第393話 「魔獣軍団進撃。六姫聖、究極の大連携」(バトル)
リンとミコがブルドーザー・ビルを下したのと同じ頃、戦場を太陽のように照らすメイを守るため、ナルと四凶のジョンブルジョンが空の防衛戦を繰り広げていた。
「唸れ、ハチカン!セアッタ弾装填、発射ぁ!」
ナルの魔力によって作り出された『魔砲ハチカン』から高速連射のセアッタ弾が射出され、空を切り裂きながら迫り来る魔物の群れを遠距離の時点で撃ち落とす。
ジョンブルジョンも同様に、両の義手をライフルに再構築して迎撃のために発砲をする。
「九・・・十・・・これで計二十羽。一体、どういうことだ?なぜこれほどの数の高位の魔物を改造し従えられるのだ?」
止むことなく続く高位の魔物の襲来。その数の多さにジョンブルジョンは辟易した様子を見せた。
「チェイスとウォルフジェンド殿が言うには、上級冒険者の中の一人、『マッドブリーダー・ウォレッド』という者によって繁殖、改造された魔物たちだ」
ジョンブルジョンと並んで敵陣を見据えながら、ナルが答えた。
「私は昼の戦いで相対したが、あいつらは
合成改造されたせいで完全に自我と意識が消失した道具と化している。遠慮せず、慈悲の気持ちで葬ってやれ」
冷ややかな言葉を発しながら空将鷹を迎撃するナル。その横顔はやはり国宝級の美しさだった。
「また来るぞ。今度は大群だ!」
ジョンブルジョンが警告を発した。前方から百匹近い数の飛行系の魔物が近づいてきていた。
「まずいな、数が多すぎる。よし・・・ジョンブルジョン、地上の軍団諸共葬る大技を仕掛ける。援護をしてくれ!チェイス、全ての敵を捕捉してくれ!シャノン、チェイスが捕捉した敵の魔力の受容体を緩めてくれ!」
ナルが魔法珠を通して三人に指示を出すと、即座に了解の応答が返ってきた。
「さて・・・これまでで最大規模の魔法だ。絶景を見せてやるぞ!」
軽く息を吸い、身体の中心に魔法の起点を構築すると、ナルは大魔法の発動に入った。
冷気が迸る。
◆
上空でナルが魔法の準備に入る一方、地上では特級冒険者と四凶が指揮する兵団と改造魔獣の群れが激戦を繰り広げていた。
約三十匹ほどで構成される改造魔獣軍団は、そのほとんどの個体が巨人と大型魔獣が合体させられたものだ。
そのため、地上部隊は対格差の優位性をとられて苦戦を強いられていた。
「なんやこいつら、頑丈すぎるで」
迫る改造魔獣に淀みない刃を浴びせながら、シズクヴィオレッタは強化された身体に辟易した声を漏らす。
「つまらん真似をされとるな。あわれな命よ。気遣いは無用じゃ遠慮なく葬ってやろう」
魔物ともっとも近い存在である、地獄の将 序列の四 リシャクが寄生性の魔虫や肉食性の魔植物を呼び出し改造魔獣を襲わせる。
アールケーワイルドは戦力的に不安のある部隊に入り、部分から全体が決壊するのを防ぐ。
力強く警棒を振り回して改造魔獣の肉体を破壊し、リボルバーで撃ち貫く。
シフォン軍でもっとも生物の構造に精通した整体師のリュウカンは、肉体を意のままに操る整体術『抜骨術』で人改造魔獣の間の部分の身体を崩壊させて、一体一体を確実に仕留めていく。
「かぁ、こいつぁ確かに手強い連中だ。肉も骨も並みの魔物や人間とは桁違いだ!」
抜骨術は神経や関節から肉体を操る。改造魔獣たちに対してその効果が明らかに弱かった。
そのため、リュウカンの肉体的負担は対人間の比ではなかった。
各員が奮闘することで、レディム軍の進行は本陣から離れた位置でくい止めていた。
