・レーダーを人間で実践したってのか、こいつは……。恐ろしや。
「というか、散々俺をぼろくそに言っておきながら、自分も大概じゃねえのか?」
数分前の反論を試みる。
「ライフル射撃の枠で出たのに、ろくに射撃しなかった君が言えることかい?」
ユーヴェインの援護射撃でみごとに爆沈する俺だった。




