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ファルトゥスの護衛官(仮)  作者: 北上輝月
Episode;02/Pride comes before a fall.(自惚れは天に墜ちる。)
16/35

§.01 IKEMEN from Valtus came here.

「ヴァルタス国家連合のヤーストブルグ中央学府から来ました。ユーヴェイン・アルバックです。これからよろしく」

 金髪碧眼の高身長イケメンという、アニメやコミックの類でしか見ないような、テンプレートイケメン男が、そこにいた。

 爽やかな笑顔のこの男に、きゃあきゃあ歓声を上げる女子生徒や、ざわめきだつ男子生徒がちらほら見られるあたり、いくらエリート育成の高等教育機関と言っても、彼らの本質というか中身は、青春真っ盛りのティーンエイジャーにすぎないのだろう。

 ――すなわち。

 転校生、または留学生の来訪というイベントは青春の1ページに刻むべきものなのであろう。約2名を除いて。

「フィリア。興味ないのか?」

 頬杖をついて窓の外へ視線を逃がしていた彼女に目線をやった。

「あまり、ね。転校生、と言っても数か月か数年すれば馴染んでしまうのよ。特別さなんて、ほんの少しだけよ」

「そりゃまあ、たいそう核心を突いた意見だな」

 これが16歳の発言とは思えないぐらい、大人びたというか……枯れ果てた発言だった。お前が言うな、と言われても文句をつけられないのだが。

 そして気が付けば、その場は質問コーナーへと変化していた。

「好きな食べ物は何ですか!?」「これと言ってないけど……挙げるとすれば、シュニッツェルかな」

「高身長ですね。身長はどれくらいですか?」「あ、ありがとうございます……?だいたい、180センチです」

「恋人いますか?」「いきなり突っ込みますね。ヴァルタスにいます」

 質問内容から察せるあたり、やっぱりティーンエイジャーはどこの世界でも好奇心旺盛なものなのだろう。

 やがて、黄色い歓声に背を押されたユーヴェインが、担任教官に指示された席に就き、1限目の講義が始まった。



 正午過ぎ、カフェテリアにて。

「こんにちは。君たち、たしか同じクラスだったよね。相席していいかな?」

 まさかの、向こうからのコンタクトがあった。

「あら、Mr.アルバック。相席構わないわ。どうぞ」

 アルトロイト令嬢モードのフィリアが応答した。6人掛けのラウンドテーブルを囲っていた俺たち2人+2体+荷物が占領していない、椅子一脚を差し出した。ありがとう、と言ってそこに座る。

「はじめまして、ね。わたくし、フィリア・ファルトゥス=アルトロイトと申します。以後、お見知りおきを」

「イリューシャ・ガッシュトフィルトだ。よろしく頼む」

「知っていると思うけど、ユーヴェイン・アルバックです。よろしくね。——それから、もっとフランクでいて欲しいな」

 朗らかな笑顔のユーヴェイン。なんて男だ。普通の女子生徒ならこれで堕ちそうだ。

「そう?——では、ユーヴェイン様、と」

「様、は要らないよ。むしろ呼び捨ててくれないか?」

 しばし逡巡。

「では、ユーヴェイン君。これからよろしくね。あたし(・・・)のことも、フィリアでいいわ」

「フィリアさん、ね。改めて、これからよろしくね。——じゃあ、君のことはどう呼べばいい?イリヤ君、でいいのかい?」

「ああ。イリヤで構わないぞ。なんなら君も要らない。俺もユーヴェイン、でいいか?」

 内心もう呼んでるけど。

「むしろ大歓迎だよ、イリヤ。フランクに接してくれる子があまりいなくて、ちょっとまいっていたんだ」

「罪な男だな」

 俺のつっこみに、

「終身刑はほぼ決定済みだけどね」

 ユーヴェインが返した。誰が上手いことを言えと。

「(ねぇちょっと……。ユーヴェイン君の、一体どういう意味なの?)」

 ちょいちょい、とフィリアが耳元で囁いた。微かな吐息がこそばゆいが、それ以上でもそれ以下でもない。

「(ユーヴェインは彼女がいる、って今朝言ってただろ?ずっと一緒にいる……どうせ婚約なりなんなり、してるんだろ。それを、終身刑と重ねたんだろうな)」

「(そう)」そっけないフィリアだった。

 その後、事実をややぼかしてサクヤとティアを紹介し、ユーヴェインが話題を引き出した。

「そういえばイリヤ。君のファミリーネーム……ガッシュ傭兵と関係があったりするのかい?」

「関係も何も、俺の実家だぞ」

 社会見学と称して、俺を歩兵戦闘車に乗せてくれたり、機関銃の射撃練習をさせてくれたりするようなやつらである。

「えっ、そうなの!?」

「……驚いたよ」

 2人から驚かれた。なぜフィリアから。

「言ってなかったっけ?」

「聞いてないわよ!」

 過去数ヶ月分の記憶を辿る。フィリアの前で実家に言及したことが……無かった。

「言ってなかったな。すまん」

 ――そう、素直に謝る。

「いえ、それはいいのよ。それはそうとして、イリヤはご両親から何か聞いてないの?……その、先祖様が教皇猊下の護衛官を務められた、って話」

「あ〜、そういえば父さんがそんなこと言ってたな。今思い出したよ、それ」

 父も、そこまで熱心に語っていないのである。俺が忘れかけていても仕方ない。それに、教皇の護衛を務めた、というエピソードと、その時の(今もだろうけど)おっちゃんたちの姿とがあまりにも結びつかなかったのだ。つまるところ、その話を俺はほとんど信用していないのである。

「護衛官?どういうこと?」

 何も知らないユーヴェインが訊いた。流石に、国外にまで伝わっている内容ではないようだ。

「だいたい150年前くらいかしら。フレディナント様がメルクートゥス教の教皇、フランソワ5世猊下の護衛官を、スターリィ王国として初めて務められて、加えてその時過激派の攻撃から猊下を守りきったっていう話よ」

 フィリアが代わりに説明した。

「よく知ってるな。俺より詳しいんじゃないか?」

「えぇ、そうね。近衛騎士たるもの、これぐらい知っておきなさいって両親に叩き込まれたわ」

「近衛騎士?フィリアさんが?」

 また驚くユーヴェイン。驚きっぱなしだ。

「アルトロイト家ってな、長年近衛騎士を多数輩出している家なんだ。興味ないから詳しくは分からないけど、確か今も誰か在籍していたよな?」

「あたしの父と叔父、伯母に兄が在籍しているわね」

「……このテーブル、なかなかに家系が武官寄りすぎじゃないかな……?僕の家、ただの一般市民なんだけど……」

 ビビり倒す表情のユーヴェインである。

「学院全体だと、一般市民のほうが若干多いぞ。それ以外だと、武官や学者の子どももいたりするな」

「そうなんだ……」

 情報量にすっかりまいったらしいユーヴェインだった。

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