第396話 「サイガ翔ぶ。限界を超えた絶技」(バトル)
スリーダイスの手の平から流れ落ちた三つのサイコロが、地面で二、二、一を示す。
「斬撃、レベル二、対象一人!残念、弱い!」
悔しがりつつも、スリーダイスの声には愉悦の音がある。同時に後方に跳び距離をとる。
サイコロが姿を変える。斬撃となってサイガに向かってきた。
忍者刀。しかし、弾きは腕の動きが間に合わない。身体の前に構えての防御を選択した。
斬撃が刀身を叩く。サイガは華麗にそれを上方、テント天井の骨組みに逸らした。
斬撃が骨組みを切断する。天蓋が落ちてきた。
「皆さん、逃げてください!」
チェイスがハーヴェの村人たちに叫ぶと、長老のロルフが逃げる方向を示し誘導する。
ここで、天井によってサイガとスリーダイスは分断された。
避難所テント崩壊により、敵襲の報せが陣営内に一気に走った。
警鐘が鳴り響き、兵たちが慌ただしく動く。
「あ~あ、メチャクチャになっちゃったね。応援が来る前に逃げよっか。アンジリア、退くよ」
興醒めしたスリーダイスは気の抜けた声でアンジリアに退却を促すと、サイガを見たまま足早にその姿を消した。
「しまった、おれとしたことが、まんまと逃げられたか。被害が出る前に追いかけねば・・・」
慚愧の念を抱きながら、サイガは追跡のために腕と違い健勝な脚で踏み出した。
その瞬間。
「!!」
斬撃。
鋭い殺意を抱いた刃が、首の位置を一文字に通過し、サイガは咄嗟に後方宙返りで回避する。
「・・・まだ残っていたのか。探す手間が省けたな」
落ちてきた天蓋の残骸を斬り割いて姿を見せたのは、上級冒険者『純剣豪アンジリア』だった。
「やられっぱなしでは腹の虫が治まらないのでね。ここで首をとらせてもらいますよ」
「確かに、消耗した今ならおれを討てるかもしれんという、微かな希望があるな。良い判断だ。だが、あの絶好の瞬間に獲れないのでは希望は薄いがな」
サイガは皮肉を込めて微笑した。
「言ってくれますね。だが、そうはいきません。これの封印を解かせてもらいます」
アンジリアの手には新たな長剣が握られていた。刃は銀色に輝き、よく鍛えられていることは一目で解った。
「業物だな」
サイガが言い当てると、アンジリアはニヤリと笑う。
「『名剣・一献』。使用者の集中、精神力を高める効果をもつ、剣士にうってつけの一本です。さぁ、この剣の威力、死をもって味わいなさい!」
アンジリアが三度斬りつけてきた。
その剣筋に明らかな違いが生じていた。
首、足、また首。鋭く、速く、なによりも的確だった。
「これは・・・技が飛躍的に向上しているな」
さらに続く連撃を躱しながら、サイガは感想を呟く。
「研ぎ澄まされた感覚が教えてくれる・・・踏み込むべき距離、狙うべき箇所、使うべき技。勝てる、勝てるぞ!覚悟しなさい!」
感覚と剣筋が冴えたことにより、アンジリアは思わず興奮気味になった。
サイガは、斬撃を観察眼と足運びと忍者刀でそれを凌ぎながら徐々に後退する。
「逃がすものか、『遠斬り』!」
距離の空いたサイガを追って、アンジリアの縦の斬撃が飛ぶ。
名剣より発せられた一撃は、その名に恥じない威力でテントを左右に両断した。さらに勢い余って地面と隣のテントをも半壊させる。
「飛び技も使えるのか。さっきまでとは比べ物にならんな・・・」
「そのとおり!私のこれまで培ってきた技と『一献』がひとつとなれば冒険者最高峰。どこに居ようが追い付き両断だ!」
アンジリアの気迫が増すにつれ、その斬撃の精度が上がってきた。
「こいつ・・・興奮の度合いと反して技術が冴えてきているな。戦いで研ぎ澄まされているのか」
「それっ『千切連波』!」
剣を振ると、斬撃がいくつもの小さな刃となって飛び散った。
