第401話 「戦士大集結!邪悪な神を討て!」(バトル)
「潰れちまいなぁ!」
窮地にありながらも矜持を失わないリンの言葉に、ブルドーザー・ビルは激昂しその頭を掴む両手に力を込める。
ミシミシと頭蓋骨が圧迫される音がリンの頭骨内に反響していく。
「うぉおおおおおお!」
「く・・・ぬ・・・!」
「やめろぉ!リンをはなせぇ!」
ビルが唸り、リンが堪え、ミコが叫ぶ。そして・・・。
『ゴギン』と、音が鳴った。肉弾戦を得意とする三者が馴染みの深い、骨の砕ける音だった。
「う、うわぁあああああん!リンが死んじゃったぁあああああ!わぁあああああん!」
ミコが泣き叫んだ。仲間の死に、自身のおかれた状況に構うことなく声を張り上げる。
「ミコ・・・見くびってもらっては困りますわ。こんな穢れた力に屈する私だと思って?」
「にゃ?リン!?」
思いもよらず聞こえてきたリンの声に、ミコは泣き止んだ。鼻をすすりながら赤くなった目を向ける。
リンは生きていた。
ブルドーザー・ビルに頭を両手で挟み込まれた姿勢のまま、その手首を手で掴み渾身の握力で握り潰していた。
骨が砕けた音はビルの手首が粉砕された音だったのだ。
「ぐぁああ!アンタ、まだそんな力が残ってたのか!?」
激痛に耐え兼ね、ビルが手を放した。
すかさず、リンはその場で跳んで両足を揃えてビルの胸を蹴った。ドロップキックだ。
鉄を含み五百キロを超えるはずのビルの巨体が水平に飛んだ。受け身もままならず、仰向けに倒れた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・や、やってくれますわね・・・頭が、歪んでしまいましたわ・・・はぁ、はぁ・・・くっ・・・」
反撃をするも、消耗が激しく片膝を着くリン。下を向いた顔の全ての穴から血が流れ出る。
「ふぁふぁふぁふぁ!やるのう小娘。黒天羅漢女の力を取り込んだ悪鬼の子を力で退けるか。面白いのう!よもやこれほどの剛の者がおるとは、良い時代に目覚めたものじゃ。あやつには感謝せねばなるまい。ふぁふぁふぁふぁ!」
弾けるように笑い、暗処悲噛姫は喜びを表した。両手を叩いてブルドーザー・ビルを見る。
「げ、げほっ!くそっ、手首と胸の骨が砕けやがったよ。どこからこんな力が出てくるんだ?」
二ヶ所の骨折という甚大な被害を受けながらも、ブルドーザー・ビルは平然とした口調で立ち上がった。
「そんな・・・た、立てますの・・・?あの蹴りを受けて・・・」
「知ってるだろ?アタシはそもそも頑丈なうえに悪鬼の血が神の力で強化されてるんだ。傷なんてすぐに治るよ」
ゆっくりと身体を起こしながら、ビルは理由を述べる。そのゆとりのある口調がリンに絶望を与える。
「ビルとやら、もう満足であろう。終わらせて持ち帰るぞ。モタモタしておっては他の神が力尽きてしまうわ」
見切りをつけた暗処悲噛姫が、興の終わりを宣言した。
「ちぇ、こいつと戦うのは楽しかったから徹底的にやりたかったんだけど・・・しょうがないか」
死に物狂いの抵抗を受け闘争心に火が着いたところに水を差されたかたちになったため、ビルは不完全燃焼となったが、大局を鑑み受け入れた。
「そんじゃあ、一発ぶん殴って気絶させるか」
軽くため息をつきながら、ビルは大股でリンに歩み寄り拳を握る。
「せーの・・・うわっ!」
拳を大きく振りかぶる。その瞬間、リンが急速に上昇した。見下ろしていた視線が、上に流れる。
しかしそれは錯覚だった。リンが上昇したのではなく、足下が崩れたことによりビル自身が降下したのだ。
「あんま調子にのってんじゃねぇよ、ビル!」
怒りを含んだリリー・コールドの声が足下の地中から響いた。
「この声、リリー?ははっ、そういうことか!」
地下から地面を崩壊させる芸当に、特級冒険者のリリーならさもありなんとビルは笑った。
特級と上級の差はあれど同じ冒険者、そこは互いに認めるところだった。
