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一縷の望みをこそ貴方に  作者: みけたろー
一章:感謝と慈しみを貴方に。

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22/24

一部屋に目まぐるしさを重ねて

更新が遅れて本当〜〜〜〜〜に申し訳ございねぇ……書き貯めしたかったけど我慢できずに投稿しちゃった、あは

――薄暗闇。壁に掛けられた炎がくゆり、燃える。


いつものように明かりとしての役割を果たすそれに顔を照らされながら、黒い外套を纏う男、アーガルズは不機嫌そうに舌打ちした。


「……死んだか」


口にする事実。しかしアーガルズはその現場を見た訳では無い。だが、わかる。


主な駒だったのだ。なにか身体に重大なことが起こればわかるように布石を打っておくのは当然のこと。

――その布石が、仕事をした。


「ま、死んじまったもんはしょうがねえ。別の方法を取るだけだ。――ティール」


「……はい」


暗い部屋に、酒ヤケ声ではない、透き通った声が響く。その声音に感情は乗せられておらず、その目もまるで死んだように冷たい眼差しをしている。


部屋に薄く存在感を示すその少女は青髪で。その顔立ちは――レンがダンジョンで出会ったあの少女そのものだった。


「じゃ、いってこい。ダンジョン内の()()()()は暫く休業だ」


「……はい」


先と全く同じ声音で、少女、ティールが返事をし、部屋から出ていく。


「さあァ、大詰めだ。――王国騎士団も、堕格も、俺の金稼ぎにゃ邪魔なんだよ」



■■■



――足が竦む。自分の足場が、今にも崩れるような錯覚をする。いつも、いつも。

毎日こうだ。自分の命が脅かされないために、他者の命を脅かしている。


「……ごめん」


果たしてそれは、誰に向けた謝罪なのか。声の主――ティール自身にもわからない。強いて言うならば、今から魔法で追跡をするあの男の子に、だろうか。


自分がけしかけたイノコに対して、まるで抑えきれないように笑って挑みにいった、あの男の子。

あんな顔で笑えるのは、きっと心が汚れていないからだ。――世界を知らず、汚れることがなかったからだ。

だって、世界を、悪意を、余すことなく知っているのならば、


「……」


――自分みたいに、濁った目をしていないと、おかしいから。


ティールは人の居ない廊下で追跡魔法を発動する。触れた対象に自分の魔力をくっつけて、どこにいようとその位置を知ることができる魔法。

それを発動して、ティールはあの男の子の今の位置を――、


「……? あれ」


一人の廊下、その場に立ち止まり、ティールは不可解と困惑で声を漏らした。


――追跡魔法が、解除されている。


繊細とは程遠そうなあの男の子が、自力で追跡魔法の微弱な魔力気づき、自分で解除したのか。それはないと、ティールはゆるゆると首を振った。


ダンジョンから出るときに見かけた、六芒星ヴルムンドの副団長の彼らが関わった。――それこそありえないと、ティールは更に強く首を振る。


首を振って、否定して――視点を変える。


解除されたものは仕方がない。どうやったのかはわからないが、ひとまず過程は飛ばしてこの結果を、ティールは受け入れた。


あの男の子がトーラルを殺したのならば、共に向かったキャープも瀕死で捨て置かれているだろう。


「――解除されたものはしょうがないや。詰めれるところから、詰めてかなきゃ」


冷たく平坦な声音は変わらず、意識を切り替えるために声を出して――ティールは、キャープにかけた追跡魔法を辿ろうと、その脚を再び動かし始めた。



■■■



――路地裏に、月の光が落ちる。照らされるのは、血をとめどなく流して倒れ伏すトーラルと、その傍らに立ってトーラルを見下ろすレンだ。


拳が、熱い。それに全身が痛い。何度も打ち付け、投げられ、満身創痍にふさわしい風貌だ。ギリギリの命のやり取りで火花を散らし、その果てに――、


「……俺が、殺した」


拳に付く、自分のものではない血の感触を感じながら、レンは事実確認のように呟く。


――罪悪感はない。人は死ぬと、レンは嫌と言うほど知っている。自分の道を阻む人間は殺さなければならないことも、よく知っている。

あそこで、散々お父さんに教えられた。


だというのにレンが自分の拳に違和感を覚えるのは、決着の直前の感覚が原因だ。

何か、変な感覚がレンを包んでいた。自身の力だけでない、何か不可解な力が――、


「――レン、無事?」


「シュウ! シュウも勝ったんだな!」


レンの耳に声が届いた瞬間、レンは拳を緩めて声の方を向いた。その先に立つのは、中剣を二本携えたシュウだ。

服の汚れ以外に目立った傷が無いところを見るに、余程余裕で勝ったのだろう。


「シュウも敵、殺したのか?」


「どーだろ。死にかけだけど、死んでるわけじゃないと思う」


「ほら」とシュウが指を指した方を向けば、その先に倒れ伏している人影は多量の血を流してはいるが、よく見れば浅く胸が上下しているのがわかる。


「情報を絞り出す相手は必要だからね」


「あえてか! 凄えなシュウ!」


シュウが勝利したことを喜んでいるレンは、しかしその雰囲気がいつもと違うことをなんとなく感じ取った。――理由は目だ。


目が、素直に難敵を退けたことを喜んでいるだけの目ではないのだ。


「レン」


まだなにかあるのか。まだ退け、殺さなければならない敵が残っていたりするのか。


