§.01 A lapping of a school festival.
気づけばもう、文化祭の初日になっていた。俺たちのクラスが提供する「軽食」が何を意味するのかはつい先日知った。内々では決まっていたのだが、俺に伝えるのが遅れたとか。ひでえ話もあったものだ。
そして、提供することになったのは……ガレットだった。具材をあれこれ用意しておいて、客が好きなものを選ぶスタイル。用意されたのはそこらの食料品店で購入した真空パックのハム(安いやつ)、誰でも知っているような、超有名な食品メーカーのピザ用チーズ、露天市で購入したと思わしきトマト、ズッキーニ、エッグプラント。それにジェラート、旬のフルーツ、ホイップ、カスタード、チョコレートの各種クリーム。
「……種類多いな」
俺のぼやきに、
「それだけ自信あるってことでしょ」
そう返事をしたのはカタリーナ・ホルシュタイン。茶髪セミロング、正統派美少女、という印象を与える……のかもしれない女子生徒だ。生憎、俺はそういうのに疎い。
彼女は売り子として、店の前で看板を掲げていた。少し雑談して判明したことだが、他の女子生徒からやってくれ、と依頼されたそうだ。なんとなく理由が分からないでもない。
「レジ係としては、売上管理システムがきちんと組まれてるだけありがたいけどな」
この売上管理システム、最初見たときからずっと思っている。まんま表計算ソフトなのだ。実名を挙げるとエクセルだ。デジャヴュの集合体である。
「それ、作ったのたしか……誰だっけ。ああ思い出した、オスカーくんだ。オスカー・ヴァレンティンくん」
「あいつやるなぁ」
細身のひょろこい男だとしか認識していなかったが、まさか電子系が強いとは。
その後も雑談を続けていると、学院のチャイムが鳴った。開会式はとうに終えている。これより、屋台の営業開始である。
「……はい、チーズとハムとズッキーニね。合計70クルツ。おつり30です」
ノーパソを叩いて売り上げを記録し、100クルツ硬貨を受け取り、10クルツ硬貨を3枚返した。ガレット生地単体で40クルツ、トッピング1個につき10クルツの、良心的なんだか学生らしいんだか、なんともいえない価格設定である。
ちらりとMs.ホルシュタインを見ると、原価ゼロのスマイルをばらまいているところだった。彼女、売り子の才能あるぞ。
レジ係、これといって大きなトラブルもなく、無事に今日のシフトが終わったので本職に戻ることになった。
やることは単純、フィリアが余計なことをしないか監視すること(こっちが本来のタスク)と、ユーヴェインを〈虚ろなる暁〉とかいう中二病センス満載の組織から守るための監視業務である。
ただ、何もせずに監視(観察)し続けるのもつまらないので、片手間に文化祭を楽しむことにした。
いつもなら一緒にいるサクヤには、ある程度の予算を渡して「文化祭を楽しんでもいいが、予算内で終わらせろ。それと、本分を忘れるな」と厳命しておいたので、まあ大丈夫だろう。俺よりは警戒されにくい少女体であるサクヤをユーヴェインにつけて、俺はフィリアに専念することにした。
それにしても、この学院は本当に規模が大きい。以前担任教官が「毎年大勢の地域住民や他校の生徒、教師陣、来賓がやって来る。それこそ、地元の店が出店を出しに来るレベル」と言っていたが、その言葉が文字通りだったことに一番驚いている。
なんなら、露天市で会ったことがあるミドルエイジが何人もいるのだ。これまでに呼びかけられた回数は片手を越えている。もうそろそろ、両手を越える。
「――あ、イリヤ君!」
たった今、両手を越えました。
そんなこんなで、文化祭をわりとエンジョイしている俺である。どこのクラスかも知らずに立ち寄った屋台で、紙コップに雑に入れられた小魚のフライを買ってばりばり食べ歩きしながら、ふとこんなことを思う。
――やっぱり、学生が作る文化祭の料理は美味い。雑な感じの味が、付加価値を生み出している。
正直、どこのおっさんだ、と言いたい。いや精神年齢はおっさんなんだけども。
それと同時に、かつての学生時代を思い出しもした。
――……懐かしいな。俺が学生の時は、たしか……定番の焼きそば屋台を出したっけ。
悲しいのは、「焼きそば」というものがあまり流行っていないことだ。どうやら存在はするらしいが、余程のもの好きじゃなければ食べないそうだ。
この扱いの差!
小魚を食べ切り、カップを紙ごみ箱にスリーポイントシュート。見事に入った。
しっかし、この文化祭。本当に人が多い。学院の制服に身を包んだ、見たことない顔の生徒たちに始まり、見たことのない制服の見たことない顔の生徒たち、露天市で見たことあるおっさんたち、そして極めつけに。
「……あの人、教育大臣じゃね?」
テレビの中でしか見たことがないようなメンバーが、スーツ姿の屈強な男たちに囲まれていた。
そして、俺はまさかの再会を果たすこととなるのである。