さらに連続で剣を振ると、怒涛の千切連波がサイガに押し寄せてきた。
「!!数が多い!」
「とったぞ!」
隙間無く攻め立てる斬撃の勢いに圧され、疲弊したサイガの腕はついに根負けした。忍者刀が弾かれ宙で何度も円を描くと地面に突き立つ。
「不覚・・・まさか、手放すことになるとは・・・」
忍者刀を弾いた衝撃は強く、サイガはたまらず片膝を着いていた。
片膝を着いたまま、サイガはもう一つの武器、魔法剣へとてを伸ばす。
「見えていますよ『地這い』!」
サイガの挙動を察したアンジリアが地を走る斬撃を放ち、左右から挟んだ。そこから跳ねるように飛びかかると、魔法剣も弾き飛ばした。
これでサイガは素手となった。
「さぁ、これで万策尽きましたね。安心しなさい、これまでの武名を汚さないように一撃で終わらせてあげます。『鎌苅』!」
首を狙って、アンジリアが剣を下から上へ走らせる。
しかし、刃が首を落とすことはなかった。そこにはサイガの首どころか、本人もいなかったのだ。
剣はむなしく空を斬った。
「なに、消えた?」
アンジリアはサイガの居た場所を凝視する。
「こっちだ」
上方から声が聞こえた。
アンジリアが顔を向けると、そこにはしゃがんだままの姿勢で宙に浮かぶサイガの姿があった。
飛んでいる。アンジリアはそう思ったが、そうではなかった。サイガは跳躍しており、その余韻で浮いているように見えていたのだ。
強靭な脚力に跳躍に面食らったが、アンジリアは上級冒険者の対応力で気を持ち直すと、再び剣を振ろうと力を込めた。だが、その動きが止まる。
「?剣が・・・動かない?」
アンジリアの剣、そして腕は微動だにしなかった。切っ先が上を向いたまま、強い力で固定されている。
止まっていた剣が動いた。切っ先に強烈な荷重がかかり、一瞬で下方に向かい地面に食い込んだ。
そしてその時、アンジリアは全ての原因を理解した。
地面にめり込んだ切っ先の上には裸足のサイガが立っていた。
具足を脱いだサイガが足の指で切っ先を掴み、動きを固定していたのだ。
「あ、足で剣を止めていたのか?そんな馬鹿な・・・」
「おれの技は剣術だけとはいった覚えはないぞ。もっとも、この足技は奥の手。いや、奥の足と言うべき虚を突くための切り札だがな」
軽く冗談を口にしながら、サイガは左足で切っ先をつまんだまま、右足でアンジリアの顔を蹴った。
剣を持つ都合上、どうしても防御が甘くなり、顔面にモロに受ける。鼻が折れた。
具足を脱いだサイガの蹴りは鞭よりも速かった。動いたと思った瞬間には届いて叩く。
さらに片足で切っ先をつまんだままという、不安定極まりない状態でありながら、軸足は一切ぶれることなく神速の蹴りを支えていた。
この動作一つでサイガは、技の威力に一喜一憂するアンジリアと格の違いを見せつける。
「お、げ、が、ご、が・・・」
剣術を封じられたまま、アンジリアはサイガの重い蹴りを何度も受ける。
顔は形が変わり、血にまみれていく。
十発以上顔を叩かれたところで、アンジリアは剣から手を離し距離をとった。しかしそれが命取りだった。
サイガが顔を蹴っていたのは加減をしていたからではなく、単純に距離が適していなかったのだ。
手を放し空いた距離。それはサイガの蹴りがもっとも威力を発揮する絶好の距離だった。さらに逃避に気を割いたために両手は広がり、胸部が晒される。
「そこ!」
心臓一点。狙った鋭い爪先が胸に突き刺さり、肋骨を砕き心臓を潰した。
「あぎゃあああ!」
血を吐きながらアンジリアは絶叫し、その場で絶命した。
純剣豪と呼ばれておきながら、最後の瞬間にはその手にはなにも握られていなかった。
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