リンの危機にすんでのところで駆けつけたリリーは、その足場を地下から『ダイナマイト・バッパー』で破壊崩落させ、ビルを落下させた。
地下に落ちたビルの上に大量の土砂が流れ込み、あっという間に生き埋めになった。あとに土煙が立ち上る。
地上には入れ替わるように飛び出してきたリリーがいた。
「だいぶ派手にやられたな暴風。あいつって、そんな強かったか?」
リンの深傷の様子に、ビルを知るリリーは納得できずに尋ねる。
「あやつは神の力を食ろうて神域に達したのじゃ。その娘の様は当然であろう」
息も絶え絶えなリンに代わって、暗処悲噛姫に乗っ取られたスリーダイスが答えた。
「・・・誰だ、お前?スリーダイスをどこにやった」
声の方向に振り向き、暗処悲噛姫を強い目付きで睨むリリー。声も姿もスリーダイスそのものだが、内側から溢れ出る強烈な違和感は隠しようがなかった。
「何を言うか。お主は目の前で見ていたであろう、あの女は食ろうた。もうおらん」
ニヤリと笑い、暗処悲噛姫は腹をさすった。
「てことは・・・あの時の黒いのか。意思があるのか」
「ふぁふぁふぁ。我は神ぞ、当然じゃ」
「神だと?それにビルも神域だって言ってたな。てことは・・・どうやら、大分ややこしい状況になってるな。もしかしたら、ズィィムが変なことしてやがるな」
予想されていた『神返しの儀』の発動前に戦場に現れた神の存在。リリーは『人道魔王ズィィム』の関与を考える。
「まぁいいさ、冒険者も神も関係ねぇや。・・・ぶっ潰す!」
リリーが加護を発動させた。右腕にクレーンのアーム。左腕にチェーンソーが現れた。これは共に攻撃と防御を兼ねる。
「甘いわ、できるものなら・・・やってみよ!」
戦闘態勢をとった暗処悲噛姫が、胸の前で腕を交差させ、大きく勢いよく広げる。手の平から複数のサイコロが投じられた。
「なんだと!?あいつのスキルが使えるのか?しかもなんて数・・・」
スリーダイスを知るリリーは、そのスキルの効果と限界を理解していた。その数は一度に三つまで。
だが今、目の前で展開されたそれは、一瞬の目測でも二桁に上る。似てはいるが別のもの。スリーダイス本人同様に、スキルにもリリーはその感想を抱いた。
「ま、まずい・・・威力と作用の予想がつかねぇ」
「ふぁふぁふぁ、驚いているようじゃの。お主の知る頃のものとは比べ物にならぬほど強うなっておるぞ!よう味わって、命を捧げるがよいぞ!」
投じられたサイコロがリリーとリンを包囲する。効果がなんであれ、そもそもの威力を知るリリーがらすれば絶望でしかなかった。
「そうら、串刺しよ!」
包囲するサイコロが変化した。複数の内側に向かうトゲとなる。
「くそ、せめて防御を・・・『シールド』・・・」
「この程度にビビってんじゃねえよ、小娘!」
リリーを凌ぐ悪態の声が聞こえた瞬間、飛来した何かが全てのサイコロを撃ち抜き破壊した。視認することができないくらい、短い時間の出来事だった。
「敵の動きはいつでも未知。つまんねぇ予想かましてっから不意を突かれるんだ。気ぃ張っとけ!」
止まらない悪態。しかし教えを含んだ言葉。サイコロを撃ち落としたのは、特級冒険者『死射手ウォルフジェンド』だった。
「ば、バァさん・・・陣の方はいいのかよ?」
「あ?当然だろ、全員避難して安全も確保済みだ。じゃなかったら揃って来やしねぇよ!」
「揃ってって、まさか・・・!」
リリーが視線を移すと、上空にはロングライフル形態のハチカンを構えるナルと全身を激しい炎で包むアマテラスフォームのメイが、暗処悲噛姫へと怒りの眼差しを向ける。
さらにはその下でリュウカン、四凶らも戦意高く肩を並べる。
そして最後、黒い風を思わせるような疾風の速度でサイガが暗処悲噛姫の眼前に現れ、逆手に持った忍者刀の刃を首に当てる。
「動くなよ。下手な真似をすれば、ここにいる全員が総出でお前を消滅させるぞ」
サイガの刃と言葉には、冷たく強い殺意が宿っていた。
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