第403話 「激闘開幕。底の見えない邪神の力」(バトル)
ビルの発動させた血衝爆は、激しい紅い気の爆発を起こし一帯を爆炎の嵐で飲み込んだ。
シフォン軍の戦士たちは、すんでのところで離脱散開し、まき上がった紅い爆煙を包囲する。
「なんという魔力の爆発だ・・・とても人間業ではないぞ」
空中で紅い爆煙を見下ろしながら、魔力の扱いに長けるナルは呟く。
生来、ビルは魔力に恵まれてはいないが、黒天羅漢女を吸収したことにより、気と魔力、共に規格外のものを手に入れたのだ。
「ねぇナル、この煙おかしくない?収まる気配が無い・・・」
隣で同じく爆煙を見下ろしていたメイが気づいた。煙は広範囲一帯にもうもうと立ち込めているのだ。
「・・・しまった、この煙も魔力の産物か!」
ナルが叫んだ。
その瞬間、紅い煙がさらに広がり、周囲の戦士たちを包んだ。
紅い煙によって、戦士たちが個々に分断された。その濃度は、至近距離だったメイとナルが互いを視認できないほどだった。
「げ、げほっ・・・なによこの煙・・・すごい魔力の濃度・・・」
全身のみならず、喉の奥にまで纏わりついてくる紅い煙に、メイはむせて、たまらず上空に避難した。
急上昇したことにより、メイは紅い煙の塊から脱した。
「この煙・・・放っとくわけにはいかないわね。『ブリギットブレ・・・』」
紅い煙にえもいわれぬ危険性を覚えたメイは、聖なる炎『ブリギットブレス』で浄化を図る。
しかし、発動のために魔力を集中させて動きを止めたところに、真下の紅煙の中から暗処悲噛姫が高速で飛び出してきた。
「させぬぞ、炎の娘よ! 」
メイの両手首を両手で掴み動きを抑えると、暗処悲噛姫は顔を鼻と鼻が触れそうなほど近づける。
「小娘よ、お主の魔力、実に魅力的じゃのう。その身の内に無限に近いほどの炎が燃えておるではないか!良いぞ良いぞ、我らの贄となれ!」
暗処悲噛姫は興奮していた。器具で弱体化されているとはいえ、潜在的な魔力量を嗅ぎとったからだ。
メイの手首を掴んだ暗処悲噛姫の手が変化する。形が崩れ、軟体化し長く伸び腕に巻き付く。
「こいつ・・・形を変えられるの?」
「ふぁふぁふぁ、余は神ぞ、お主らの目に映る姿なぞ万の理の一片にすぎぬ!」
高く笑うと、暗処悲噛姫は両足も変化させる。またしても形が崩れ、両足に絡み付く。
「光栄に思うがよいぞ小娘。その魔力、我らで食らいつくして復活の贄にしてくれる」
「くっそう・・・調子に乗るなよクソ神めぇえええええ・・・」
手足に絡み付かれたまま魔力に干渉を受けたメイは、制御を失って暗処悲噛姫と一塊となり紅煙の中へと落ち消えていった。
◆
紅い煙に危機感を抱いたのはメイだけではなかった。
サイガ、ナル、ジョンブルジョン、リリーが煙に対処するために、それぞれの技を発動させる。
サイガは風の魔法珠を魔法剣に嵌め込み、刃に風を纏わせる。
ナルはハチカンを大砲形態にし、爆発する冷気を発射するウバーラ弾を装填する。
ジョンブルジョンは義手に装着する収納魔法の魔法珠から素材を解放し、構築魔法で強烈な爆風を生む爆弾を作る。
リリーは加護を発動させ大型の扇風機を右腕に装備。強烈な風を送り始めた。
「風の龍よ天に昇れ『暴龍嵐気』!」
「吹き飛ばす!ウバーラ弾、発っ射ぁ!」
「この程度の霧、とるに足らんぞ!」
「おおおおおらぁぁぁぁあああ!『サーキュレーター・クルーゼ』!」
サイガが上へ、ナルが地面へ、ジョンブルジョンが紅い霧へ、リリーが一帯に向けて。