それを聞く前に、シュウが口を開いた。

そして、


「――すぐここを離れよう」


そう、言葉を打ち出してきた。


少々の焦りを孕んだその声音を聞いて――しかしレンはその必要性に首を傾げた。


「……なんで? まだ敵がいんのか?」


「敵、というか……夜間見回りの衛兵。この状況見られたらまずいよ」


視線を巡らすシュウに倣って、レンも改めて辺りを見渡す。

そうして目に入るのは、中々に破壊された路地裏の状況だ。そこかしこに破壊跡があふれ、小さな瓦礫が転がり、血が飛び散っている。そんな惨状の中心に倒れる、一つの死体。


確かにこれだけ見ればレンたちが街を荒らして殺人を犯した犯罪者に見えてしまうだろう。


――だが、この程度ならば、


「説明するだけじゃだめなのか?」


「……だいぶ、ちょっと……荒れ、過ぎてる、かなあ」


絞り出すように言われた。その様子を見て、未だこの世界についてまともな常識がないレンでも、なんとなく理解することができた。


――即ち、説明しても尚ダメなのだろうという、その一点だけをレンはひとまず理解する。


「じゃあ、宿戻るか。子供攫いの事件はこいつから聞こうぜ」


血だらけで意識のないキャープを担ぎ、レンたちはいそいそとその場をあとにした。



■■■



「それで」


一件落着、というように息を吐きながら声を漏らすのはレンだ。


――月も沈んでしまった深い夜。


キャープの傷口には布が押し当ててあり、今できる全ての手当はしている。最もレンは手当の方法など知らないので、全てシュウがしたのだが。

自分で切りつけた傷を自分で止血している様子はどことなく間抜けな感じがしたが、レンはそれを口には出さずに胸に留めていた。外に出したらまずい気がした。


自分たちの寝台に寝かせたキャープを横目に、レンはシュウへ疑問をぶつける。

即ち、


「コイツからは何が聞き出せんだ?」


という質問だ。


そのそも、レンは今自分たちが解き明かそうとしている事件の真相を深く理解することができていない。

ルティアという偽名の少女の所在を突き止めようとしてこの事件に関わり知ったことは、少女とはまるで関係のなさそうな子供たちが攫われているという事実だ。

子供たちが攫われ、それを追っているところに現れた敵がこのキャープとトーラルである。


部屋の光源である蝋燭がチラチラと揺れて、レンたちの影もそれに呼応するように揺れる。


「とりあえず、上は誰か聞けることは確かだよ。……答えるかどうかは別として」


「それで、ルティアを探すのは」


「聞いて無反応なら、また振り出し、かな」


その返答を聞いて、レンは悩ましげに目を瞑って首を傾げた。


如何せん情報が少なすぎる。たらればで物事を進めても仕方がないと、レンは仮定の思考を取りやめた。


情報を増やしてから再稼働でも遅くないだろう。


そうしてレンはキャープを一瞥して――その瞼がぴくぴくと動いていることに気がつく。


「シュウ、起きそう」


その言葉を聞くやいなや、シュウが気を引き締める。起きてすぐに戦闘になることを危惧しているのだろう。

それにつられて、レンもまた気を引き締めた――直後。


「……あの」


声が聞こえた。

その声が耳朶を打ち、二人は驚いたように声のした方へ顔を向ける。


顔の向く先は寝台などではない。目が覚めるだろうと構えていた先の相手が喋り始めて、どうして驚くことがあろうか。声は寝台からしたのではない。


「……いるよね?」


――声は部屋の外。扉の先から飛んできている。その声にどこか聞き覚えがあって、レンは訝しむ。

確かめるような声音の疑問は、中に人がいることを確信しているのだろう。――居留守は、できない。


返事をするべきか。そもそも、敵か味方か。


思考がぐるぐると渦巻くレンの脳内に更に一つ、追加情報が上乗せされる。


「――にゃ、んん……」


声は無論、寝台から。キャープが目を覚ましたのだ。


いまだ意識がはっきりしないのかキャープは目をこすりながらあたりを見回せば、そのおぼろげな目にシュウが映る。


――外の謎の声。加えてキャープの目覚め。シュウの意識がはっきりと、戦闘に構えられる。

いっそやられる前にやるとでもいわんばかりの勢いで剣の柄に手をかけている。


おぼろげなキャープの目。その目には敵対心がはっきりと――、


「強いやつ……そう、シュウ! シュウにゃ!」


「――は、ぁ?」


飛び出た名を呼ぶ言葉に、敵対心など微塵も含まれていなかった。それどころか羨望の眼差しですらあって。


「やっぱり中にいるよね! ねえ、ボク、ダンジョンで君たちに会った人だよ! その、ボク……」


外の主が、部屋内のドタバタを聞いて声を飛ばす。その内容に、レンは呆気に取られて言葉を失ってしまった。

ダンジョンで会ったことがある、聞き覚えのある声。――脳裏に浮かぶ顔に相違はないが、レンとシュウの間で浮かぶ名の認識には相違がある。

青髪の、レンが探し出そうとしていた少女が向こうから来たということか。


隣を見ればシュウと目が合った。わかっていたことだが、やはりシュウも困惑している。当たり前だ。状況が目まぐるしく変わり、予想を裏切る要素がこれでもかというほどに二人を襲っているのだから。


――状況は二人を顧みずに動き続ける。


寝台から起き上がった獣人の少女と、扉の先の少女の声が、重なる。


「「――頼みがある」んだ!」にゃ!」

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