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ファルトゥスの護衛官(仮)  作者: 北上輝月
Episode; 1.0 / The chains endure even after death.(死して尚、影に囚われる)
13/35

§.05 First open-air market

 フィリアにヘルメットを手渡し、サイドカーに乗せる。あれこれ確認してエンジンをかけた。

 なんの問題もなく出発したバイクの中、フィリアは俺に尋ねた。

「そういえば露天市、って言ってたわね。どこにあるの?」

「なんだ、知らないのか。アルタモノフ第3地区の外れだ」

 俺たちが住むスターリィ王国の王都ウェルテスト、それを5つに分割したのがアブルフェーダ、アルタモノフ、ブリジット、デービー、デズシェヴルスキーで、そのうちアルタモノフが教育関連の施設が数多く立ち並ぶ地域である。その中のアルタモノフがウェルテスト全体の商業区域で、第3地区にて露天市が定期的(ほぼ毎日、悪天候時は休業)行われている。

「そんなところにあったのね。ほとんどデービーから離れたことがないから分からなかったわ」

 デービーというのが、中央貴族が住む高級住宅街である。無論、アルトロイト邸もそこにある。

「まぁ王都は広いからな。知らないところがあっても無理はない。実際、俺もアガタルキデスのことを全て知ってるわけじゃないし」

 アガタルキデス、というのが我がガッシュトフィルト家が領主を務める地方都市の名前である。今さら気にするとすごい名前だ。

 ちなみに、王立魔術学院があるのはブリジットである。

「そう。……それで、その露天市には何があるの?」

「割と何でもあるぞ。だだ、スーパーより安いって言っても質は担保できん。ボッタクリも横行してるし、玉石混交とは言ったものだよ、実際」

「でも、それが楽しいんじゃない?」

「まあな」

 どうやら、このプリンセスは露天市の醍醐味をわかっているようだ。

「小売希望価格なんてあったもんじゃないから、普通に値切り交渉なんてザラだし、なんなら俺もやったことあるぞ」

「流石にそれは、貴族としてどうかと思うわよ……」

 呆れられた。

「まー見事に失敗したがな。『ガキは引っ込んでろ!』って怒鳴られて、めっちゃサービスしてくれたよ」

「成功しちゃってるじゃない」

 おっちゃんおばちゃんというのは、どうも子供に甘いようだ。


 駐車場(駐車場も駐輪場も区別されてないのだ)にバイクを停めた。

「ここはめちゃくちゃ人が多いから、あまり離れるなよ。はぐれるぞ」

「大丈夫よ。あたしを何だと思ってるのよ」

「なら良いんだ」

 一抹の不安を抱えながら市場を歩いていく。とりあえず野菜系を買おうと思って、

「フィリ……」

 居ない。あたりをぐるぐる見渡すと、18メートルほど後方に見慣れた銀髪が見えた。

「やっぱり……」

 案の定というか何と言うか。はぐれていた。

 人波をかき分けてフィリアの隣へ戻る。

「ここにいたのか。またはぐれると困る。手、繋ぐか?」

 眼前に左手を差し出す。そっと手を取る彼女の姿を見ると――なんだろうか。大きい子供を相手にしているような感覚に襲われた。

「子供扱いしないでよ」

 ちょっと膨れて拗ねるあたり、子供である。16歳は俺から見れば子供だから仕方ないが。

「はいはい。とっとと行くぞ。売り切れる前に買っちまおう」

 手を引いて歩き出した。


 道中野菜類を買い、乾物を買い、ブレッドを買う。店長のおっちゃんやおばちゃんに「イリヤくん、彼女できたの!?」とイジられること数回(そのたびにフィリアが赤く照れるのは見ていて愉快だった)、この市場に存在する服飾店の一軒に来た。

「ここならあるだろ。……店長、女物の服はあるか?」

 店の奥から出てきたじいさんが、ずり落ちかけた眼鏡を持ち上げた。

「……なんだ、イリヤか。見慣れねぇ顔の嬢ちゃんだな。彼女でもできたか?」

 激 し い デ ジ ャ ヴ。この市場の奴らはどいつもこいつもゴシップが好きなのか。

「違ぇよ。ちょっとややこしい話でな。直接話をつけてくれ」

 フィリアを前に出す。じいさんが驚いたような目をした。

「えらい別嬪さんだな。――さらってきたんか」

「なわけないだろ。同級生だよ」

 当の本人は若干恥ずかしそうで、白皙に朱が指してきた。

「フィリア。とっとと本題に入ったほうが良い。このじいさんもゴシップ好きだ」

 学生の多い地区で生活していると、彼らの若々しい浮ついた話が好物となるのかもしれない。

「そ、その、店長さん。大柄の女性服ってありますか?」

「大柄の女性服ゥ?……あったかな。ちょっと探してくるわ」

 そう言って、出店の奥に続く商店に引っ込んでいった。

 数分して、じいさんがいくつか抱えて戻ってきた。

「大柄って言うから、とりあえず身長162センチ以上のものを持ってきた。この中にあるか?」

「たしか、目測で180センチはありました」

「じゃあこんなところだな。こいつとこいつと……あとこれか」

 さっきまでのゴシップ好きじじいはどこへやら、今やただの商人の顔だ。最初からこの顔でいろっての。他人の色恋事情に首を突っ込みやがって。

「じゃあ、これとこれとこれとこれと、あとこれとこれ……ついでにこれにします」

「あいよ。現金と電子マネー、どっちだ?」

「電子マネーでお願いします」

 流れるように進む支払い。じいさんの端末とフィリアの端末が通信し合って完了した。

「ありがとうございます。これ、取っておいてください」

 いくらか札を気前よく手渡すフィリア。ぱらぱらと数えて……「いや嬢ちゃん、多すぎないか?」

「いえ。ほんの気持ちです」 

 金がなくなる原因はこれなのでは。他の全ての買い物が終わったので意味もなくぶらつく途中、思ったことをそのまま伝えてみた。

「別にいいじゃない。サービスに対して、謝意をどの基準で示すかは個人次第よ」

 その基準が高すぎると言っているんだが。だが、どうやらその気持ちは伝わったらしい。

「そうね。これからは気をつけるわ。――じゃあ、イリヤの基準、教えてくれる?」

「俺に聞くなよ……。チップに回す金がないんだよ」

 にやにやしながら訊いてくるあたり、わかってやってるなこの女。


 たまたま屋台で揚げ鶏を見つけたので、その串をフィリアに買ってやった。「食うか?」

「いただくわ」屋根付きの休憩スペースに入り、一口齧る。むぐむぐ咀嚼して、飲み込んだ。

「美味しいわね、これ。味のパンチが強いわ」

「下町なんてそんなもんだよ。気に入ったたようでなにより」

 冗談抜きで、所作の一挙手一投足が優雅なのがフィリアだ。姿勢が綺麗で、若干切れ長の目を上手く活用して表情を作っている。つくづく、猫背がデフォの俺とは釣り合いそうにもない。

「……何かしら?」

 食べ終わったフィリアがこちらを見ていた。片手で器用に串を折って包み紙に入れ、制服のポケットに入れる。怪訝そうな目つきだった。

「いや?何もない」

 考えてることを察したのだろうか。

「あなた自身をけなす必要はないわ。――あたし、そういうの嫌いなの、知ってるでしょ?」

「知ってるよ」系統はバレてたようだ。

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