第392話 「新たなる飛躍。拳と爪の双連撃!」(バトル)
リンとビル。この二人の闘いのスタイルは似かよっていて相性は非常に良い。そのため、肉体に鉄を含み身体的に勝るビルは勝機があった。
だがここにミコが加わることで、戦局は大きく動く。
リンの動きが暴力的な野獣の動きなら、ミコの動きは正確無比な狩りの動き。
育ての親であり猫の獣人の王でもある母から教わった、最小、最短、最速を極めた命を奪うための動きなのだ。
猫の本気の動きは目で追うことができない。
リンの隣からビルの顔の前に一瞬で跳躍すると、「にゃん!」と鳴いて顔に蹴りを叩き込む。
さらに「にゃん」ともう一度鳴くと、その姿はビルの後ろに現れて、爪を首に突き立てる。
結果のみ。起こりと中間の動きが視認できないほどの素早い挙動だった。
「ギィン」という金属音が鳴った。
ミコの爪『獣撫』とビルの肌がせめぎあう音だった。
「痛ったぁ!やったな、このぉ!」
「にゃ?ミコの爪を弾いた?こいつ首が硬いぞ!」
鉄入りの皮膚によって攻撃を阻まれたミコが驚きの声をあげて退いた。
一瞬遅れたビルのバックハンドブローが空を切った。
「ミコ、そいつは身体に鉄が含まれてるらしいから、並みの攻撃は通じないわ!戦法を切り替えて!」
「にゃ?なんだそれ?」
ミコに遅れること数秒、リンが飛び出してきた。前進する勢いを一切緩めることなく、飛び膝蹴りをビルの顔面に叩き込む。
「うごぉ・・・重たい・・・」
ビルの上半身が大きく傾いた。
「にゃおん!」
ビルの後方で、ミコが超低空の水面蹴りを放った。具足の爪で両足のアキレス腱を切断する。
「ぎゃああ!痛い!なにをした!?」
「やった!踵のここは柔らかいぞ!ママの言ってた通りだ!」
リンとミコの連携によって、ビルは傾いた身体を制御できずに、激痛と共に仰向けに倒れた。
「ミコ、その調子で末端を攻めて!」
「にゃお!」
仰向けになったビルに、ミコの神速の連撃が浴びせられた。
狙うのは顎先。脳を揺らすために集中して篭手の拳を叩き込む。
「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ!」
「ががががががが・・・」
ビルは数十発の拳を顎先に浴び、脳震盪を起こし焦点を失った。骨肉が鉄を含んでいても振動は脳を叩いていた。
すかさずリンが追撃を行う。
ビルの真上に飛翔すると、両足を揃えたフットスタンプで腹を踏みつけた。意趣返しだ。
「おごぉ!」
超暴力に腹を圧迫され、ビルの巨体は一瞬『く』の字に曲がる。
「うぉ・・・まじ、かよ・・・アタシが・・・がはぁ!」
激痛で意識の戻ったビルが上体を起こすと、その顔を衝撃が襲う。
聖鎖ダグサを巻いた、馬乗りのリンの拳が正面から打ち込まれたのだ。鼻が折れていた。
「痛いぃ、けど・・・やられないよぉおおお」
「え?う、嘘・・・?」
リンの身体が浮き上がった。ビルがブリッジで持ち上げたのだ。切断されたアキレス腱は悪鬼の血筋による再生力で回復していた。
「うぬぬぬぬ・・・だっ!」
充分に持ち上げたところで、ビルは地から脚を離してリンの馬乗りから脱出した。
さらに素早く身体を動かし全身を使って左脚を掴むと、リンが対応する前に膝を固めて転倒させた。
『膝十字固め』。力加減ひとつで膝を破壊できる関節技だ。
「へへへ・・・あ、頭が揺れてるけど、技は身体が覚えてるんだよ・・・アンタ、強いけど隙が多いね。そうりゃ!」
ビルが力を込めると、リンの膝がギリギリと軋む。音が身体を通じて密着する二人に届く。
「がぁああああああ・・・」
「おらぁ、折れろぉおおおおお!」
苦痛の声をうめきをあげるリンと、決着を狙うビル。だが、そこにミコが割って入った。
鋭い爪の振り下ろしが、ビルの脇腹に三本の赤い溝を刻む。
「にゃあ!リンを放せ!」
「ぎゃああああ!くそぉ、このガキぃ・・・」
爪の傷は深く、内蔵が顔を覗かせる。ビルはたまらず手を放していた。
手が緩んだ瞬間、リンは脚を抜き、距離をとって膝の具合を確認する。痛めたが折れてはいない。
「隙が多いのは貴女も同じでなくって?こっちは二人いましてよ」
