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ファルトゥスの護衛官(仮)  作者: 北上輝月
Episode;02/Pride comes before a fall.(自惚れは天に墜ちる。)
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§.04 The girl who is falling from sky

 ある休日のことだ。俺は1人で、学院の外にある本屋へ、雑誌を買いに行こうとしていた。「そんなマイナー雑誌、学院の購買で調達できるはずねーだろ」と購買部のおっさんに難癖を付けられ(実際、俺も生地では店舗で買えた試しがなく、毎度取り寄せてもらっていたのだが)たからである。全く、酷い話もあったものだ。

 なんで、『世界の海軍雑誌』が売ってないんだ。今月号はセルテスノカ合衆国の航空母艦「カルタゴ」が表紙を飾るというのに(←どうでもいい情報)。


「それにしても、この世界の”合衆国”はまだマシだな。計画つぶれが無い」

「前の”合衆国”は散々でしたからね。途中、フリゲートすらまともに建造できてませんでしたし」

「まあ言ってやんな。艦艇の小型化と多機能化は、そのほとんどが相反する行為だからな……。たぶん」

 聞く人が聞いたら怒るか、訝しむか、はたまた納得するか。そんなくらい、かなりヤバイ会話内容である。

 特に何も考えず、何となく上空を見上げた。箒で飛んでいる連中や、貨物輸送ドローン(無人航空機全般を指すドローン。クアッドコプターではない)が階層を守って飛ぶ(高度が低い順に箒、無人航空機、さらに上空に民間旅客機)のが見える。


 ……うん?

「おいサクヤ。あの箒、なんか不自然じゃね?」

 周りの箒とは異なり、ふらふらと揺れ動いている。高度が一定ではなかった。いかにも怪しい。

「落ちそうですね」

 身も蓋もないことを言うでない。フラグを立てるな。

「っで、本当に落ちてる!?——っは、ここは……!親方ァ!」

「あれが女の子かどうか、まだ分かりませんよ」

 空から女の子……あるいは男が落ちてきた。どちらでもいいが、あの高さから落ちたら即死は免れまい。落下位置を予測しながら、人通りのやや多いメインストリートを駆ける。


 落下予測地点までもう少し。空中にジャンプし、両手を思い切り伸ばす。

 腕に、その子の脇腹が引っかかった。俺の胴体を巻き込み、その子の下に潜り込む。瞬間的に、身体に魔力を流して無理矢理強化し、耐衝撃性を一時的に高めた。直後、着地。


「——んぐっ……っはァ……!」

 肺の中に、また内臓と内臓の空きスペースにたまっていた空気がすべて抜け出したかのような感触。正直、ボディーブローを連続して食らうよりも遥かに、痛い。そして、苦しい。


「あーっ!」

 と叫んだのは、腹の上の子だった。霞む目で見ると、長髪。多分女の子だ。弟子の言う通り(?)になった。

「ごめんなさいあーしが箒から落ちちゃったせいでおにーさんが怪我しちゃって……。大丈夫ですか?」

 一気にまくしたてた。

「……降りて」

 何とか絞り出せた声が、それだった。


 通行人のお陰で、俺と落ちてきた子は近くの救急クリニックに担ぎ込まれた。幸い、落ちてきた子はさほど怪我もなく、身体中にしびれがある程度だという。

 俺は普通に、しばらくの運動禁止を言い渡された。診断書まで貰ってしまった。うーむ困ったぞ。


「おにーさん、大丈夫ですか?……その、あーしが落ちたから……」

 胴体を包帯でぐるぐる巻きに固定されて、ベッドに寝かされている俺の隣に、落ちてきた子が座っていた。

「い……いや、だい……じょう、ぶ……。君さえ、怪我なけ、れば……。それで、いい、か、ら……」

 続けて離せない。息をするたびに、肺がものすごく痛む。

「大丈夫じゃないじゃん!おにーさん、その……悪化したら、あーしに連絡していいから!」

 電話番号を押し付けられた。俺が今すぐ端末を出せないことに配慮してか、胸ポケットから手帳を取り出し、さらさらと走り書きして破ってよこす。なかなかに奇麗な字だった。

 Selene Luminous、その下に3桁-5桁-4桁の数字列。確かに、スターリィでの国内電話番号だ。

「セレーナ、ルミナス……、か。セレーナちゃん、気に……しないで。たぶん、大丈夫……だから……」

「おにーさんが大丈夫、っていうならいいけどさ……。絶対、無理しちゃダメだからね?」


 そういって、彼女は一緒に落ちてきた箒を担いで帰っていった。

 後日、インターネット通販サービスを介して「世界の海軍雑誌」の最新刊が俺の手に届いた。新刊を買って、それを読むまでの高揚感……来月に持ち越しだ。ちくしょー。



 それが、先週の話。

 フィリア、ユーヴェインとのトリオで行ったカフェテリアで、何やら見たことのある女の子が、複数人の女子生徒と談笑に興じていた。その子がふと目を上げ俺と目が合った途端、「あっ!」と叫び声を上げた。

「あのときのおにーさんじゃん!ここにいたの!?」

「やあ、セレーナちゃん。君も、ここの生徒だったんだ……ね。その制服、まさか同級生……?」

「あーし、一年生だよ?」

「俺も」

 ものすごく、気まずかった。勝手に年下とばかり思い込んで、同級生の女の子をちゃん付けしていたのか、俺は。俺は気にしないとしても、世間体はそうはいかない。

「Ms.ルミナス。身体の調子はどうだ?」

 学生モードに変更。

「べつにいーよ、名前で。なんならレーナでもオッケーよ。むしろ、あーしはそっちのほうがいいな」

 あっけらかんとした声だった。そして、学院指定のジャケットではなく私物とみられるカーディガンを着用しているあたり、たぶんギャルの類い。現実の女の子として、初めて見たかもしれない。

「じゃあレーナ。怪我は無かったか?」

「怪我してたのはおにーさんじゃん。……というか同級生におにーさんってのも変だね。名前なんていうの?どう呼べばいい?」

 レーナ一同が座る隣のラウンドテーブルを陣取り、背もたれに肘をおいて振り向いた。

「俺はイリューシャ。イリューシャ・ガッシュトフィルトだ。好きに呼んでくれて構わない」

「ガッシュトフィルト……ってことは違うクラスだね。じゃあじゃあ、イリュっちって呼んでいい?」

 あだ名までギャルっぽいのか。そこが一番気になる。

「いいぞ。好きに呼べ、って言ったのは俺だからな」

「じゃあ、イリュっち。これからよろしくね。あとそれと、奥の4人は誰?イリュっちの友達?」

「あー、そうか。初対面か。この銀髪がフィリア」

「フィリア・ファルトゥス=アルトロイトよ。よろしくね」

 その途端、レーナの取り巻きガールズが黄色く色めき立った。

「フィリア様!?あのアルトロイト家の!?」「わたし、ずっと会いたかったんです!同じ学院に入学できて……」「握手!握手してください!あとサインも!」


 ……芸能人か?

「それで、あの金髪男がユーヴェイン」

「ユーヴェイン・アルバックです。よろしく、お嬢さん方」

「わおイケメン」

 思ったより反応が淡泊だ。転校生とだけあって、知らない人は知らない……のかもしれない。


 ……などなど。思い思いにしゃべり、ついでに食事を取り、いつの間にかレーナがフィリアに「フィリっち」、ユーヴェインに「ユーちゃん」との呼び名を貰っていた。

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