第391話 「激突、暴風対悪鬼。本能と本能の大激戦!」(バトル)
「うおっ!まっぶし・・・なんだよあれ?太陽みたいに光りやがって。これじゃ、夜襲が台無しじゃん!」
レディム軍、夜襲部隊の先鋒を務める上級冒険者の『ブルドーザー・ビル』はメイのサン・フラッシュのまばゆさに目をしかめた。
シフォン軍の真上。メイの光は戦場全体を照らすが、位置の関係上レディム軍側に逆光となっているのだ。
顔をしかめながら、ビルは拳を突き上げた。
「おまえらぁ、怯むんじゃねぇぞーーー!まっすぐ行けば敵はいるんだ。進め進めーー!」
前方不覚のまま、後方に続く改造魔獣軍団に呼び掛けると、魔獣たちは雄叫びをあげて加速した。
「はっはっは!いくぞいくぞ・・・ん?あだぁっ!冷たぁ!」
ビルの額に冷たい何かが直撃した。ナルのハチカンによる狙撃だった。
◆
「な、なんだと?額を撃ち抜いたと思ったが、かすり傷にもなってないぞ」
ビルに対する上空、狙撃を無効化されたナルが驚きの声をあげた。
「とんでもなく頑丈なヤツだな。リン、お前といい勝負だぞ」
「そうね。それなら、あの楽しそうなのの相手は私がやるわ。ナルは他のをお願いね。じゃ!」
そう言い雑魚をナルに任せると、リンはビルに向かって加速した。
◆
逆光に顔をしかめるビルの目に小さな黒点が映る。それは徐々に迫り大きくなっていた。
「んん?なんだあれ?なにかこっちに来てるぞ?」
「うおおおおおおおおお・・・だりゃあ!」
迫ってくる黒点はリンだった。急速で接近すると、ビルを背に乗せる改造魔獣の巨人の部分の首にレッグラリアートを叩き込んでへし折った。
魔獣が勢いのままに前のめりに倒れ、ビルが放り出された。
後方に続く魔獣たちが同じように足を止める。
「あたたた・・・ちっ、死にやがったか。お前ら、アタシのことは気にしなくていい。さっさと敵陣に突っ込め!行け!」
立ち上がったビルが命じると魔獣たちは従順に走り出した。
魔獣たちが駆け抜ける中、ビルの正面にリンが降り立った。
数秒間、目を合わせたまま沈黙する。
「アンタ、『暴風』だね。噂どおりのヤバいパワーじゃん!」
先にビルが口を開いた。声色が歓喜に染まっている。
「ええ、そうですわ。そう言う貴女は『ブルドーザー・ビル』ですわね。お噂は耳にしてますわ。もちろん、悪い方の・・・ぐっ!」
リンの言葉が途切れた。ビルが不意打ちで腹部に蹴りを入れたのだ。
「そんなのどうでもいいからさぁ、さっさと始めようよ!噂とか真実とか、闘ってりゃそのうちわかるっしょぉ!」
両手で髪を掴んで顔面への膝蹴り。流れるような華麗な動きだった。
「重い上に・・・速い!洗練されている・・・」
膝蹴りの衝撃で脳を揺さぶられながら、リンはビルを突き離す。
好戦的なリンが怯んで距離をとる。ビルの攻撃はそれだけの威力があったのだ。
「まだまだぁ!そっりゃあ!」
間をおかず、ビルはドロップキックでリンの顔面を蹴り飛ばした。
リンの巨体が大きく飛び上がり、仰向けに倒れた。
「いいいいやっはぁあああ!!」
ビルが高く跳躍し、リンの真上をとる。両足を揃えダイビングフットスタンプを仕掛けた。
即死級。そう直感したリンは、ビルと同じく両足を揃えて上方を蹴り、フットスタンプを迎えうった。
岩と岩が激突したような音が鳴り響く。
「お、重い・・・見た目より何倍も・・・」
「足で受け止めたぁ!やるじゃあん!」
足裏がぶつかった瞬間、リンの脚を異常な荷重が襲い、膝が曲がった。押し負けたのだ。
「そんな・・・体格は私と同等のはず・・・なぜ?」
「アタシ、体重五百キロあるからさぁ、人間じゃ押し返せないよぉ!」
「ご、五百?馬鹿な・・・でも、これは確かに・・・」
耳を疑うビルの言葉。だが、足裏から伝わる質量が、それが真実であることを裏付ける。
「わかったぁ?少しは堪えたみたいだけど、これでぺちゃんこだぁ!」
ビルが全体重を乗せてのし掛かる。
「ぬぅぅぅぅぅ・・・重いだけで、私をやれると思わないことですわぁああああ!だりゃあ!」