姿勢を正すリン。ビルを挟んでミコが立つ。
「くっそ・・・こいつら強い。さすがに分が悪い。仕方ないや、こうなったら・・・!」
なにかを決したビルが、腹の傷を強引に回復させて走り出した。その先には、リンに首を折られた改造魔獣の死骸が転がっている。
「へへ、これこれ・・・どりゃ!」
死骸の巨人の部分に着くと、ビルは巨人の前腕に手を突っ込んだ。
「ぬぅぅぅぅん・・・だりゃあ!」
リンと拮抗する剛力で強引に引き抜いたそれは、巨人の尺骨だった。
「へっへっへ・・・みてろよぉ、これで逆転だぁ。はぁあああああ・・・」
尺骨を両手で握り気合いを込めるビル。すると、尺骨の色が変わり始めた。
握った部分から徐々に鈍色に変わる尺骨。それが全体に行き渡ると、ビルが完成を宣言する。
「へっへぇ、どうだい?アタシの鉄分を骨に移して作った正真正銘の鉄骨さ。その名も『獄門』。殴られた先から地獄行きさ!」
「し、しまった・・・なにをやるのか興味が湧いてしまって泳がせていたけど、やらかしちゃったかしら?」
「う、うん・・・ちょっとヤバいかも・・・」
獄門の放つ異様な存在感に、リンとミコは思わず唾を飲んだ。
ここにきて戦闘凶の部分が欲をかいてしまい、事態を悪化させてしまったのだ。
「そらそらいくぜぇ!『獄門・慣らし打ち』!」
尺骨の肘側、肘骨が地面を叩いた。
激しい振動が起こり、地面が陥没する。
崩れた足場に驚いてミコが飛び上がった。
リンも飛翔して避難する。
「な、なんて威力・・・一撃で地形が変わったわ」
リンが驚嘆の声を発する。
「うう~・・・やっぱり、すぐに殺しとけばよかった~」
ミコは跳び乗ってしがみついたリンの頭を、後悔を口にしながらギュッと抱く。
「こらミコ、しがみつくのはいいけど、尻尾まで巻き付けないで」
「だって、ビックリしたんだもん!でも、ミコ気づいちゃった。リン、あのさ・・・ごにょごにょ」
しがみついたまま、ミコは気づいたことをリンに耳打ちする。
「え、本当?」
「うん、だからリンはあいつの動きを止めて。ミコが止めをさす」
そう言うとミコはリンから飛び降りた。
「お、降りてきたなぁ。『乱れ砕き』ぃ!」
ミコを迎え撃つべく、ビルは獄門を振り回す。風を切る音がミコの猫耳に届く。
「にゃーん、あたらないよー」
ビルの挙動は鈍重で、猫の動きのミコには止まって見える。そのため、回避に徹すれば攻撃を恐れる必要はない。
「にゃ!にゃ!にゃ!」とご機嫌に鳴いて全て避ける。
「くっそっ、ちょこまかすんな!」
ミコが着地した。さらに止まることなくビルへと直進する。
足下にミコは瞬時に接近した。篭手の拳による連打を浴びせる。
「いててててて・・・くそ、こいつ、さっきより打撃の威力を上げてるな。『大払い』!」
低空の払い打ちでビルが応戦するが、ミコは軽やかに跳躍して上方からの攻撃に切り替える。
「下の次は上かよ!うっとう・・・うぐっ!」
ミコを追って顔を上げたところをつかれ、ビルの首と右手首に聖鎖ダグマが巻き付いた。後ろではリンが全力で引く。
「動きは止めたわ。ミコ、刻んでしまいなさい!」
「にゃあ!いっくぞーーーー出ろ獣撫、にゃにゃにゃにゃにゃにゃーーーーー!」
乱暴に無差別な斬撃を乱れ撃つ『お風呂イヤイヤパニック』を繰り出すと、ビルの全身に切創が刻まれた。
「がぁ・・・そんな、アタシの身体がこんなに斬られるなんて・・・」
「やっぱり。お前、骨に鉄を移したせいで身体が柔らかくなってるな!」
「え、そうなの!?アタシ弱くなってる?」
ミコの気付きによる指摘に、ビルは己のことながら今更の驚きを見せる。
「じ、自分で気づいてなかったんですの?本当に調子が狂いますわね。ミコ、決着をつけましょう!」
鈍感さにあきれながらも、リンはミコに指示を出した。
「おー!せーの・・・に゛ゃーーーーん゛!!」
大きく振りかぶった獣撫の一撃によって、弱体化した身体に上から下へ三本の深い斬撃が走ると、ビルは耐えきれずに獄門を手放し、地面に大の字で倒れた。
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