第399話 「暗き神。目覚める」(ストーリー)
スリーダイスの『厄災』のサイコロによって出現した、謎の黒く重く粘ついた物体。
主であるはずのスリーダイスを内に飲み込み、リリーから逃亡を計ると、さらに肥大をしながら北、サイガの戦闘跡地へと進む。
黒い物体は北に進むにつれ、徐々に形を変えていく。
スライム状から肉塊、肉塊から四足獣、四足獣から人形、人形から女の形。そしてついには、取り込んだスリーダイスの姿となった。
「ふぅぅ・・・ようやく定まりおったか。長いことあんな狭いところにおったんでは、己の形も失念してしまうわい」
裸のスリーダイスが口を開くと、印象の違う言葉が飛び出してきた。姿形は変わること無くスリーダイスだが、明らかに別人格だったのだ。
スリーダイスの姿のモノは、自身の全身をくまなく見回す。
足の裏から始まり、腿、股間、腹、脇、両腕、胸。
さらに首をさすり、背に手を回して撫で、顔を触って容姿を確かめる。
「おっ、いいのぅいいのぅ、若いうえになかなかな美人ではないか。身体も引き締まっておれば、乳も豊富じゃ。これは良いのを引いたのう」
歓喜の声を上げながら、両手で乳房を持ち上げて重量を確かめる中身の違うスリーダイス。
どこか高所からものを見るような口調は、人間とかけ離れた印象を与える。
裸の姿のまま、スリーダイスは北へと歩みを進める。と、視界にあるものを捉えた。
それは、厄災のサイコロが変質したものと同じ質感だった。まるでスライムや肉塊のようにグネグネと蠢いていた。
「なんと、おヌシそんなところにおったか。さては、封印から逃げ出したのはよいものの、消耗が過ぎて動けんようになったというところか?」
蠢く物体を見下ろしながら、スリーダイスは意地悪な微笑みを浮かべる。
その言葉が示すとおり、蠢く物体は封印から逃げ出した邪神の変わり果てた姿だった。
そして態度が導く答えは、スリーダイスの身体を乗っ取ったのが同質の存在ということだった。
スリーダイスは邪神に能力を利用され、肉体を奪われてしまっていたのだ。
「ふぁふぁふぁ・・・情けないのう『黒天羅漢女』よ。剛力無双で知られた神界の暴れ者が、己では動けぬほどに弱体化したか。ふぁふぁふぁ」
いやらしく笑いながら、邪神を宿したスリーダイスは落ちていた物体を持ち上げて語りかけた。
物体の表面に顔が浮かび上がる。
「ぬぐぅ、おおおおお・・・『暗処悲噛姫』よ、我に・・・依り代を・・・拠り所を・・・」
黒天羅漢女と呼ばれた物体は、蚊の鳴くような声でスリーダイスの中の同胞に救いを求めた。
「ふぁふぁふぁ、そう焦るな。心配はせずとも、よい身体を見つけてくれるわ。丁度、血の匂いもしておるしのぅ」
スリーダイスの中の暗処悲噛姫が視線を送ると、その先には夜襲の残党を討伐するリンとミコがいた。
「なかなか上等な戦士がおる。あれなら、お主もよく馴染むじゃろうて。ふぁふぁふぁふぁ!」
邪悪に高笑うと、暗処悲噛姫は黒天羅漢女の顔となった物体を担いで二人のもとに闊歩していった。
◆
リンとミコはブルドーザー・ビルを下した後も、続々と押し寄せる小中型の改造魔獣と兵士の群れをたった二人で食い止めていた。
たった二人とは言うものの、異常までに戦闘能力が高まったリンとミコは苦戦することなくその猛威を振るっている。
「鬱陶しいぞ、おとなしくしていろ!しゃあああああ!」
獣型の魔物に、ミコは威嚇の声を発した。
獣人の王の娘の一喝は、獣への効果は覿面に出た。
