第389話 「形勢逆転。六姫聖怒りの大反撃!」(バトル)
シフォンの喝声によって意識を取り戻したミコとリン。
二人は立ち直ると、すぐさま対していた上級冒険者を下した。それだけシフォンの声の効果と本来の戦闘力の差は圧倒的だった。
そしてそれは、ナルとメイも同様。
空将鷹の機動性の高さに優勢を許したナルだったが、シフォンの声を受けて気を持ち直すと、新たな氷魔法を発動させた。
空将鷹の身体に糸状の氷が網のようになり絡み付き始めた。
『凍羅印殺』(とうらいんさつ)。
氷の糸を紡ぐことで鳥を捕らえる網『羅』作り上げ、敵を絡めて凍死させる術法だ。
「きょああああ!」
「ぅあぁあぁあぁ・・・」
鳥の口と人間の口が同時に苦悶の声をあげる。
「苦しいか?やはり鳥には網が似合いだ」
凍りついた手が放され、ナルは距離をとった。すかさず決着の段に入る。
「一時とはいえ、私に攻撃を浴びせられたことを名誉に地獄に落ちろ!『羅・完』!」
絡み付いていた羅から内側に向かって一気に冷気が流れ込み、空将鷹の血肉を凍らせ命を奪った。
二重の悲鳴を徐々に先細らせ、改造空将鷹は地に落ちていった。
◆
シフォンの喝声の影響をもっとも強く受けたのはメイだった。
メイは自身の潜在的な魔力の制御を高めるために、出力を抑えるアクセサリーを五つ、首、両手首、両足首に装着して戦いに臨んでいた。
そして、アクセサリーによってもたらされた抑制率は約八割。それによって現在のメイは火力が極端に低下しており、正確な魔力操作が求められている。
そんなメイに、シフォンによって明らかな、大きな変化が起こった。
これまでメイの炎の形は、単純な炎そのものだった。だが、今、それは噴出口である両手で種火のようにくすぶっている。
それは、メイの心理の投影された形だった。
「ふふ・・・怒られちゃった。偉そうに守ってやってるって顔してたけど、そんな心配いらなかったね。あの娘だって成長してる・・・私も先に進まなきゃ・・・!」
穏やかに微笑むメイ。炎はその心中そのものだった。
「ふぅぅぅぅぅ・・・はぁっ!」
襲い来る複数の空将鷹の攻撃をしのぎつつ、メイは深呼吸で心身を整えた。
種火のようだった右手の炎が激しく燃え盛る。だがそれは無秩序な形ではない。まるで武装のように剣のような形をとる。
『クリカラブレード』。メイの魔力の熱を剣状に凝縮させたもので、触れたものを圧倒的な熱で切断する。その色はサイガの魔法剣以上の温度を表す青だった。
「キャアアアアアア!」
空将鷹がいきり立った鳴き声をあげる。変化したメイの雰囲気にあてられたのだ。
取り付けられた人間の二本の腕を前に突き出し、空将鷹がメイに急接近する。
「たりゃあ!」
空将鷹にむかって、メイがクリカラブレードを振った。
青い斬撃が一直線に伸び、超高温が空将鷹を縦に両断する。切断面は一瞬で焼かれ、血の一滴も落ちなかった。
「熱くない・・・熱を内側に封じきれてる。精度が上がってる・・・」
メイが右手の青い刃を見る。これまでのメイの炎は発動させる度に周囲に高熱を撒き散らしていたが、炎の刃とそこから放たれた斬撃から攻撃のため以外の余計な熱を感じなかったのだ。これは明確な成長だった。
成長したメイの魔力は、魔物の本能に作用した。
本能的に恐れを抱いた二羽の空将鷹は踵を返しメイに背を向ける。
「さんざん好き勝手やって、逃がすわきゃないでしょ!」
メイは逃げる空将鷹にクリカラブレードを向ける。
「クリカラ・ヴァニッシュ・ロード!」
青い炎が遠方に伸びて消滅の道を作った。
