第405話 「出現!鋼鉄の破壊神」(バトル)
リンとリュウカンの合わせ技によって、黒天羅漢女ブルドーザー・ビルは地に転がった。
しかしその代償として、リンの両手と両足は疲労によって一気に脱力しその場に仰向けに倒れた。
「姐さん、大丈夫ですかい?」
リュウカンが駆け寄り、足に手を添えた。整体師の技術を発揮して施術を試みる。
「え、ええ。ありがとうリュウカン。生身で無茶しすぎたみたいですわ」
「まったくですぜ。監獄の時といい、もうちっとご自愛くだせぇ」
リュウカンの整体の腕は言うまでもなく一流。瞬く間にリンの手足に自由を取り戻した。ゆっくりと上体を起こす。
「そんで・・・どうなさるんで?」
回復したリンを前にして、リュウカンの口調は重かった。それは、これからの死闘を予感させる。
「決まってますわ。一気に決着を付けるしかなくってよ!」
リンの掌の中には雷魔法を封じた魔法珠が握られている。ビルがまだ生きており、これからが本番であるということを確信しているのだ。
「そうだよ、そのとおりだ!まだ終わっちゃいないよ!」
地面に仰向けに転がるビルが爽快な大声で笑った。巨体の色が変わり始めていた。
「なんだぁ?あの女、肌の色が・・・変わってやがる」
「彼女、身体の構成に鉄が含まれていると言っていましたわ。それを邪神の力で強化しているのでしょう。つまりここからが・・・」
「本気の本気ってやつですかい・・・」
リュウカンは固唾を飲んだ。さっきまでの時点で腕力、肉体の質、気迫、威圧感。ビルのそのどれもが圧倒されそうなほど強力なものだった。それがさらに強まるとなっては覚悟を決めるしかなかった。
ビルがむくりと身体を起こして立ち上がった。その全身は金属化が終わり、朝日を照り返すほどの光沢だった。
「へへ・・・たまんないね、力が溢れてくるよ。どうやら神の力ってやつが完全に馴染んだようだ」
胸の前で拳を突き合わせ、ビルは力強さを強調する。響く音と見える姿は金属そのものだが、動きには生身のしなやかさが見える。
「!これは、まずい・・・!『戦装・雷神王』(せんしょう・らいじんおう)!」
ビルに危機感を覚えたリンが、握りしめていた魔法珠を握り潰し、強化魔法『戦装・雷神王』を発動させた。全身に雷魔法が行き渡り、筋肉が膨張する。
「ふぅぅ・・・リュウカン、下がっていてくださいます?ここからは力と力の勝負ですわ」
雷神王の発動に伴い、リンは闘争本能が激しく昂る。その意識が技を主とするリュウカンを足手まといと断じたのだ。
「へっ、姐さん、軽く見てもらっちゃあいけやせん。言いやしたでしょ、相手が人の形をしてるなら・・・あっしの手の内でさぁ!」
克己の声をあげ、開手を向けて腰を落とすと、リュウカンは戦闘態勢をとる。
「リュウカン、貴方・・・そうですわね、ここまで来たなら一蓮托生・・・共に輝きましょう!」
リンは浅慮を訂正すると、心強い相棒と背中合わせで拳を構えた。
それは二人で一人、力と技のひとつの武神が誕生した瞬間だった。
リンとリュウカン。並び立つ二人を見て、ビルは興奮で総毛立ったのを感じた。足元から頭頂まで痺れるような感覚が走り抜け、思わず笑顔と声が漏れる。
「おっほぉ~・・・この感じ、たまんないねぇ~、そんじゃあ、全力で・・・やろうかぁ!!」
いてもたってもいられず、ビルは走り出した。金属化して質量と体重が増したことにより、一歩踏み出す度に足がめり込み地面が揺れる。
「楽しみたいんだ。避けるなよ!」
「上等ですわ!」
ビルの愚直な宣戦布告に、リンも愚直に応じた。金属の拳を聖鎖ダグマを巻いた拳で受け止める。火花が散って、金属音が耳を打つ。
拳と拳がぶつかった衝撃によって、両者の拳が跳ね上がった。
「くっ、それなら・・・」
「これだぁ!」
二人は同時に踏み込んで額をぶつけた。再び衝突音起こるが、今度は金属と肉による鈍い音だった。
「生身で受けるってかい?無茶するね!」
「おあいにくさま。痛みは望むところでしてね。この程度、無茶に入りませんのよ!」
余裕をもって返事をするものの、リンの額からは血が流れ足が震える。
やはり金属に対して耐久性は劣るのだ。その差でリンは地面に打ち込まれたような痛みを受けた。
「へっ、やっぱり効いてんじゃないか。そんじゃあ・・・もう一発だぁ!」