声を浴びた瞬間には全身が硬直し、その場に立ち尽くす。
そして止まったところへ跳びかかり、爪と牙で命を刈り取っていく。
一方のリンは魔物よりも人間に恐怖を刻む。
聖鎖ダグマを拳に巻き付けて強化すると、兵たちの前に立ち塞がり拳を繰り出し、一撃で仕留めると、その圧倒的な殲滅力でレディム軍の気勢を削いでいく。
「いけませんわよ貴方たち。一人一人が弱いのなら、せめて連携や工夫で苦戦させてくださいな。この程度なら、寝ながらでも全滅させられますわよ」
暴れまわる六姫聖の二人により、そこには小さくも強力な壁が出来上がっていた。
そこに、異質な人物が一人現れた。スリーダイスの身体を乗っ取った暗処悲噛姫だ。
暗処悲噛姫は戦いの場に近づくと、身体と同時に奪った能力を使い、手の中に六つの白いサイコロを出現させ、それをリンたちに向かって放り投げた。出た目は全て一、『爆発』だった。
リンとミコの足下にサイコロが転がる。
二人は同時にそれに気づいたが、能力の危険性にまで勘が働いたのはミコだけだった。
「にゃ!?リン、これヤバイやつだ!逃げろ!」
全身の毛を逆立たせて警戒体勢になったミコが、避難を促しつつリンの顔面を跳び蹴りで蹴飛ばした。
超獣ミコ・ミコの強烈な蹴りによって、さすがの巨体、超重量をほこるリンも身体を浮かされ横に飛んだ。
直後、六つのサイコロが膨張爆発した。その規模と威力は、邪神の魔力によって強化されており、今までの比ではなかった。
轟音と高熱、爆風がその場にいた魔物と人間を全てまとめて吹き飛ばした。
「くぅ・・・なんて爆発。一体何が起こったんですの?」
リンは間一髪で聖錨マスヨスを出現させ、盾代わりに構えることで爆風から身を守っていた。しかし、頑強なマスヨスといえど耳まで防御は及ばず、激しい耳鳴りに襲われていた。
「ふぁっふぁっふぁっふぁあ!こりゃあ見事な威力よのう。どうやら、本当に当たりの人間のようじゃな。大切にせねばなるまい」
スリーダイスのスキルの威力に、暗処悲噛姫は狂ったような高笑いを上げた。
全身を前後に揺らしながら喜びを表現すると、放り出された胸が不規則に踊る。
「む、やはり裸だといちいち胸が揺れて鬱陶しいのう。服ぐらい纏うか」
一糸纏わぬ姿に、かえって不便さを感じた暗処悲噛姫は魔力を練り衣服を出現させた。
それはスリーダイス本来の男装の服に聖職者の法衣を縫い合わせたような形だった。
「ふむ、我が偉大さを表すのにふさわしい物になったな」
元々、容姿も体型も整っているスリーダイスは、新たな服装も見事に着こなしていた。
姿を整えた暗処悲噛姫が黒天羅漢女に語りかける。
「ほれ、死体を作ってやったぞ。今しばらく、そいつらを食って命を繋ぐがいい」
黒天羅漢女である塊を兵たちの死体群の中に放り込むと、暗処悲噛姫はリンを見る。
「ふぅむ・・・そこな大女、お主なかなかよい身体をしとるな。黒天羅漢女の入れ物に相応しいの。ふぁふぁふぁふぁ」
暗処悲噛姫がリンに目を付けると、口角を耳に届くほど広げた。人間の構造から逸脱した動作だった。
「な、なんですの?この女・・・人間では・・・無い?」
突如現れた暗処悲噛姫に怪訝な顔をするリン。直感的にマスヨスを構える。
ミコは危険性を察知し、既に戦闘態勢に入り威嚇をしていた。
「ふぁふぁ・・・捧げよ」
一言ポツリと呟くと、暗処悲噛姫はリンに向かって飛び出した。
◯暗処悲噛姫
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