直線で逃走を図った空将鷹はその線上にのまれる。
一瞬、稲光のような青い光が走り、二羽の空将鷹は炭となって空に散った。
魔炎メイ・カルナックはこの日、完成への一歩を進めた。
◆
「どうやら、四人とも危機を脱したようですね。・・・まったくヒヤヒヤさせてくれます」
シフォン軍本陣。総大将であるシフォンの傍らで、六姫聖たちの逆転劇を見届けたチェイスは胸を撫で下ろす。
「もうっ!すっごい心配しちゃった・・・絶対みんな油断してたでしょ。バカ!」
六姫聖に闘魂注入する一仕事を終えたシフォンが、椅子に深く腰を下ろして、深くため息をつく。
「あの娘たちは緩急に差がありすぎて、戦果にムラが目立ちますので、これぐらい苦戦すれば良い薬になります。姫様がお気になさる必要はございません」
主の喉を潤すためにハチミツを加えられた紅茶を出しながら、同じ六姫聖のシャノン・ブルーは二つ名の『黒聖母』らしく手厳しい言葉を口にする。
シフォンは加護を有する。
それはルゼリオ王国で唯一、シフォンのみの加護で、先の事態のように臣下に力を与える効果がある。
しかし効果が高い反面、消耗も激しく、一度の発動で数時間分の疲労が一気に押し寄せてくるのだ。
「姫様、しばしお休みください。今の六姫聖なら、敵がサイガ殿でもない限り遅れをとることも無いでしょう。シャノン、警護を頼めるか?」
「ええ、わかったわ。後は任せるわね。さ、姫、テントへ参りましょう」
そうして、シフォンはシャノンに連れられて後方へ消えた。
◆
六姫聖がそれぞれの相対する敵を下したのと同じ頃、シフォン軍の陣営に歓声が沸き起こった。人質全員の救出が確認されたのだ。
これによって、レディム軍の優位性は失われた。
レディム軍後方、戦場全体を見渡せる小高い丘の上。押し込まれる戦線を、総代将である特級冒険者レディム・ルーグストンは見下ろしていた。
「ありゃりゃ、まずいね。上級の連中も兵もかなりやられているよ。リリーやウォルフジェンドもかなりだけど、あのサイガってやつは桁違いだね」
戦況を双眼鏡で眺めながら、レディムは他人事のように呟いた。
レディムの言葉通り、戦況は劣勢だった。
高額の報酬で雇った上級冒険者は二十人中七人が命を落とし、さらに前線で戦う異常な戦闘力のサイガたちによって兵は一万人近くが散っていた。
レディム軍の数は総数七万に対して一万を失い、シフォン軍は二万のうち被害は千人にとどまっている。
割合で言えば、圧倒的な損害がでているのだ。
「よし、今日はこれまでだな。退こう」
あっさりとレディムは決断を下した。まるで興味を無くしたおもちゃを捨てるような態度だった。
「おおい、ルルララ、撤退だ。全速力で帰ってこい」
通信用の魔法珠に語りかけると、その先からは動揺したルルララの声が響く。
「落ち着きな。解るだろ惨敗だよ。これ以上上級の連中に被害を出さないように帰ってきなさい。あと、戻ったらお仕置きだから覚悟しておきなさい」
穏やかだが冷ややかな口調。魔法珠の向こうでルルララは声を震わせながら返事をした。
「使い捨てとはいえ、たった一回でずいぶんな損害になりましたね」
通信を終えたレディムの後方から、『奴隷の王スペルカイン』が語りかけてきた。隣には『人道魔王ズィィム』が立つ。
「なぁに想定内ですよ。それでも予定の量にはまだまだ足りませんがね。ふふふ・・・」
思惑を臭わせながら、レディムは不敵に笑う。
こうして一日目の戦いは幕を閉じた。
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