§.05 And that’s how I made my comeback.
別クラスに思わぬ友人ができ、ドクターストップも無事に解除された日。この間、実に多くの損失があった。
まず、実技形式の講義に一切出られない。あの日以来箒に乗ってないし、戦闘技術は勿論アウト、なんならバイクすら乗れなかった。行動範囲が1/3に大幅な下方修正だ。
それも、今日から解除だ。箒に乗りたいとは特に思わないが、バイクには乗れる。ああ俺の愛車よ……と言いたいところだが、そこまでバイクに愛着があるわけじゃない。デザインがかっこいいのは認めるが。
うっきうきでバイクを走らせる。サイドカーの中で、ソシャゲの無料25連ガチャを回していたサクヤがぼそりとこぼした。
「浮かれすぎです、マスター。事故りますよ」
「お前こそ、課金はほどほどにな。破産しても助けんぞ」
「私、軽課金勢ですから」
ドヤる人造人間を無視し、駐輪場にバイクを停めた。うーん、このミスマッチ。自転車が乱立している中にポツンと佇むバイク。
「浮いてるな……」
「道具は持ち主に似るんですかね」
「うるさい」……一言多い。
教室に入ると、待っていたのは大量の女子生徒だった。ナンデ?オレ、ナニカヤラカシタ?
名前の知らない、まだ話したことのない女子生徒Aが、真っ先に俺に尋ねた。
「がが、ガッシュトフィルトさん!箒から落ちたルミナスさんを助けたって本当ですか!?」
「ルミナスさん……?あ、レーナか。本当だけど。……どこからそれを?」
そうしたら、別の女子生徒Bが、
「ルミナスさんを名前呼び!?もうそこまで関係が……!?」
と声を抑えて絶叫した。どうしてそうなるのか。
「関係もなにもねえよ。本人がそう呼べって言ったんだ」
「あールミナスさんならありえそう」
と、納得の様子な女子生徒B。こいつ一体誰なんだ。関わりがなさ過ぎて、同じクラスなのに見たことがない(実際のところ、選択講義が違ったり、席が離れすぎていたりすると同じクラスでも互いに知らない……なんてことがあるらしい)。
気付けば、サクヤは身長が低いのをいいことに脚の間を器用にすり抜けて既に脱出した後だった。
あの野郎。
ほうほうの体で女子生徒による包囲陣から脱出し、ようやく着席できた。思わず気が緩み、目の前の天板に頭からなだれ込む。
「……疲れた」
そこへ、優雅に予習をしていたと思われるフィリアが投げかけた。
「露天市でさんざん値切り交渉してた人と、同一人物とは思えない有様ね」
なかなかに酷い言い方に、俺はガバっと起き上がる。
「考えてみろ。1対1を10回繰り返すのと、1対10を1回するのと、どちらが大変かって話だ。俺は聖徳太子じゃないんだよ」
「ショートクタイシ?誰よ、それ」
「すまん、なんでもない。忘れてくれ」
この世界に来てもう16年が経過したというのに、未だ前世の記憶が残っているのもある種不思議な気がする。
記憶というか、知識か。
などと、考えていたところに。
「若くて40代のミドルエイジを相手にするのと、同年代の女の子に囲まれるのと……。どちらが興奮を抑えられるか、考えれば分かることですね」
「イリヤ……。あなた、最低ね」
「うわお前、最低だな」
フィリアとティア、両方に突っ込まれた。俺だって突っ込みたい。
「なるほどよく分かったよし話をしようだからサクヤ屋上へ出ろ今すぐお前をクリーンアップするか廃棄処分するか好きな方を選べ」
適当に投影した、名前も知らないオート拳銃の銃口を額に突きつける。
「冗談ですやん」
「五月蝿い。黙れ」
「まずいですよ、その発言」
「まずいのはお前の頭の中だ。……あーどうしてこうなった……。俺はどこで設計を間違えたんだ……」
ニヤニヤ笑いながら俺を煽るサクヤ。「#殴りたい、この笑顔」とかいうタグをかつて見たことがあるが、なるほど今がその時か。
「私をインターネットに触れさせたのが運の尽きでしたね」
「お前、羞恥心はどこに行った」
「しがない私の羞恥心でしたら、今頃質屋ですね。ガチャに消えました」
ぐう、なんだこの打てば響くコントは。
「いいキャラ出ましたよ。SSR超えてUS……」
「それ以上はいけない」
「何故です。ウルトラスーパースペシャルレアのことじゃないですか。決してユニオン・オブ・ソ」
「やっぱりアウトじゃねえか」
するとそこへ。
「あなたたち、仲良いのね」
隣から、若干紫がかったような……冷ややかな目線が飛んできた。
ただ、その目線は、どこかで見たことがあるような感じで。
(妬いてるのか?)
(恐らくは)
2人共々、薄々察してしまった。
なんでさ。
……もう疲れた。疲れたよ、パトラッ
「よーし、朝ホーム始めるぞー」
建付けが悪くなってきた扉を蹴り開けて、担任の教官が入ってきた。
なお、扉の建付けが悪いのは6割近くがこいつのせいだ。
……ぜんぜん休めなかった。