気合いの咆哮を発すると、リンのハムストリングスが総動員されビルを押し返す。
「マジぃ?そっから返すかぁ?」
リンの両足が伸びきると、ビルが宙を舞い、重量級の音を立てて着地する。
「は・・・はぁっ、はぁっ、はぁ・・・なんて重さ・・・五百キロというのはハッタリではないようですわね・・・はぁ、はぁ・・・」
押し返した勢いで、そのまま首跳ね起きで立ち上がったリンが、息を切らせながらビルを評する。
「はははは!いいないいな、面白いよアンタ。アタシを力で押し返したヤツなんて、初めてだよ。男でも魔物でもそんなのいないってのにさ」
「貴女、魔物の血が入った人間ですわね」
「そうだよ。アタシの祖父さんが鉄甲鬼って悪鬼でさ、そのお陰でアタシの骨と肉と血には鉄が混じってるのさ」
「それはそれは・・・鉄分豊富でいらっしゃるのね」
感心する様子を見せながら、珍しく、リンは蹴られた腹をさする。不意打ちの蹴りの痛みが強く残っているのだ。
苦痛。これは闘いにおいて痛みを好むリンの嗜好を上回る痛みだった。
ビルは、異質で凝縮された印象をリンに抱かせた。
体格はリンと同程度。しかしその中にはこれまで戦ってきた人間、魔物らを凌ぐ才能と狂暴性が内側でうごめいていた。
技術は荒々しく未熟だが、確実に神域に達する。そう確信させるものだった。
「どうやら、昼の連中とは違って貴女たちが本命のようですわね」
「あ、わかる?そうだよ、昼の連中でアンタらの戦力を疲弊させて、そっから数に任せて昼夜とわず攻め立てる作戦さ。あ、これ言っちゃ駄目なヤツか。あはは・・・」
口の軽さを、ビルは無邪気に反省してはにかんだ。
「な、なんだか調子が狂いますわね。私もこんな感じなのかしら・・・」
戦闘本能と未成熟な人間性との差に、リンはどこか親近感を覚えた。
まるで苦戦するほど愉悦を感じる自分自身のようだったからだ。
「さぁ続きいくよぉ!」
意気揚々にビルが突進した。拳を握り正面から顔を狙う。
対して、リンも拳を握り迎え撃つ。
拳と拳がぶつかった。
「ぐぁぁ・・・まさか・・・」
リンが苦しみの声をあげた。構成に鉄を含むビルの文字通りの鉄拳が、リンの拳を砕いたのだ。
手の甲から皮膚を裂き、折れた中指骨が飛び出す。
「当然だね。今までアタシの拳で砕けなかったものはないんだよ」
「この・・・っダグサ!」
リンの両拳に聖鎖ダグサが巻き付き補強する。生身では不利と悟ったのだ。
「お、それ聖具だね?よっしゃ、これでタメだ。楽しもうよ!」
ビルの膝蹴り。リンは腰を落とした左の拳で受け止める。金属音と火花が飛び散った。
「うっひょう、やるぅ!硬い硬い!そんなら次はぁ・・・うぎゅっ!!」
高揚して笑うビルの顔を、突然の小柄な蹴りが襲い、その言葉を遮った。
重量級のビルにとって、とるに足らない威力の蹴りだが、意識、視界の外からの一撃は過剰に身体を後退させた。
「びっくりしたぁ・・・なんだよチビ、お仲間か?」
リンの前には、チビと呼ばれた少女が立ち塞がっていた。
六姫聖の一人、『超獣』ミコ・ミコだった。
「ミコ?あなた、どうしてここに?」
意外な人物の登場に、リンはその後ろ姿に声をかける。
「ダメだ」
「え?」
「一人で戦っちゃダメだ。ミコたちは、シフォンのために明日も明後日もいっぱい戦わなきゃいけないから、一人が頑張るだけじゃダメだ」
主が後方に控えた戦場で個人の愉悦を優先させるな。ミコはそう言いたいのだ。
「ミコ、あなたそんなことを・・・」
大人のようなことを口にするミコに、成長を感じ取ったリンが軽く笑った。
「そうね、あなたの言う通りだわ。敵が強いなら、協力して楽して勝たないと・・・ね!」
ミコの横に立ち、リンは鎖を巻いた拳を構える。
「そうそう、そうじゃなくっちゃ楽しくないね。それじゃあ・・・思いっきり殺りあおうか!」
不利であるはずの状況に、ビルが喜びの雄叫びをあげた。
闘争本能と闘争本能が正面から向かい合った。
◯上級冒険者ブルドーザー・ビル
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