第402話 「目覚める邪神たち。迫る死の刻限」(ストーリー)
深夜の奇襲から始まった両軍の戦いは、空が白んできた頃に決着の様子を見せてきた。
スリーダイスの姿をした暗処悲噛姫をシフォン軍の名うての戦士たちが包囲し、一切の挙動を許さぬと目を光らせている。
「さぁ覚悟しなさい。神だかなんだか知らないけど、指一本でも動かしたら一瞬で灰にしてあげるから!」
最初に口を開いたメイが強い言葉を浴びせた。
戦場を照らす太陽の役割上、リンに対するビルからの一方的な攻撃を見ていることしかできなかったため、鬱憤が頂点に達しているのだ。
「おのれ、下の者が・・・」
圧倒的不利な形勢に、暗処悲噛姫は抵抗を諦めた。
ここでリュウカンとシズクヴィオレッタが動いた。リンとミコの救護のためだ。
静海一刀流の流麗な足取りでシズクヴィオレッタは疾走し、ミコのもとに到着したと同時に刀を走らせ身体を固定していたトゲを微塵切りにした。
解放されたミコが脱力したまま落下して、シズクヴィオレッタの腕に抱き止められた。
「あぁミコ・・・こないな目に遭って、辛かったなぁ・・・」
「うん、すごく痛かったから、アイツ絶対やっつけてやる!」
腕の中から即座に身体を起こし、ミコは復讐を誓う。腹部から血を流しているが、野生の闘争心が痛みを忘れさせる。
一方のリュウカンも、リンのもとに駆け寄るとビルの打撃によって歪んだ骨と筋肉を抜骨術で整形する。
「姐さん、こいつぁずいぶんは派手にやられなすった。ですが安心してくだせぇ、あっしにかかればこの程度・・・ほりゃ!」
血まみれの頭部に両手を添えると、左右のずれた頭骨を正常な位置へ戻し、顎、首、肩、背骨と順に整えていく。
「助かりましたわ、リュウカン。おかげでまだまだ戦えますわ」
施術を受け終えると、リンは戦意の漲った顔で立ち上がった。
「応急処置でやんすから、あまり無茶は禁物ですぜ姐さん」
リュウカンの忠告に、リンは笑顔で応じた。
拘束と重症から立ち直ったミコとリン。その事態に、暗処悲噛姫はさらに状況が悪化したことを実感する。
「これはこれは・・・由々しきことよのう・・・このままでは如何な余とて討たれてしまうわ」
危機的状況においても暗処悲噛姫は不適に笑い、その右手が僅かに動いた。周囲の目を盗んだ密かな動きだった。
「動くなっつってるだろ」
聞き分けのない邪神の行動に対し、目ざといウォルフジェンドが呆れながら指弾を射った。
右手の甲に二発のベアリング弾がめり込む。
「ぐぅ・・・良い目をしておるな」
「たりめぇよ。スリーダイスのナリしてんだからよ、手の動き見ねぇでどうすんだ」
「ふぁふぁふぁ、そうか・・・手の内を知られておったか・・・ふぁふぁふぁ」
「貴様、何を笑っている」
手段を封じられながら不気味な笑顔を見せる暗処悲噛姫に、それを至近距離で目の当たりにしたサイガが眉を潜める。
「なぁに、手の内を知ってはいるが、文字通り手しか見えておらんなぁと思うてなぁ・・・ふぁふぁふぁ」
「なんだと?」
「人の常で余を捉えるなと言うておる!この身全てが力そのものぞ!」
暗処悲噛姫が言いきると同時に、足下を中心に黒い亀裂が走った。激しい魔力の波動だった。
「しまった、魔力を足の裏から放出したのか!?みんな避難しろ、範囲が広い!
