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ファルトゥスの護衛官(仮)  作者: 北上輝月
Episode;02/Pride comes before a fall.(自惚れは天に墜ちる。)
17/35

§.02 History of Magic

 ——曰く。

 世界がまだ”世界”ではなかったとき。何もないものから〈虚無の無為神〉(ケイオスノーファ)がひとりでに生まれ落ちた。幾星霜が経過し、〈虚無の無為神〉(ケイオスノーファ)の一部が剥がれ落ちて〈実在の有為神〉(エクセンス)となった。

 この二柱がまぐわうことで〈創造の根源たる主母神(クレート)〉と〈破壊の象徴たる主父神(ディストレイ)〉が、その二柱の間に〈空照らす大いなる女神(ヘヴンズフィア)〉と〈静かなる現し世の男神(グロヴロード)〉、〈遍く隠す闇夜の男神(ダークナス)〉が生まれ落ちた。

 その後は〈大海に揺蕩う女神(オシャーナレオ)〉、〈大地を踏み固む男神(ランドリル)〉、〈祝福を告げる誕生の男神(ヴェージ)〉、〈惜別を語る殺戮の女神(エルヴンゲイル)〉、〈裁定の機構たる男神(ジャッグル)〉、〈統治の規範たる女神(レギーネ)〉、以下多数と続いていく……。


 これは毎度おなじみ、メルクートゥス教での、創世神話である。History of Magic、つまり魔術史を掲げておきながら何故神話、と思っただろうが概略説明のあと、実際にここから講義が始まったんだから仕方ない。

「ねえイリヤ。なんでこの講義、創世神話から始まるのかしらね」

「ねえイリヤ。なんでこの講義、創世神話から始まるんだろうね」

 両隣——つまりフィリアとユーヴェインから同じことを訊かれた。知らないってば。

 余談だが、時折俺に向いてくる女子生徒の視線(向けられる感情が、少なくとも2種類あるのはこれ如何に)が怖いのなんの。


 はた、と講義の担当教官がトークを止めた。

「きっと君たちの多くは、『何故魔術史の初回講義で創世神話をやっているんだ?』って思ってるだろうね。違う?」

 ええ、その通りですよ。俺含めほぼ全員が分かっていないんじゃないか?うんうん、と多数の生徒が首肯した。

「伏線はあとから回収するけど、先に少しだけネタばらしをしようか。大昔、それこそ”魔術(Magic)”がまだ”魔法(Sorcery)”だった時代……」

「なあフィリア。魔術と魔法って、どう違うんだ?」

 小声で隣の天才に尋ねた。

「そうね……。簡単に言えば、魔法は体系化されていなくて、完全に個人の才能に依存し、第三者による再現ができないもの。反対に、魔術は体系化されて、理論上は第三者でも再現できるもの、ね」

「そうなのか……」

 てっきり同じものかと。


 そして教官の話は続く。

「その当時は、魔力や”魔法”は神から借り受けるものだと考えられていて、その効力を上げるために神々の知識が高い水準で求められたんだ。魔術史をやる手前、”魔法時代”の価値観にも触れなきゃいけないから、今創世神話に軽く触れるわけ。分かった?」

 少しだけ、と言っておきながらほぼ全部話したように見受けられるが……。


 その後は、創世神話の続きを延々としゃべり続けて今日の講義を終えた。



 学院内の地理がまだ疎いユーヴェインを連れて、次の講義場所へ向かう。その道すがら、不意にティアが口を開いた。

「そういやあの教師、『悪魔封じ』について何か言ってたな」

「『悪魔封じ』?そういえばそんなこと言って……たっけ?」

「言っていたわ」

「言っていたよ」

「仰っておりましたが」

 サクヤにまで返された。途中で飽きてきて、話半分に聞いていたのが裏目に出た。

「それはすまん。それで?その『悪魔封じ』がどうかしたのか?」

 と、俺。それに対し、

「いや、なんというか、ね。アタシが知ってるのと少し違うな、って違和感を感じただけさね」

 そりゃ、あなたが封じられた〈神殺しの大悪魔(テアマート)〉、その張本人ですからね。

「そうなんだ。ティア……さん?が知ってるものだと、何が違うのかな?」

 さらに尋ねるユーヴェイン。

「アタシにまで”さん”は要らねぇよ。呼び捨てで構わねぇさ。それで……。違うところ、か。まあいくつかあるけど……一番大きいのは悪魔の性別だな」

「性別?」

「アタシが知ってる話だと、封印された悪魔は女だったはずなんだよな。……まあ過去の人物の性別なんて、記録に齟齬があればすぐに変わるからな。あまり些細な違いじゃないさ」

 性別の違い。あの時俺が驚いたのも、実はこれも理由だったりする。

 ——とはいえ、完全に彼女を〈神殺しの大悪魔(テアマート)〉本人と認めたわけじゃないんだが。自称じゃないか?と疑う心が多少存在するのもまた事実。


「そうなんだね。そんなことがあるんだ」

 反対に、何も知らないと思われるユーヴェインは意外そうな表情をした。

「意外か?別に気にしなくていいからな。実際どうでもいいし」

 (自称)自分のこととはいえ、本当にそれでいいのか?一応、自分自身のことのはずじゃあ……。


 気づけば、次の講義が開催される講義室に到着していた。この学院において教育基礎課程にある1、2年生は選択科目を除いて、時間割がホームクラスで固定されている。高校と大学とがゆるやかに繋がった、高専のようなものだ。

 その次の講義は、法学である。魔術師が国家資格、なんなら教育省に指定された高等教育機関でしか実施できない魔術師教育専門課程、さらに上位の魔術師高度専門課程の第Ⅰ期と第Ⅱ期が存在する手前、必ずその行動には法的な権力と制約が伴うのだ。

 具体的には――。

 魔術師及び魔術師課程受講者には、自衛のための、最低限度の武器携帯を許可されているとか。

 上級魔術や戦略級魔術など、俗に”大魔術”と呼称されるような魔術を行使する際には、魔術師資格を有する者の、複数名の認証と立ち合いが必要なこと、とか。


 そのため、我々魔術師を志す者は法律の知識が必要不可欠なのだ。「一番取るのが簡単で難しいのが魔術師資格」とか、「人によっては、医師資格とか弁護士資格のほうが簡単」とすら酷評されるゆえんである。

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