第390話 「進み来る戦力。レディム軍、本気の大進撃!」(ストーリー)
夜。
戦闘を終えたシフォン軍の陣営では戦果の報告と、今後の動きに関する会議が行われていた。
陣営後方、シフォン軍会議用のテント内。上座にシフォンを置いて、六姫聖、サイガ、特級冒険者と並ぶ。
「本日の我が軍の被害ですが、将兵の死傷者が約五百。兵量差を考えれば善戦と言えます」
「そう、兵たちをよく労ってあげて。遺族にも届けられるように、できる限り遺品を保存しておいて」
初めにチェイスが被害の報告書を読み上げ、シフォンは対応を命じた。
「んでよ、敵の方はどれくらいやったんだ?アタシは大体、三千ぐらいやったけど途中で上級が二人来やがったから数はそこ止まりだな。あいつらも命令が出たらさっさと退きやがった。アンタはどうだ、バァさん?」
大股を開いた姿勢で座りながら戦果を申告したリリーはウォルフジェンドに尋ねる。
「オレは千ぐらいか・・・人質を前におびき出してからは守りに徹したからな」
「なんだよ、張り合いがねぇな。アンタだったら一万ぐらい殺れんだろ」
「馬鹿か。雑魚を無駄に殺さねぇよ。それに・・・違和感もあったしな」
「違和感・・・?」
ウォルフジェンドの含みのある言葉にリリーは一瞬止まる。
「敵が弱すぎる。そう言いたいのだろう」
今日もっとも敵を多くの敵、五千人を斬ったサイガが口を開く。
ウォルフジェンドは「おう」と応える。
「前線に立ってる兵も、死んだ上級冒険者も軒並み弱ぇ連中ばっかだったのさ。とても勝つ気があるとは思えねぇ」
「同感ですわ。私、搦め手でかなり追い込まれましたけど実力だけなら、かなり格下だと感じましたの」
「ミコもだ。使ってた加護は気持ち悪いから戦いにくかったけど、強いって感じじゃなかったぞ」
リンとミコが対峙した上級冒険者の感想を語る。
二人は苦戦はしたものの、特性や手段によるものであり、単純な実力でいえば下であると実感していたのだ。
「負けても良し、勝てば儲け。ってところか?狙いがわかんねぇな。なんでだ?」
リリーがぼやき尋ねるようにウォルフジェンドを見る。
「・・・心当たりはあるんだが・・・あまり想像したくねぇな・・・」
ウォルフジェンドの顔が神妙だ。
「『神返しの法』。ですね」
チェイスが心中を察して声を発した。
「考えられるな。万単位の命を贄にして、封じられている神を使役しようってハラかもしれねぇ」
ウォルフジェンドの指摘に、一同の頭にレディム軍の有する五つの封印されし邪神が思い浮かぶ。
◆
神返しの法。
信仰の弱体、討伐、封印、浄化。
様々な理由によって力を失った神を、復活させ管理下におくことによって利用する術法。
神の領域を侵す、ほとんど下法に位置するため、扱いは禁忌とされている。
◆
「封印されている邪神は五つ。上級冒険者、高位の魔物、雑兵。質を問わない様々な命を贄にして神を顕現させるつもりかもしれません」
「やっぱその線が強ぇよな・・・」
チェイスの考えにウォルフジェンドが同調を示す。
「チェイス、レディムが神返しの法を画策しているとすれば、次にどう動くの?」
シフォンが問う。
「手順に従えば、依代となるモノをもっとも血の流れた場所へ置き儀式を行うことになりますが・・・そうなると・・・」
チェイスの言葉が詰まる。
「おれが多く敵を斬った場所か。敵陣の目の前だな」
サイガが戦果と戦場を振り返る。次元干渉装置による置換で送り込まれた先は、言葉どおりほぼ敵陣といっても良いぐらいレディム側に寄っていた。
「そうなると、神返しの法を妨害するのはかなり難易度が高そうね・・・チェイス、保護した人質たちの帰還を優先して」
