§.06 The female store manager
気合と根性で眠気とだるさから逃げ切り、全講義を耐えきった俺を誰か褒めてほしい。
「それが普通ってもんでしょう。甘えてるんですか?」
「心を読むなバカ野郎。あと、ガチャ周回を攻略サイトに甘えているお前にだけは言われたくない」
「あれは戦略の一環ですが」
「それっぽいことを言うな」
サイドカーの中でソシャゲを続けるサクヤにぐちぐち言い続ける俺。傍から見れば子供を諫める若い父親か、あるいは。とにかく、そうは見られたくない。
「いいから、ケータイしまえ。酔うぞ。わざわざ三半規管をつけてやった恩を忘れるな」
はいはい、と言い捨てて端末を裾に投げ込んだ。こいつ。
「あーやっと着いた。体感的にやたら長いな」
「眠気覚ましにしゃべってたからですね」
……だろうね。
無駄口を叩きながら、駐車場にバイクを停め、靴を入れたビニール袋とショートソードを入れる肩掛けバッグを荷物入れから取り出して喧騒の中に突入する。
「しっかし、いつ来ても人が多いな」
「商業地ですからね。それに、ここは業者向けに商品を取り扱う方も一部いらっしゃるようですし」
「そりゃ混むよな」
ところで、サクヤの端末は俺のカバンの中だ。さっきまたガチャを回そうとしたので、取り上げた。やっていることがもう親だ。
人が多いと、どこに誰の店舗があったか忘れそうになる。実際、靴の修理を扱うじいさんのテントを見失っているところだ。
「あのじいさん、どこに行った!?」
「行き過ぎィ!ました。あっちです」
イントネーション!
サクヤのGPSが正確なのはありがたいのだが、ところどころ不穏な発言があるのが玉に瑕。だれの責任かって言ったら、間違いなく俺の自己責任なんだが。
どうはともあれ、無事にじいさんに運動靴を引き渡した。「何をしたらこんなに壊れるんだ」と毒つかれたが、笑って誤魔化した。見積書の値段には卒倒しかけた。
予備があるからよかったものの、さすがに1個だときついものがある。壊さないようにしなきゃいかん。
そして本日2件目の案件、俺が手違いでぶっ壊したショートソードの受け取りである。正直、彼女が怒ると怖い。圧力を感じるとか、生命の危機を感じるとかいうレベルではなく、こちらが悪いことをしたと痛烈に自覚させられる怒り方だったのでなおさらだ。見た感じ若い娘なのに、どこでその方法を覚えたのか。
びくびくしながら人ごみをかきわけると、市場の外れ、周りが広くなった場所に彼女の店舗はあった。相変わらず客の少ない、閑散とした空間だ。
モノはいいのに、何故か売れ行きが悪い。
「ども、ガッシュトフィルトです。受け取りに来ました」
頬杖をついて虚空を見ていた店長に声をかける。
「ん、あぁ……。ああ、君か」
気を抜いていたらしく、反応まで数秒経過。暇だからってさぁ……。
「イリヤ君だね。……剣を壊すのはいいけど、変なもの切らないでね。鉄パイプを切りたいなら、専用の工具を使って」
「ハイ。ごもっともで」
ぐうの音も出ない正論に、返す言葉もない。
「常連さんだから多めに見てあげるけど」
あの剣幕で?……どうやら思考が伝わってしまったらしく。
「誰だって、用途外の使い方で壊れたものを修理してくれ!っていわれたらそうなるよ。じゃあイリヤ君、包丁メーカーに『木を切ったら壊れたから修理してくれ』って言って、対応してくれると思う?」
「そんなわけないですよね返す言葉もございません」
「反省しているならよろしい」
人生42 + 16年。経験が全く役に立たない瞬間である。
「はい、これ。ちゃんと直したから。……次は正しい使い方でメンテに来てね」
「肝に銘じます」
そして、修理代金を払う。後日調べて分かったことだが、一般メーカーの定価よりもかなり安い価格帯だった。もっとも、常連へのサービスだ、と彼女は言い張るが。
「あ、そうだイリヤ君。これ、試しに使ってみて」
「?なんです、これ」
彼女から手渡されたのは一振りのショートソードである。違うのは……ちょっと重いことか。
「魔術杖の機能を組み込んだショートソード。現状、魔術杖としても使える剣はオーダーメイドでしか作れないけど、なんとかして汎用品ができないかって思って、試しに作ってみたんだ。……暇なら使ってみて。私は剣を使わないから」
「ふぅん。……それを、なんで俺に頼むんです?剣を頭おかしい方法で壊したヤツですよ?」
自虐を込めて言い返した。大切な試作品が壊されるとは思わないのか。
「だからこそ。剣で鉄パイプを切るのは信じられないけど、裏返せばそれだけ剣を信用してるってことでしょ。それはつまり、剣を、ある程度は使えるってこと。戦闘技術じゃなくて、剣そのものと一体化できるというか……。うまく言語化できないね、困った」
あはは、と軽やかに笑った。底抜けに明るい。
「だから、俺に、ですか。--期待に完璧に添えるかどうか保障しませんけど、使ってみます」
周りに人がいないのをいいことに、鞘から剣を抜いた。鈍色の刃が、傾き始めた陽を照り返して橙に染まる。
振り回してみた。剣舞をする才能は俺にはないが、剣舞さながらに動きまわる。そして、
「【焼却】」
剣の先から炎が迸った。魔力の供給を止めると、しばらくして消える。
「……いいですね。使わせてもらいます。ではまた、シャルさん」
「じゃね、イリヤ君」




