§.01 IKEMEN from Valtus came here.
「ヴァルタス国家連合のヤーストブルグ中央学府から来ました。ユーヴェイン・アルバックです。これからよろしく」
金髪碧眼の高身長イケメンという、アニメやコミックの類でしか見ないような、テンプレートイケメン男が、そこにいた。
爽やかな笑顔のこの男に、きゃあきゃあ歓声を上げる女子生徒や、ざわめきだつ男子生徒がちらほら見られるあたり、いくらエリート育成の高等教育機関と言っても、彼らの本質というか中身は、青春真っ盛りのティーンエイジャーにすぎないのだろう。
――すなわち。
転校生、または留学生の来訪というイベントは青春の1ページに刻むべきものなのであろう。約2名を除いて。
「フィリア。興味ないのか?」
頬杖をついて窓の外へ視線を逃がしていた彼女に目線をやった。
「あまり、ね。転校生、と言っても数か月か数年すれば馴染んでしまうのよ。特別さなんて、ほんの少しだけよ」
「そりゃまあ、たいそう核心を突いた意見だな」
これが16歳の発言とは思えないぐらい、大人びたというか……枯れ果てた発言だった。お前が言うな、と言われても文句をつけられないのだが。
そして気が付けば、その場は質問コーナーへと変化していた。
「好きな食べ物は何ですか!?」「これと言ってないけど……挙げるとすれば、シュニッツェルかな」
「高身長ですね。身長はどれくらいですか?」「あ、ありがとうございます……?だいたい、180センチです」
「恋人いますか?」「いきなり突っ込みますね。ヴァルタスにいます」
質問内容から察せるあたり、やっぱりティーンエイジャーはどこの世界でも好奇心旺盛なものなのだろう。
やがて、黄色い歓声に背を押されたユーヴェインが、担任教官に指示された席に就き、1限目の講義が始まった。
正午過ぎ、カフェテリアにて。
「こんにちは。君たち、たしか同じクラスだったよね。相席していいかな?」
まさかの、向こうからのコンタクトがあった。
「あら、Mr.アルバック。相席構わないわ。どうぞ」
アルトロイト令嬢モードのフィリアが応答した。6人掛けのラウンドテーブルを囲っていた俺たち2人+2体+荷物が占領していない、椅子一脚を差し出した。ありがとう、と言ってそこに座る。
「はじめまして、ね。わたくし、フィリア・ファルトゥス=アルトロイトと申します。以後、お見知りおきを」
「イリューシャ・ガッシュトフィルトだ。よろしく頼む」
「知っていると思うけど、ユーヴェイン・アルバックです。よろしくね。——それから、もっとフランクでいて欲しいな」
朗らかな笑顔のユーヴェイン。なんて男だ。普通の女子生徒ならこれで堕ちそうだ。
「そう?——では、ユーヴェイン様、と」
「様、は要らないよ。むしろ呼び捨ててくれないか?」
しばし逡巡。
「では、ユーヴェイン君。これからよろしくね。あたし(・・・)のことも、フィリアでいいわ」
「フィリアさん、ね。改めて、これからよろしくね。——じゃあ、君のことはどう呼べばいい?イリヤ君、でいいのかい?」
「ああ。イリヤで構わないぞ。なんなら君も要らない。俺もユーヴェイン、でいいか?」
内心もう呼んでるけど。
「むしろ大歓迎だよ、イリヤ。フランクに接してくれる子があまりいなくて、ちょっとまいっていたんだ」
「罪な男だな」
俺のつっこみに、
「終身刑はほぼ決定済みだけどね」
ユーヴェインが返した。誰が上手いことを言えと。
「(ねぇちょっと……。ユーヴェイン君の、一体どういう意味なの?)」
ちょいちょい、とフィリアが耳元で囁いた。微かな吐息がこそばゆいが、それ以上でもそれ以下でもない。
「(ユーヴェインは彼女がいる、って今朝言ってただろ?ずっと一緒にいる……どうせ婚約なりなんなり、してるんだろ。それを、終身刑と重ねたんだろうな)」
「(そう)」そっけないフィリアだった。
その後、事実をややぼかしてサクヤとティアを紹介し、ユーヴェインが話題を引き出した。
「そういえばイリヤ。君のファミリーネーム……ガッシュ傭兵と関係があったりするのかい?」
「関係も何も、俺の実家だぞ」
社会見学と称して、俺を歩兵戦闘車に乗せてくれたり、機関銃の射撃練習をさせてくれたりするようなやつらである。
「えっ、そうなの!?」
「……驚いたよ」
2人から驚かれた。なぜフィリアから。
「言ってなかったっけ?」
「聞いてないわよ!」
過去数ヶ月分の記憶を辿る。フィリアの前で実家に言及したことが……無かった。
「言ってなかったな。すまん」
――そう、素直に謝る。
「いえ、それはいいのよ。それはそうとして、イリヤはご両親から何か聞いてないの?……その、先祖様が教皇猊下の護衛官を務められた、って話」
「あ〜、そういえば父さんがそんなこと言ってたな。今思い出したよ、それ」
父も、そこまで熱心に語っていないのである。俺が忘れかけていても仕方ない。それに、教皇の護衛を務めた、というエピソードと、その時の(今もだろうけど)おっちゃんたちの姿とがあまりにも結びつかなかったのだ。つまるところ、その話を俺はほとんど信用していないのである。
「護衛官?どういうこと?」
何も知らないユーヴェインが訊いた。流石に、国外にまで伝わっている内容ではないようだ。
「だいたい150年前くらいかしら。フレディナント様がメルクートゥス教の教皇、フランソワ5世猊下の護衛官を、スターリィ王国として初めて務められて、加えてその時過激派の攻撃から猊下を守りきったっていう話よ」
フィリアが代わりに説明した。
「よく知ってるな。俺より詳しいんじゃないか?」
「えぇ、そうね。近衛騎士たるもの、これぐらい知っておきなさいって両親に叩き込まれたわ」
「近衛騎士?フィリアさんが?」
また驚くユーヴェイン。驚きっぱなしだ。
「アルトロイト家ってな、長年近衛騎士を多数輩出している家なんだ。興味ないから詳しくは分からないけど、確か今も誰か在籍していたよな?」
「あたしの父と叔父、伯母に兄が在籍しているわね」
「……このテーブル、なかなかに家系が武官寄りすぎじゃないかな……?僕の家、ただの一般市民なんだけど……」
ビビり倒す表情のユーヴェインである。
「学院全体だと、一般市民のほうが若干多いぞ。それ以外だと、武官や学者の子どももいたりするな」
「そうなんだ……」
情報量にすっかりまいったらしいユーヴェインだった。