シフォンが状況を考慮して命じる。
「かしこまりました。ドクターウィルによりますと、今回の置換の例から人質の転送に高い安全性が保てるとのことですので、朝にも中央都市への転送を行います」
チェイスが計画を述べると、シフォンは頷いた。
「さて、続いては・・・」
人質の扱いが決まり、議題が翌日の戦闘、神返しへの対策に移ろうとしたところ、シフォン軍の夜営地に警鐘の音が鳴り響いた。
全員に一斉に緊張が走り、戦闘態勢をとる。
「報告、夜襲です!レディム軍から魔物の群れが押し寄せてきています!」
兵士が駆け込んできて事態を伝えた。
「メイ、ナル、リン、ミコ、迎撃に出よ!チェイスとシャノンは状況の把握と防衛の強化。その他のものたちはチェイスの指示に従え!」
即座に判断したシフォンが指示を出す。全員が命に従って一斉に動き出した。
「サイガ殿お待ちください。サイガ殿は人質たちの警護をお願い致します。彼らを傷つけるわけにはいきません・・・」
飛び出そうとしたサイガをシフォンの声が引き止めた。
サイガは「承知した」と返して人質たちのところへと走った。
◆
「アマテラスフォーム!サンフラッシュ!」 シフォン軍陣営の上空へ急速で飛翔したメイがアマテラスフォームを発動させる。
炎の羽衣に身を包むと、自身を太陽のように発光させて自軍の視界を確保した。
「ナル、リン!この技、使ってる間は私動けないから戦闘は任せるわ!」
「ああ、お前はそこで見ているだけでいい!」
「安心なさい。すぐに終わらせるから。いくわよ、ナル、援護お願い!」
六姫聖の級友三人は言葉を交わす、それぞれの役割を果たすために動き出した。
◆
北方、レディム軍から足音を響かせながらシフォン軍を目指す邪悪な一団がいる。
上級冒険者『マッドブリーダー・ヴォレッド』によって産み出された、人間と魔物による合成改造魔獣の軍団だ。
種類や大きさは様々だが、その大半は大型魔獣を基礎としたもので構成されている。
上半身は人間、下半身は獣。交配、縫合、合体、改造など、手段は問わず強制的に産み出された負の産物なのだ。
改造魔獣軍団の先頭、巨人の上半身に下半身に大型鰐の身体が縫い付けられた改造人間の背に腕組みで直立する一人の女がいる。
上級冒険者『ブルドーザー・ビル』。破壊、暴力、狂気。国内ではリリーやリンに次ぐほどの悪名で知られる女戦士だ。
「おらおらぁ!てめぇら止まるんじゃねぇぞぉ!このまま敵陣に突っ込んで踏み潰して皆殺しにしちまえぇぇぇ!」
ビルは大声を張り上げ改造魔獣たちを焚き付ける。
◆
ブルドーザー・ビルは悪鬼の血を引く魔属の末裔だ。
姿に数世代前に人間と交わった悪鬼の特徴を残し、背は高く肌は褐色。筋骨粒々の体躯と鋭い牙。獰猛な闘争本能は氾濫した川の水のように垂れ流され、血と闘争を求める。
有り余る獰猛性と暴力性で、ビルは冒険者としての成績は決して良いものとは言えない。だがそれでも上級という立場でいられるのは、ビルを一員として加えることで魔物の討伐率が大幅に向上することにある。
この事に関しては、自他共に『馬鹿とハサミは使いよう』と大いに笑っているが、事の現実はそれどころではない。
ビルは初級、中級の頃から圧倒的格上の魔物討伐を繰り返しており、そこには神獣から堕ちたモノや高位のモノも多数含まれている。
その戦果の見事さが、ビルを上級たらしめているのだ。
◆
ブルドーザー・ビルの進撃。
これは、レディム軍の攻撃が本腰のはいったものであり、昼の攻勢とは一線を画するものであることを物語っていた。
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