闘志衰えず、意思は煌々と輝いて
「……へぇ。多少はマシらしいな」
「上から見下ろしてんじゃ、ねぇッ!」
言葉と同時、床を蹴ってアーガルズに迫る。
腕を引いて、佇む相手に拳を打ち込もうとするレンの耳朶に、余裕の声。
「残念だが、てめぇと俺の距離は思ってるよりずっと遠い。──こんな風にな」
直後、突進したレンの視界が揺れ、背中に強烈な衝撃が走った。
見ればアーガルズとの距離は元通り。
接近したレンは弾き飛ばされ、背中から壁に突っ込んだのだ。
つまり迎撃されたのだと、それだけをレンは理解する。
――だが、それをどうやったのか、レンには何もわからない。
「ここァ俺の拠点だ。てめぇみてえな敵を殺すための手段が一番多く転がってる。わかるか? 要塞となんら変わりねぇんだよ」
「とことん自分は引きこもってばっかじゃねえか。外に出る勇気がねぇのか?」
「ハッ、どれだけほざこうがてめぇの勝手だ。俺は、その口がいつ閉じるかを楽しみに、てめぇをいたぶり続ける」
レンを見下すアーガルズが片手を横に伸ばせば、それに伴って数台の砲台が地面から出現する。
地下に入れてあるそれを何かしらで起動したのだろう。
その原理はわからないが、『要塞』という言葉に嘘はないらしい。
アーガルズが手を凪ぐ。
それに伴って、十数の大砲の標準がレンへと合わせられ──魔法が、射出される。
その種類はよりどりみどりだ。炎に氷に、水に土に。
「ッくそ!」
床を蹴り、迫りくる多種多様の魔砲弾を躱す。
自分の背後に着弾する魔砲弾の威力は追随する風が教えてくれる。──まともに直撃すればひとたまりは無いだろうと。
「どうした!? そんな調子じゃ俺にゃあ近づけねぇぞ!」
──耳に届く声に苛つきながらも、しかしその内容は的を得ている。
如何せん砲弾一つ一つがでかいのだ。回避にかかる行動も大きくなってしまう。──回避のみに専念していては、ターンはレンに回っては来ない。
「口だけかァ!?」
「……!!」
嘲笑が飛ぶ。睨み飛ばそうとレンはアーガルズの方を向き――その場に止まる。
「は、諦めか? 潔いとでも言うと思ったか。みっともねぇ」
「――」
無言で立ち尽くすレンに魔砲弾は迫りくる。
空気を切り裂き、その弾の持つ属性をしかと発揮せんと、レンへ。
迫り、迫り、迫り――
「――やっぱりな」
「あ?」
直後、レンは魔砲弾を最低限のステップで躱し切った。――間髪入れずに地を蹴ったレンがアーガルズへ接近。
突然最適解の動き方をするレンに対して、アーガルズが怪訝の目を向ける。
そんなアーガルズに、一言――
「てめぇ、手で方向指定してんな?」
――その言葉に、アーガルズの目が細まった。どうやら図星らしい。
身振りを見れば、何処に着弾するかなど容易にアタリがつく。レンはその方向指定を見切るために、自分から立ち止まったのだ。
諦めた訳でも潔い訳でも無い。
むしろ、
「――諦めねぇよ。俺は!」
壁を蹴って空中から肉薄するレンの拳がアーガルズへ放たれる。
――だが、拳は呆れ顔のアーガルズには届かず、先と同じようにアーガルズの手前で止まった。
柔らかい壁でも殴っているかのように、拳は何もない空気に沈み――そして反発する。
「……ッ」
「謎解きできたら勝ち気分か? ならどんどん出してやるよ。――まだまだネタは尽きねぇぞ」
空間の反発。レンの体が望む先と逆方向に弾かれる。
一度目と同じようにレンの攻撃を防いだそれは、一度目と同じようにレンを背後に吹き飛ばす。
一度目と違う点は、それが一度目では無いことだ。
――姿勢を立て直し、激突まで二秒とないだろう空中で着地の準備を整えたレンが、危なげなく室内の床へ着地する。
「……『アレ』もなんとかしねぇと」
不機嫌そうに舌打ちしながら呟くレンはすぐさま体勢を立て直す。
再び撃たれるだろう砲弾に対処できるように。
