第397話 「因縁の女対女。燃える命は華と散る」(バトル)
上級冒険者たちの襲撃によって、にわかにシフォン軍陣営は沸き立っていた。
現在、確認出来た侵入者は二人だが、当然それ以上の事態も想定せねばならない。
そのため、兵たちは改造魔獣軍団全滅の喜びもそこそこに、いるかも解らない敵影を求めて索敵に奔走しているのだ。
そんな慌ただしい中、シフォンのテントに近づく影がある。サイガの前から、まんまと逃げおおせたスリーダイスだ。
「うふふ、良い感じでパニクってくれてるじゃん。それじゃあ、ボクはこのスキに一番手柄、いただきますかっ、と」
たくらみを口に出しつつ、スリーダイスは三つのサイコロを取り出すが、そのうちの一つが赤い。
スリーダイスは目的によって使うサイコロを変えるのだ。
サイガの前で用いたサイコロは戦闘用の一つで、取り出したものが召喚用になる。
「さぁて、なにが出るかなぁ?」
邪悪な期待に美麗な顔を歪ませながら、スリーダイスはサイコロを地面に転がす。赤いサイコロが三を示し、残る二つが六と一だった。
「『魔甲獣人アジルマジル』、レベル六、一匹か。まぁ良いや、こいつなら一匹でも暴れるだけで大損害だ。出てこーい!」
揚々としたスリーダイスの呼びかけに応じて、三つのサイコロが魔物へと変化する。
現れたのは『魔甲獣人アジルマジル』。全身を硬質の外皮で覆った身長三メートル超の巨漢の獣人だ。
「アジルマジル。好き勝手に暴れちゃって良いよ」
「ボフォオオオオオオ!」
スリーダイスが命じると、アジルマジルは雄叫びをあげる。だが、それがアジルマジルの最後の行動となった。
突如として飛来してきた十本の五寸釘が顔面と胸部に突き刺さり、命を奪ったのだ。
「おぎ・・・が・・・」
巨体は脱力して崩れ落ちた。
「イカつい見た目の割には内側が無防備だな」
「その声・・・貴様・・・なんでここに?」
「なに言ってんだ。自陣で騒動があれば、総大将が狙われるって考えるのが当然だろ」
夜の闇の中のテントの影から姿を表したのは、特級冒険者リリー・コールドだった。
歴戦の優の経験と勘が、シフォンのもとへ足を向けさせていたのだ。
「リリー・・・目障りな女だね。相変わらず」
「睨むんじゃねぇよ。自分が上級止まりだからって私に嫉妬すんなよな」
「うるさいよ!暴力的に暴れるしか能のない女のクセに、そんなのがボクより強いわけがない!ここで殺して、それを証明してあげるよ!」
スリーダイスにとって、リリーの存在は目の上のたんこぶになる。
それは、戦いに興じるという似た嗜好を持つ故に一方的に生まれた感情だった。
三つのサイコロが宙に放られた。色は全て白になっていた。
さらにスリーダイスは丁半博打の振り壺を取り出した。
壺が横に走り、三つのサイコロを飲み込む。
「ボクは元ディーラーなんでね、やろうと思えば賽の目は自由自在なのさ。それっ!」
壺を振り、手の甲に置くとゆっくりと壺を上げる。そこには六を示した三つのサイコロをがあった。
「衝撃波、レベル六、六連発だ!死ね!」
三つのサイコロが変化し、六つの衝撃波となってリリーに向かう。当然視認は不可能で、圧迫感が迫るのをリリーは肌で感じていた。
「甘ぇんだっての。『ラバー・キリンツ』!」
リリーが力強く地面を踏みつけると、帯状のラバーマットが捲れあがるように発生し、六つの衝撃波を受け止め無効化した。
「弱ぇな。使い方が下っ手くそだ!来る場所が解ってたら防ぐのは簡単なのさ!」
「ちっ、だったらこれはどう?」
スリーダイスは新たなサイコロを取り出す。色は緑、赤、黒と全て違うものだった。
振り壺が動く。
再び賽の目のが出揃うと、スリーダイスは読み上げる。
「流砂、バサラアリジゴク、低酸素」