大きく頭を引いて、再び打ち付けようと振り下ろす。
しかし、一時の興奮でビルは失念していた。相手が二人だということを。
「リュウカン、今!」
「あいさぁ!」
ビルの大仰な動作に好機を見たリンが呼びかけると、リュウカンがリンの股下を潜り二人の間に入ってきた。それに合わせてリンは一歩、身を引く。
地を這うような超低姿勢から一気に立ち上がると、リュウカンはその勢いを乗せた右の掌底をビルの上を向いた顎に叩き込んだ。
金属化した身体にはリュウカンの打撃は効果が無かったが、狙いはそれではなく抜骨術による顎関節の脱臼だった。
『がごん』と音が鳴り、ビルの下顎が垂れ下がる。
「さすが金属製、技の効きが甘ぇや。そんなら、もういっちょう!」
さらにリュウカンはビルの左右の鎖骨に指をかけると、強引に取り外した。支えを失った両腕が顎同様に垂れ下がる。
「あんは、よひゅも・・・」
ビルが開ききった口で言葉を発するが、空気が漏れて全く聞き取れない。金属となった身体でも、構造は同じだった。
「ぬぅぐぎぎぎ・・・よふもぉ、やひゃあはったなぁ。ぬぅおおおお!」
骨を外され、窮地にありながらも、気合いを込めるとビルの顎と両腕が引き上がる。
「根性だけで、あっしの技に抗いなさるか。姐さんじゃあるめぇし、無茶が過ぎるぜ」
ビルの行為は、単なる上級冒険者ならリュウカンの言葉通り無茶となる。だが、黒天羅漢女を吸収した身体は常識の範囲外。思うままに無茶を働かせるのだ。
「ぬぅうううう・・・だぁっ!」
締めの喝声と共に、ビルの外された間接が鈍い金属音をたてて修復された。その反動で一瞬上体が浮く。
「はっはっはぁ、くすぐったいねぇ。その程度の小細工じゃあ、すぐに元通りだよ!」
「確かに、あっしの技じゃあんたは殺れねぇ・・・だったら、後は託させてもらいやすぜ」
「なに?」
リュウカンが静かに動いた。
ビルの胸部左に両手を上下に開いた形で密着させると、左右の上下を一気に反転させる。
「せりゃ!『崩し車輪』!」
これまでの繊細にして巧みな抜骨術とは違い、強引に身体の構成にを崩壊させる技。それによって、ビルの左側の肋骨の全ての結合が外れた。本体外からの衝撃を和らげる役割の肋骨が、役割に背き敵を迎えるための道を開く。
身体の左側から骨格の張りが消え、さらに左腕が背に回る。左半身ががら空きになった。
「ぐぁああ、い、痛ったい!逆らえない・・・身体が、無理矢理動かされる・・・」
「こっちの仕込みは終わりだ。そんで次は・・・」
揚々とリュウカンは宣言すると、後ろのリンに振り返り整体の指を走らせ、肉体を刺激した。
リンの筋肉が更に膨張、緊張。存在感、圧迫感が増強された。
「姐さん、準備は整いやした!やっちまってくだせぇ!」
「な、なんですの・・・これ?雷神王だけじゃなくて更に力が増してくる!」
「全身を限界以上に動かすための、とっておきの技でさぁ。ですが、効果は十秒と持ちやせん。一撃で決めてくだせぇ!」
そう言い残すとリュウカンはビルの股を潜り姿を消した。リンとビルの間に、絶好の間隔がうまれた。
「感謝しますわ、リュウカン!うおおおおおおお・・・」
聖鎖ダグマを巻いた右の拳を全力で握りしめ、弓を引くように大きく振りかぶり、反転するかのごとく足を起点に腰を回す。
充分力を溜めたところで、重心を落として両足を踏み込み、一気に反転し前へと解き放つ。
単純な全力の拳。だが、強化魔法と整体術の重ね掛けがその一撃を神さえも屠る究極の一撃へと変える。
「『戦装・雷神王・暴爆影』(せんしょう・らいじんおう・ぼうばくえい)!」
全身全霊の拳が直線で放たれた。
一瞬よりも短い時間で拳はビルに到達すると、リンの太い腕が肘まで身体にめり込んだ。
金属製の身体が変形し、背がめり込んだ分だけ飛び出す。
「あ・・・か・・・。・・・」
神速の拳はビルに反応の声を発することすら許さない。
放たれた瞬間に決着はついていた。
ビルは事切れると、身体が金属化が解けないまま硬直し、ビルの形をした像と化した。
ビルの死を見届けると、リンはゆっくりと拳を引き抜き、少し目を閉じて強敵への哀悼を捧げた。
◯リン・スノウ(戦装・雷神王)
◯黒天羅漢女ブルドーザー・ビル(金属化)
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