――アーガルズの攻撃の種類がいくつもあるように、恐らく防御にもいくつか種類がある。
あれはそのうちの一つに過ぎないだろう。
――故に、手早く仕組みを解明する必要がある。
「さぁガキ次だ! 解いてみろ!!」
砲弾ではない別の攻撃。だがまだ攻撃の姿も見えない。早急に仕組みを――
「……!?」
直後、レンの体が意思に反して硬直した。
動かない。無理やり何かに引き止められているかのように。
「おいおい、隙だらけじゃねェか」
策を回避出来なかったレンを嘲笑うアーガルズの指先が、此方に向く。指輪のある、ゴツゴツとした指先。
そこに光が灯り――みるみるうちにそれは大きくなっていく。
こぶし大から人の頭程に。
人の頭から胴よりも大きく。
最終的に、レンの半分はあろうかという大きさの炎の塊が、アーガルズの冷たい視線と共に放たれる。
――やはりレンは、動けない。
「……ちっ」
「『ウル・ファイア』」
――直撃。
顔にぶち当たる物量と血の味がレンを満たす。
――だが、足りない。こんな程度ではレンを折るには、足りようはずがない。
「――」
明白な直撃を目の当たりにして、しかしアーガルズが目の前に広がる光景に鼻を鳴らした。
何故なら、
「――効かねぇ! こんな程度!!」
服は焼け焦げ、その顔から鼻血を垂らしながらも、しかし余力があると充分分かるほどの様相で、レンが火球を耐えているのだから。
頭を振って変わらずアーガルズを睨みつけるレンが、自分を縛る体の違和感がきれいさっぱりなくなっていることに気付く。
「……あ、動ける」
「芯から頑丈だな」
不機嫌そうに見下ろすアーガルズを、こちらも悪感情を少しも隠さずに見上げ、睨み返す。
「慣れてんだよ」
直後、レンは床の板を外してアーガルズの眼前へ投げつけた。
予想と予測の対抗策その一として、ひとまずアーガルズの目線を隠す狙いだ。
相手の視線で何かが発動するような術ならこれで動けるはずだと横に一歩を踏み、
「……っ、ハズレ……!」
直後に体を襲う硬直感に歯ぎしりをする。
――策は失敗。その代償は、有り余るほどの『隙』。
「どうしたんだ突っ立って。ほら、『ウル・ウィンド』だ」
とぼけるような声、狙いが外れことを嗤う顔。
当然その隙を見逃すはずもないアーガルズの指先が瞬き、今度は同じ規模の風魔法がレンの体を穿つ。
直撃するそれは、所詮風だと言うこともできないほどの威力をレンに与えてきた。まるで脇腹を力いっぱい棒でぶん殴られたような鈍い衝撃。それが、体の骨を軋ませる。
――だが、耐える。意思と想いと諦めの悪さで、いつだってレンはその場に立ち続けるのだ。
止まない血の味を意図的に無視して、吹き荒れる風に負けず目を開けて前を見る。
耐えたとはいえ、これを無防備に連続で食らうわけにはいかない。
――何かを見逃すわけにはいかない。
――何かを見落とすわけにはいかない。
今しているのは、命のやり取りなのだから。
「なにか、違和感を……! 違和感、違和感……!」
「間違い探しの時間じゃねェぞ!」
自分に言い聞かせるようにして動くレンに対して、アーガルズが腕を振って砲弾の方向指定をしてくる。
タネが割れたとて、使えなくなったわけではないのだ。当然、今までの攻撃など当たり前のように飛ばしてくる。
「……ッ」
視ること、観察すること。
見ること、理解すること。
だが、見るだけでは理解できないこともある。
脳を回して、思考を深くして、前を向いて――
――故にレンは耳を澄ませた。
「……!」
直後、カチッという何かの作動音をレンの耳が捉える。
もしやこれがと思う前に――レンの体がまた不自由に。
だが、これで決まりだ。
「……床に、スイッチ……!!」
――直後、砲台から放たれた魔法弾、そしてアーガルズの指先から放たれる火球。
その全てが、同時にレンへ着弾した。