宣言通り、リリーの足元がすり鉢状の砂地に変わり、流れが生まれた。さらに薄まった酸素濃度が思考力を奪い意識を低下させる。
「う、なんだこれ・・・こんなこともできるのか・・・」
流砂と低酸素の合わせ技により、リリーは体勢を崩した。そこに、下方から飛び出してきた大型のアリジゴク『バサラアリジゴク』が二匹、首と腹に飛び付いてきた。
ハサミの内側に並ぶ刃状のトゲが左右から圧迫する。
「ぐ、げぇ・・・こんにゃろう・・・」
咄嗟に首のバサラアリジゴクのハサミに手を掛けるリリー。
しかし脳への酸素供給が低下しているため、安易にトゲをつかんでしまった。手の内側が血でまみれる。
一手でリリーを窮地に追い込んだスリーダイスは、追撃を行う。白いサイコロを取り出すと、壺を振って二、六、六を出す。
「斬撃、レベル六、六連撃!」
サイコロが姿を変えると、リリーに向かい、斬撃を浴びせる。全身に切創を刻んだ。
「うぅ、やべぇ・・・出血で一気に意識が・・・」
リリーの視界が眩む。膝から力も抜け始め、身体が砂に沈んでいく。
「こいつ・・・上手くなってやがるな。流石に昔のまんまじゃねぇか・・・んじゃあ、本気だな。出ろ、キャタピラ!」
リリーが加護を発動させた。膝から下にキャタピラを出現させると、砂を掻き分けて身体を上昇させる。
「おおらぁああああ!まだまだいくぞぉ!」
さらに加護が発揮されると、背にディーゼルエンジン、両腕に油圧シリンダーが装着された。前腕には分厚いグローブが包まれ保護される。
腕力の強化された腕がバサラアリジゴクのハサミを強引に押し広げる。
「な・め・ん・な・よぉおおおお!おらぁ!」
リリーが力を込めて絶叫すると、バサラアリジゴクはハサミを引きちぎられ絶命した。
次に首のバサラアリジゴクの胴体を両手で掴むと、自身の腰部に発電機を出現させる。放電での感電死を狙っているのだ。
「たかがデカイだけの虫の分際で、私が殺せるかよ『ジェネレート・デッカー』!」
爆ぜるような音が響いた。直後、バサラアリジゴクの身体から焦げた匂いと煙が立ち上る。強烈な電撃が一瞬で命を奪ったのだ。
動かなくなったバサラアリジゴクの死骸が砂に落ちる。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・よし、いくぞ・・・『キャタピラ・バーゾック』!」
呼吸が浅いままリリーが気合いを込めると、キャタピラが激しく動き出す。勢いよく砂が掻き出され、両足が砂から解放された。
「いくぞぉ!おおおおおおりゃああああ!」
命を震わせ、リリーがキャタピラで突進を開始した。大量の砂が舞う。
「ぬぅん!『チェーンソー・ギルン』!」
突進しつつチェーンソーを出現させると、リリーは水平に構え先端をスリーダイスに突きつけた。
「やばっ・・・」
リリーの気迫に圧され、スリーダイスは動作が一瞬遅れる。
咄嗟に左腕で防御の姿勢をとるが、チェーンソーの突進はその左腕を切断した。
「ああああぁ!!ぼ、ボクの腕がぁ・・・」
「次は右腕だ。二度とサイコロが振れねぇ身体にしてやるぜ!」
「くそぅ、やらせるか!」
苦し紛れにスリーダイスは黒いサイコロを放る。
腕を失い、命の危機が迫ったこの状況で、スリーダイスは錯乱じみた心境だった。そのため、賽の目を操ることを失念し、さらには効果を選ぶことすら怠っていた。
黒いサイコロの示す効果。それは『厄災』だった。それは、主であるスリーダイスは自身も扱いあぐねるほどの威力を持った禁忌の力だった。
そして、この一手が戦いの流れを一気に乱れさせることとなった。
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