§.03 Why do magus ride on broomsticks?
時は流れ、そして翌日。
とある実技講義に、俺たちは出席していた。
その名も、「箒への搭乗に関する実技講義」。この箒は何かの生き物というわけでもなく、トンデモなマジックアイテムというわけでもない、アルタモノフ(首都の商業区域)のホームセンターにいけば1本100クルツ(およそ1000円)程度でばら売りされている代物だ。
つまり、ただの箒である。それも掃除用の。
こんなもので空を飛ぶというのだから、やっぱり魔術師はどこか頭がおかしいのだ。
「一応、なぜ我々が箒で空を飛ぶのかは知っているだろう。説明できるか?……Ms.アルトロイト」
フィリアが指名された。
「はい。大昔に、民家の私物である箒を借りることで、王都まで戻ってきた魔術師の行動に由来し、周りに飛行物体がないときの代替手段として箒を使用することがあります」
「だいたい正解だ。詳細はどうでもいいから、早く実技を始める。お前ら!箒は持ったか!?」
「「「持ってないです!」」」
大勢の生徒がハモった。
というわけで、学院の予算で人数分購入した箒(株式会社パヴォニス、の値札が貼ったままなんだが……)が一人ひとりに配られ、適当に3~4人組を組んで練習するよう指示が入り、以降自由活動となった。
余談だが、少し補足をしよう。
例の、民家から箒を借りた魔術師である。詳細な記録は残されていないものの、急用で地方から王都へ戻る必要が生じた彼は、夜中にも関わらず民家へ赴いて、家主を叩き起こしてから外壁に立てかけてあった箒を借り受け、王都の方角を目指して、ソニックブームもあわやの高速で……みごと、王宮のステンドグラスを頭から突き破ったというのだ。
ツッコミどころの多さに、俺の脳はしばらく思考を放棄していた。箒だけに。
そして、もちろん、俺は箒に乗ったことはない。
「で、どうやって乗るんだ?」
勝手な思い込みだが、箒に乗ったことがありそうなフィリアに頼み込むことにした。もちろんユーヴェインも一緒にいる。その一方、サクヤとティアは参加禁止を言い渡され、演習場の外、露天観覧席で何やら話し込んでいた。完璧に、暇を持て余しているように見える。
「簡単よ。”飛ぶ”のじゃなくて、”滑空する”の。航空機というより、ロケットね」
「はぁ?」
ついさっき、教官殿が「空を飛ぶ」って言ったばかりじゃないか。
「じゃあ、どうやって僕たちは空中に浮かんでいるんだい?まさか浮いていない、とは言わないよね?」
ユーヴェインが尋ねた。それは俺も全く同じ疑問だ。
「浮いてないわよ。こればっかりは実演したほうが早いわね。――それにイリヤ、あなた1学期も講義受けていたでしょう、覚えてないの?」
「お前も忘れていただろ。――いや、その通りだが」
(――夫婦漫才?)
ユーヴェインは思ったが、こじれそうなので口には出さなかった。
それで、実演してくれることになったフィリアだが。
「――こうやって、箒に魔力を通していくの。そうしたら、箒の穂の部分から空気といっしょに勢いよく噴き出させて……」
穂先を地面にやや傾けて、箒を空中に静止させる。器用に横座りし、そのまま飛んで行ってしまった。
そして帰ってきて、衝撃の一言。
「どう?簡単でしょ?」
「「まったく」」
しばらく、彼女は軽くしょげていた。
なるほど、システム自体はシンプルだということは分かった。要はジェットエンジンだ。しかも、燃料は石油系ではなく魔力。なら、オーグメンターの増設は可能なはずだ。
さっそく穂先をいじろうとした……ら。
「Mr.ガッシュトフィルト。箒をいじりたいのは分かる。ただ、先に基本的な操縦法を覚えてくれ。死亡事故を起こしてからじゃ遅いんだ」
「……ハイ」
教官殿に即、見つかった。無念。
確かに、数名の生徒が操縦を誤って地面や壁に突撃していた。下手に改造しないのがよさそうだ。
途中何度か落ちそうになったものの、講義が終わる頃には、とりあえずバランスが取れるようにはなった。
言い訳をさせてほしい。この箒に乗る感覚、前世のどれとも似ていないのだ。バイクや一輪車に近そうなビジュアル(実際、乗るまで俺もそう思っていた)のくせに、全くの別物である。そもそも接地していない時点で気づけよ、とは思う。
「……というかそもそもだな。なんであいつらは、こうも箒に乗るのが上手いんだ?絶対、初心者じゃないだろ」
演習場からの帰り際、その”初心者ではない”者の筆頭であるフィリアに、そんな疑問をぶつけてみた。
「そりゃそうよ。そもそもあたし含めて、ほとんどの貴族の子が箒に乗れるわ」
「……俺も、一応貴族なんだが?」
「そうなのかい?」ユーヴェインが純粋な瞳で尋ねる。
「一応、な。末席に名を連ねているだけだ。それでフィリア。なんで俺以外の、貴族の子女連中は、箒に乗れるんだ?」
以外、を強調する。なんだなんだ、地方格差かこれは。
「単純よ。家庭教師か何かを雇って、教えてもらっているのよ」
「……家庭教師?俺も家庭教師がいたけど、箒の乗り方なんて教えてくれなかったぞ」
その言葉で引き出されたのは、あの口の悪い若男だ。そういえばあいつ、元気にしているのだろうか。放っておいても死ななそうな奴だが。
「やっぱ、中央貴族ってすげえな」
この教育(?)格差は埋まらないのかもしれない。半ば諦めた声だった。
「――そもそも、普通の貴族の子女は人に銃を向ける覚悟はないわよ。あなただけよ、学生なのにそんなことができるのは」
「そりゃ、人に撃たれる覚悟があるからな」
「マスター。伝わりませんよ」
伝わったのは、サクヤだけだった。唯一の外国人であるユーヴェインは、「スターリィって不思議だね」とのんきに言った。