巻き込まれるぞ!」
上空で俯瞰するナルが事態をいち早く察知し警告を発した。
サイガをはじめとした全員が亀裂の範囲外に退避する。
そのその直後、黒い亀裂から黒いトゲが発生し戦士たちが居た場所を埋め尽くした。
一瞬で一帯が黒く染まった。
「ふぁふぁふぁ!逃げたか、賢明じゃ。この『棘陰浜菅』は、触れたものをたちまちに腐らせるぞ!」
包囲が解かれた暗処悲噛姫が、ビルの飲まれた穴を見る。
「ビルとやら、いつまで埋まっておるつもりじゃ。他の連中の封を解くぞ。早う出てこい」
叱咤するように呼び掛けると、穴を埋めていた瓦礫が轟音をたてて直上に打ち上げらた。
続いてビルが飛び出してくる。その身体は鉄の皮膚によって傷ひとつなかった。
「すまないね。リリーのやつが地下をコンクリで固めてやがったせいで手間取ってたんだ」
「ふん、まぁよい。余はこれより儀に入るゆえ、お主は露払いをせい」
「あいよ。そういうのだったら任せときな。とりあえず暴れときゃいいんだろ?」
暗処悲噛姫の命を受け、ビルは自信満々に力瘤を強調しながら笑ってみせた。
「・・・ちと違うとるが、まぁ結果が同じならば構わぬ・・・」
「そんじゃあ、やってやるよ!どうやら神の力ってのが身体に馴染んできたみたいでね、内側からヤバいのが溢れてきてんだよ!」
そう言うとビルは全身の筋肉を膨張硬化させ、さらに紅い闘気を迸らせる。
「うぉおおおおおおお!『血衝爆』!」
内側で充分に抑え込んだ神の力を、ビルは一気に解き放った。
紅い気の爆発が起こり、一帯を吹き飛ばした。
◆
戦場、『神返しの儀』が行われるはずだった場所では、信徒より封印から神が抜け出したという報告を受けた人道魔王ズィィムが現場に参じ、簡易的な儀式を行おうとしていた。
「うぬぬぬぬ・・・なぜ神が失せたかはわからんが、少なくともこの三柱だけは制御せねばならん・・・かくなるは贄を増やすか・・・」
神が抜け出し空となった『封神の戒筒』を覗き込みながら、ズィィムは考えを巡らせる。
「お、お師様、大変です!敵陣の方角で、とんでもない魔力の爆発が起こっております!」
後方で信徒が驚愕の声をあげたことにより、ズィィムの思考は中断させられた。
顔を上げて信徒と同じ方向を見る。
「むぅ、あれは・・・紅い気。よもや黒天羅漢女?あんなところで何故?しかもこの規模での威力ということは、復活を果たしておるのか?わからん・・・何が起こっておる・・・?」
紅い爆発を眺めながら考察するが答えは出ない。頭の中が乱される。
「お師様!」
「今度はなんじゃ?」
再び、信徒が動揺した声で呼び掛けてきた。ズィィムは辟易した顔で振り向く。そこで目の当たりにした光景に、身体が硬直する。
「な、なんだと・・・封神の戒筒が震えているではないか!?どういうことじゃ?まさか、こっちも封印を破ろうとしているのか?」
ズィィムの考えは的中していた。封印されいていた残りの三柱の神は暗処悲噛姫が『厄災』のサイコロによって顕現した時と同様の現象が起ころうとしていたのだ。
三つの戒筒が激しく振動し、所々に亀裂と破損が生じる。そしてそこから不定形のモノが滲み出してくる。
『ぬぅぅぅぅ・・・どこだ・・・器・・・力・・・』
滲み出したモノが呻くように声を発した。その様子は、ビルに吸収される前の弱りきっていた黒天羅漢女を彷彿とさせる。
『感じる感じる・・・力・・・我らと似た力・・・神域神域・・・』
三つ全てのモノが意思や思考ではなく、直感的な声と動きを見せる。
永い時間の封印が神々にもたらした状態は、暗処悲噛姫や黒天羅漢女と一様だった。弱りきった神々が最初に求めたのは、その礎となる魔力だったのだ。
『あそこだ・・・いくぞいくぞ』
『力だ・・・よこせ・・・ささげよ』
『ぬぬぬぬおおおおおお』
強引に封印から呼び起こされ、形すらまともに保てないほど弱りきった三柱の神は、同胞の力を感じる方角に揃って飛び去っていった。
ズィィムはポカンとした表情でそれを見送るしかできなかった。
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