だが、元来数で勝るレディム軍は、その圧倒的な物量と上級冒険者の手腕、改造魔獣の狂暴性で徐々に戦線を押し下げられていた。
「・・・あかんな、ウチらはなんとかなるかもしれへんけど、全体はこのままやとジリ貧や」
血飛沫の雨の中、敵勢の圧力に不利を感じたシズクヴィオレッタが不安を口にする。
リシャクとリュウカン、その他の実力者たちも奮戦はするものの一歩一歩と退がり始めていた。
力と数による圧倒的制圧劇。そんな絶望的な結末を全ての者が脳裏に描いたその時、周囲を冷たい空気が満たした。
「なんだ?ずいぶん冷えてきたな・・・魔法か?」
敵の猛攻をしのぐアールケーワイルドは、身体の中心から滾っている。しかし、そんな熱した肉体であっても肌寒さを感じるほどの冷気が漂っていた。
◆
冷気の正体。それは、ナルが上空から展開した凍結魔法のための下準備だった。
ナルが実行しようとする魔法は、六姫聖の三人による大規模魔法だ。
チェイスが戦場の全ての敵を捕捉し、その敵情報をシャノンへと渡す。
そして情報をもとに、シャノンが全ての敵の魔力受容体に広域化魔法『崩限域』(ほうげんいき)と弱体化魔法『抗無侵食』(こうむしんしょく)を掛け合わせて発動させ、魔法に対する抵抗力を意識させぬままに大幅に低下させた。
「ナル、魔法域を展開したわ。この中にいる敵は貴女の思うままよ!」
シャノンからの報告を受け、ナルがニヤリと笑った。不敵ではあるが、それでも美しさの勝つ女神の微笑みのようだった。
「さぁ研ぎ澄まされた私の魔力よ・・・悉く隅々まで行き渡れ・・・『白銀世界』(はくぎんせかい)」
空中のナルの両手から、ミクロ単位の極小の氷が放たれ、シャノンの展開した魔法域を満たす。
一帯の気温が急低下する。魔法発動の準備が整った。
「終わらせるぞ。私の魔法の繊細の極み、命をもって味わうがいい『氷塞血壁』(ひょうさいけっぺき)!」
ナルの魔法が発動した。崩限域内部の魔物たちに作用する。
「オ、オゴ・・・グゥエエエエエ」
「ガ、ガ、ガ、ガ、ガ・・・」
「・・・」
氷塞血壁によって、改造魔獣たちが次々と苦しみ始め、一匹また一匹と倒れ地面に転がっていく。
その空間に、突進してきた空将鷹が突入するが、その瞬間に魔獣たち同様に苦しみながら落下していった。
「なんじゃこりゃ、魔物が勝手に倒れていくぞ。氷ってことは、ナル・ユリシーズの仕業っていうことはわかるが、これはどういう魔法だ?」
地面を鳴らしながら息絶えていく魔物たちを見ながら、アールケーワイルドは空のナルを見上げる。
その姿は、メイの陽光とそれを反射する氷の粒に照らされ、神々しさすらあった。
ナルが発動させた魔法『氷塞血壁』。
その効果は、体内に魔力を流し込み血管内部に氷の塊を作り出す魔法だ。
血中の氷の塊は血栓と同じように血管を詰まらせると、改造魔獣たちに心筋梗塞、脳梗塞を引き起こし生命活動を停止させていく。
「改造されていたとはいえ、人や魔物の原型を保っていたのが仇となったな」
命を散らせていく魔物たちを眼下に望みながら、ナルは絹糸のように滑らかで夜空の星のような煌めきを見せる黒髪をかきあげた。
そのあまりの優雅な仕草に、シフォン軍の全ての者が見とれていた。
◆
ナルの広域魔法によって、レディム軍の改造魔獣軍団は全滅状態に陥った。
勝利に喜ぶ歓声が戦場を染め上げるが、シフォン軍の兵たちは気づかなかった。喜ぶ群衆の端を、気取られぬように陣中の奥へと進む二つの人影を。
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