§.02 Summoning “The Danger"
「第1階層……〈現象〉
第2階層……〈上昇〉
第3階層……〈増大〉
第4階層……〈光〉
第5階層……〈収束〉
第6階層……【召喚】。
――I declare. I am he who holds your reins.
I demand. That you become my follower.
If you follow heaven's guidance and surrender yourself, then answer.」
途端に、魔術式の光が一層強くなった。空間から魔力を引き込み、薄暗い竜巻が発生した。
重ねて、その竜巻の表層に――警告文が表示された。
「フィリア!?何を呼び出す気だ!?明らかにヤバいものが出てるぞ!」
と言いつつも、ここまで来てしまったらもう戻れないのも事実。魔術を行使するにあたって、中断できるラインを越えてしまったからだ。これより先で中断した場合……最悪、術者が死に至る。
従って、俺が何か言ったところで何もできない。
「大丈夫よ!このあたしが、失敗するわけないでしょ!」
その自信はどこから出てくるんだ。
フィリアから魔力が抜け、魔術式に吸い込まれていく。竜巻が強くなるにつれ、騒音が激しくなる。鉄筋コンクリート作りの女子寮が悲鳴をあげる。まるで、これから来る未来を予測するかのように。
やがて、魔術式が要求する魔力量に達したようで、竜巻の増強は収束した。次いで竜巻は中心へ向かって集まり……爆音と激しい光を伴って爆縮した。
「うひゃっ!」「うわッ!」「ンアッー!」3者ともふっ飛ばされた。……なんだろうか、今聞く公害が混ざっていたような……。
俺は壁に頭をぶつけて止まった。フィリアは何故か立ったまま。サクヤは……知らん。目が光に慣れてきて、微かに新たな人影が見えた。
……人影?
「おい、フィリア……。一体……」
その“人影”は、腕を曲げたり伸びをしたり、運動機能の確認と思わしき行動を一通り取って、両手を腰にあてがって目の前の少女にこう告げた。
「お前か?アタシを1200年ぶりに起こしたヤツは?」
金髪赤目、長身、常人離れした体型。アニメか大衆向け小説か、或いはアダルトゲームにでも出てきそうなナイスバディの若い女が、そこに立っていた。
――ただし、全裸である。
「ねぇ!服を着て!」
顔を真っ赤にしたフィリアが、顔を仰け反らせた。テンプレな反応をありがとう。
「話聞けよ……。服は無いぞ。いつの間にか腐ったみたいだ」
「あたし、あなたみたいな大柄の女性服持ってないわよ……」
「……。フィリア。シーツの余りはあるか?」
このまま全裸美女がいるのはフィリアにとって目に毒(俺にとっては……言及しないでおこう)なので、助け舟を出すことにした。
「シーツ?あるにはあるけど……」
「とりあえず貫頭衣を仕立てることにしよう。服の類は明日か、週末に買いに行けばいい」
「――なるほど。イリヤ、頭良いわね」
「それほどでも」実際、この案のどこに頭が良い要素があるのだろうか。
安全ピンとシーツとそこら辺の紐を駆使して、とりあえず古代ローマや古代ギリシアには、なった。なったのだが、丈がギリギリだ。かなり危ない。
そして、仕切り直し。
「お前か?アタシを1200年ぶりに起こしたヤツは?」
「1200年?分かんないけど……あなたを呼んだのはあたしよ」
「なんだ、子供じゃないか。一体誰だ、こんな子供に呼び出させたのは……」
部屋の中を見回す美女。俺を見て「こいつも子供だな」と言い、サクヤを見て「こいつは人間じゃないな」と断じてから、再びフィリアに向き合った。
「どうやら、お前が本当に呼び出したみたいだな」
「だからそう言ってるじゃない。あたしが、あなたを呼び出したのよ。
それで、ここからが本題なんだけど……。あなた、あたしと契約しない?」
「契約?」
それからフィリアは、学院の選択講義として召喚術に関するものがあること、自分がまだ召喚に成功していないこと、それから成功しないと留年することまで伝えた。
「はーん、時代は変わったな……」
そこで美女は考え込んだ。
「わかったよ。面白そうだな。やろう」
「いいの!?」
大歓喜のフィリア。無理もないだろう。
「それじゃ、早く契約術式を結びましょ」
フィリアと美女との間に、頂点で立ったひし形の魔術式が浮かび上がった。
それぞれの魂の情報が魔術式に書き込まれ、複製されてそれぞれの身体に浸透する。
「……そういえば、あなた、名前は?」
フィリアが怪訝そうに尋ねた。俺も今の今まで、この美女が名乗っていないことをすっかり忘れていた。
「いや、それより先にお前が名乗るんじゃね?」
「それもそうね……。あたし、フィリア・ファルトゥス=アルトロイト。フィリアとでも呼んでちょうだい」
「友愛、か。いい名前だな。それじゃアタシだけど……幻滅するなよ?」
「するわけないでしょ」
「なら良い。アタシはテアマート。ティア、とでも呼んでくれ」
「テアマート……ってまさか、〈神殺しの大悪魔〉!?」
思わず叫んでしまった。
「あぁ……そんな名前、そういや一時名乗ってたっけ。まだ残ってんだ?」
残るもなにも、テキストにがっつり記載されているのだ。
一方、フィリアはいまいちピンと来ていないらしい。
「神殺し?そんなの居たっけ?」
「いや、知らないなら知らないでいいんだ。アタシも知ってほしいとは思わねぇから」
軽くおどけてみせるティア。
「――そういや、お前、名前なんて言うんだ?全く違和感なくそこにいたな」
なんだろうか。サラッと酷いことを言われた気がするのだが。
「イリヤだ」
「イリヤ、ねぇ……。女みたいな名前だな」
「俺のルーツは国外らしくてね。そこじゃ普通に男性名なんだな」
失礼なやつだな。そもそも、”イリヤ”の名前自体、女性名じゃないぞ。
だが、何はともあれ、ようやくフィリアの課題が終わったのだ。留年の危機は脱したに等しい。
「フィリア。そろそろ帰るわ」
「ありがとう。また明日ね」
手を振って部屋を出る。すっかり時間の感覚が消えていたようで、空はもう真っ暗だ。夕食に何を食べるか、冷蔵庫の中を思い出しながら帰路に就いた。