四人が同時に放つ。
ウバーラ弾とジョンブルジョンの爆弾による爆発が、紅い霧を揺るがす。
続いてサイガの風の龍が上昇気流を伴いながら天へと飛翔する。
そして、周辺の紅い残滓をリリーが激しい強風で完全に消し去った。
神の御業による脅威を、人間が連携して抗い退ける。この偉業ともいえる成果に、人間たちはにわかに沸き立った。
が、霧の去ったあとに現れた光景に、全員が言葉を失った。
霧の消えた地、その中心点には暗処悲噛姫がいた。だがその形は乗っ取ったはずのスリーダイスのそれではなく、顔だけを残して黒い軟体となってメイの全身に絡み付いていた。
伸びた手足がメイの手足に巻き付き、さらにタコの手のように蠢く触手が目口を塞いでいる。
「メイ!くっ、あいつ・・・次はメイの魔力を狙って・・・」
仲間に手をかける邪神に、リンが嫌悪感を露にする。
「今すぐ離れろ!カバカ弾装填、発射あ!」
ナルが動いた。言葉と同時にライフルから精密射撃のカバカ弾が射たれた。狙うは人の形を残した頭部だ。
それを受けてリンも走り出す。
「甘いわ『写分身水面鏡』!」
メイに纏わりつく暗処悲噛姫。その顔が邪悪な笑顔を浮かべながら神域の魔法を発動させた。
周りに五つの鏡が出現し、暗処悲噛姫を写し出すと鏡はそのまま暗処悲噛姫へと形を変える。五体の邪神となったのだ。
五体のうちの一体がナルの銃弾を胸で受け止めた。
氷の弾は胸の谷間に埋もれると、溶けるように消えていった。
「ふぁふぁ、よう冷えて美味であるぞ」
「なんだと、吸収したというのか?」
「然り。足しにならんほどの脆弱ではあるがの」
鏡が転じた暗処悲噛姫は本物同様の受け答えをした。
「心するがよい、こやつらは余の分身でありながら力に遜色はない。炎の娘の魔力を食らい尽くすまで、ゆっくりと相手をしてもらうとよいぞ。ふぁふぁ」
顔だけを残した暗処悲噛姫が笑いながら告げると、複製の五体が無言の笑顔で戦闘態勢をとった。
「それなら、まとめて蹴散らしてあげますわ!マスヨス!」
走り出し急接近してきたリンが跳び上がって聖錨マスヨスを振り上げる。
「おっとぉ、アンタの相手はアタシだよ!」
襲いかかるリンに、横からブルドーザー・ビルが現れ攻撃を遮った。鉄の拳が顔面を叩く。
「く、邪魔を・・・するな!」
拳を受けながらも、リンの身体は揺らがない。友を救うという使命感が支えているのだ。
リンが一瞬身を退いた。
隙間が生まれ、そこでビルに向き直るとマスヨスを一気に振り下ろした。
「おっらぁ!」
「ぐぇ!」
マスヨスを脳天に叩き込まれ、ビルは地面に叩きつけられた。
「まだまだぁ!」
さらにそこに、垂直に構えて追撃を打ち込む。
鉄を含み神の力を吸収したビルの身体は内外ともに頑強だが、友のために昂ったリンの攻撃は破壊的な威力でその耐久力を突き破る。
「おら!おら!おら!おおおおお・・・らぁ!」
柄を持ち直すと、振り下ろし、振り下ろし、振り下ろし、何度も何度も叩く。
最後に身体を後ろに反転させると、竜巻のように大きく振り回し遠心力を乗せた一撃を、自身の身体が浮き上がるほどの勢いで叩き込んだ。
衝撃がビルの身体を貫通し、クレーターが生じた。
神の力を得たビルを圧倒するリン。これが、人と神の激戦の始まりを告げる号砲となった。
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