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ファルトゥスの護衛官(仮)  作者: 北上輝月
Episode; 1.0 / The chains endure even after death.(死して尚、影に囚われる)
11/15

§.03 Why must I alone suffer this fate?

 翌日の朝。俺の支配下にある斥候精霊が伝えるところによると、フィリアはティアを「そこそこ強いけど無名な悪魔」として登録申請書を出したようだ。かの〈神殺しの大悪魔(テアマート)〉を「そこそこ強い悪魔」とは。恐るべし、フィリアの図太さ。

 そしてお疲れ様でした、教官殿。これでようやくカリキュラムが進められる。

 憑き物が取れたようで、スッキリした表情で彼は講義室に入ってきた。

「これにて必要な用意がすべて終わりましたので、今日からより実践的な内容へシフトします」

 イェー、と歓声が上がった。たいていが男子生徒だ。いつの時代も、どの世界でも男子というものは身体を動かすのが大好物なようだ。だが、実践というのはそうではない……。

「ねぇイリヤ。実践的な内容って、何するのか覚えてる?」

 俺の夏服の半袖を引いたのは案の定フィリアだった。

「使い魔を用いた、外部での魔術行使。感覚の拡大、共有。後は……取り敢えずはこの程度だな。夏休み前に話してただろ。忘れたのか?」

「失礼ね。確認よ、確認。……でもありがと。忘れる前に思い出したわ」

「そりゃどうも」

 ……やっぱり、忘れてたんじゃ。


「いきなりだったので、今日は使い魔を動かす実戦訓練にしましょう。それでは、15分後に野外演習場に集合してください。何も用意はいらないです」

 教官殿が宣言するのに合わせて、生徒たちはぞろぞろと移動を開始した。

「使い魔を動かす実戦だって。何をするのかしらね」

「さあな。全く見当もつかん」

 本当に何をするんだろうか。この教官殿は割と突飛なことを言い出すことでそこそこ有名らしいが……。面倒なことにならなければ良いのだが。

 そして、予想は悪い方向に的中した。


「じゃあ、使い魔に()()がある人と無い人に別れてください」

 自我。自我と言ったか?そもそも自我を持つ使い魔を召喚できた生徒自体が全体で20人いるかいないかだ。そして、選択講義として召喚術を選択した1年生は全生徒500人ぐらいのうち、実に150人程度しかいない。実に4%ほどである。

 もちろん、俺もフィリアも、使い魔は自我を持つタイプである。

 補足しておくと、使い魔が自我を持つメリットは自身の指揮下にある個体が減る、斥候として使える、とかぐらいで言うことを聞かなくなる恐れがあるとか、魔力をより多く取られるとかのデメリットがある。そこまでして、自我あり使い魔を選択するメリットはあまり無いのだ。

 じゃああんたは何故自我あり使い魔を選択したんだ、の問いにはまたいつか、答えることにしよう。


 教官殿は俺たちの反対側を向いていた。

「今日は、使い魔を自分の思った通りに動かす練習にしましょう。自我なし使い魔の皆さんは、使い魔を使った鬼ごっこでもしましょうか。シンプルだからこそ、いい練習になりますよ」

 はーい、と圧倒的大多数の生徒が反応した。


 そして、この教官殿が受け持つ、たった6人の自我あり使い魔の持ち主はと言うと。

「思ったより少ないですね……。どうしましょうか……。

そういえばMs.アルトロイト。あなたの使い魔はどこに?」

「え……あの、その……」

 しどろもどろのフィリア。流石にあんなにアブない格好の美女を、生徒の眼前に晒すのは辞めたほうが良い、と判断してのことだったが……、それが完全に裏目に出た。

「体調不良です」

 なので、助け舟を出してやった。

「体調不良?」

「久々に現世に来れた喜びであれもこれも食べまくった結果、無事に腹を下したらしいです――だよな、フィリア」

「そう。そうならそうと言ってね。プログラムはどうとでもするから。――それで、プログラムか……。じゃあこっちも同じで良いな。使い魔がいる人だけで鬼ごっこをやろう」

 なんとか教官殿を誤魔化した。

 そこまでは良かったのだが。

「最初の鬼は……Mr.ガッシュトフィルト。君だ」

 ファッ!?マジ?終わった。元々爆走させる予定じゃないサクヤ――スペック上は可能だが、問題は服装――なにせ着流しだ。着流しでどうやって鬼ごっこをしろ、と。

「……ハイ」

 拒否権は無いのだった。


 ティアを連れてこなかったフィリアが観覧席に移動してから、他の5人の使い魔はサクヤから精一杯離れた。サクヤとの間の魔力パスを強化しつつ、彼女に耳打ちする。

「と、いうことだ。サクヤ。全力を出し過ぎるな。あとのチューニングが面倒だ。それと、衣服なら破けても構わん。あとで何とか治す」

「了解です、マスター。善処します」

 静かに、無表情に、同時に若干ドヤったようなサクヤ。うん、そういうの不安だから辞めてね。


 人数比の問題から、自我あり組が使える床面積は狭い。石灰で無造作に2つに分けた教官殿は、2組まとめて開始させた。


 そもそも使い魔とは何だったか、についてサクヤを走らせながら考えた。自我あり組の生徒は全員揃って野外演習場の縁に立ち、各々の使い魔に遠隔で指示を出している。彼らが使役している使い魔は実に多様だ。ここにいないティアのような〈悪魔〉に始まり(実際、低級の悪魔を使い魔にしたケース自体は存在するし、高級の悪魔と契約した事例もあるにはある)、ヴェアウォルフやケルベロスを模した疑似生命、ワイバーンの死霊、人造人間、フルプレートの付喪神(に似た概念の存在)など。……いや高度すぎない?俺を含めて、何を考えてそんな高度な存在を使い魔にしようとしたの?

 いや、過去を振り返っても仕方がない。

 横目で自我なし組の様子を見た。こちらはもっとシンプルで、犬とかオオカミとかの生きている動物が中心だ。むしろこっちがスタンダードである。

 ……もう自我ありとかなしとか、どうでもよくなってきた。気にしたらそれで終わりだ。

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