第388話 「乱れる戦場。シフォン、激震の大喝声」(バトル)
「リンもミコをなにをやってるんだ?このままでは戦線が崩壊するぞ!」
シフォン軍本陣上空、空の守りを受け持つナルは仲間の醜態に強く歯噛みした。
六姫聖の中で、ナルとメイは高い飛行能力を有する。
そのため上空に配されているのだが、位置の都合上戦場の動きの俯瞰が可能となる。
二人は持ち場を離れることが出来ないまま、臍を噛む思いで事態を見ていなければならなかった。
「ナルごめん、私、一瞬だけ動くわ。プロミネンス・ソーサー!」
たまりかねたメイが灼熱の小型円盤『プロミネンス・ソーサー』を発動させた。
六枚。空を裂く音を響かせてソーサーがメイの周りを舞う。
「リン、今すぐ助けてやるから。行け・・・」
「待て、メイ!前だ。なにか来るぞ!」
攻撃を実行しようとしたところで、ナルの声が動きを制する。
言われたまま攻撃を中断し前を見ると、前方から二つの影が急接近してきた。
「あの速度・・・『空将鷹』か!『交絡霜柱』(こうかくそうちゅう)!」
接近する影を高位の魔物である空将鷹であると判断したナルが、幾重にも交差させた霜柱の防御氷壁『交絡霜柱』を前方に発動させて守りに徹する。
空将鷹は空の覇者と呼ばれる。その由来は、何百年も前からあらゆる鳥系魔物を体格の大小を問わず補食対象とし、狡猾獰猛に狙い仕留め、それを繰り返すことでついには頂点に到達した。
空の覇者は空を自在に駆け回る。
眼前に展開されたナルの交絡霜柱を空将鷹は激突の直前で急速に迂回し、上方からナルへ嘴を向けて突進してきた。
「な、速すぎる!?」
空将鷹は高速移動を得意とするということは、その名を知るものなら常識だ。
だが、この個体はその常識を大きく上回る速度でナルに迫ってきたのだ。
「ききゃあああああ!」
大きく翼を広げ奇声をあげながら、空将鷹は空中でナルに覆い被さる。全幅は三メートルに及ぶ。
襲われたその時、ナルは目を疑った。大きく広がって被せられた翼の内側から二本の人間の腕が伸び、ナルの肩を掴んできたのだ。
「腕だと?こいつ、改造されているのか?」
異形の魔物の風貌から、ナルは空将鷹に手が加えられていることを察した。それと同時に、知識経験として持っている空将鷹への対処法が泡沫となることも。
「それなら、腕から凍らせてやる・・・」
掴まれた肩を伝い、空将鷹の人間の腕を冷気が包む。
だが、改造された空将鷹はその範囲を腕だけにとどめない。大きく口を開くと、その中から人間の顔が現れた。顔に生気は無く、腕同様、武装であるのは明らかだった。
生気の無い顔が口を開けた。
不気味な挙動に、ナルの背に冷や汗が流れた。
「きゃああああ!!」
開かれた口から高く鋭く、つんざくような声が発せられた。まるで発狂したような声だった。
声を浴びせられたナルの全身に、棘で刺されたような刺激が走る。
「あ!ぁあああ・・・」
身体が痺れ、大きくのけぞる。
空将鷹が放った攻撃の名は『呪響』。
深い負の感情と魔力を声に乗せて叩きつける、本来は使えない、人間と合成させられたことで身につけた技だ。
呪響によってナルが高度を落としたが、肩を掴んだ両手が強引に引き上げ、再度呪響を浴びせる。
「きょああああ!」
「うあぁぁぁ!こ、これは、普通の魔法や技じゃない。呪術の類いだ・・・身体を蝕まれる・・・」
通常の物理、魔法攻撃なら高度の艶をほこるナルの髪と肌がそらす。だが、呪術となればそれを通り越し内部へと魔手を進めてくるのだ。
「ナル!あんた、そんなんにやられてんじゃないわよ!スザクビーツ!」
窮地のナルを救うため、メイが炎の嘴『スザクビーツ』を指先から発射した。
しかし、高速で飛来し間に割って入った新たな空将鷹が代わりに受けて地に落ちる。
「はぁ?なによそれ?!だったら、プロミネンス・・・」
速射性よりも火力に重きを置き、メイはプロミネンス・ソーサーを操った。
だが、またしても飛来した新たな三羽の空将鷹が、その身にソーサーを受けつつメイに特攻を行う。
「こいつら、また邪魔して・・・ぐはっ!」
空将鷹が頭からメイの腹部に突っ込んだ。後方に弾き飛ばされる。
「くそ・・・速い・・・ぎゃん!」
さらに後方から迫った空将鷹が背を叩き跳ねあげる。
「痛ったぁ!カカ・ウォールがなかったら骨ごとやられてた・・・まずい・・・速すぎて、火力を抑えたままじゃ対応できない・・・」
複数の空将鷹の絶え間ない連撃によって、メイは追い詰められる。ここで、ドクターウィル製の魔力抑制装置が枷となっていた。
暴走し制御を失うミコ。
薬物によって、せん妄状態のまま心臓を弄ばれるリン。
空将鷹に一方的な窮地に追い込まれるナルとメイ。
六姫聖の四人はレディム軍の猛攻によって、すでに戦闘の体をなさないほどに追い詰められていた。
「気を保ちなさい!!」
気高く、凛とした声が戦場を一瞬で支配した。
その声に六姫聖の四人が反応を見せる。
声の主、それは、六姫聖の主でもあるシフォン・マ・ルゼリオのものだったのだ。
「戦士たちよ、そのような小さき者共に手をこまねくとは何事か!お前たちは我、シフォン・マ・ルゼリオに仕える気高き六姫聖であろう!」
シフォンの声は怒鳴るような声ではないが、ビリビリと身体と心を叩く。
その一言一言に六姫聖の面々は心を焚き付けられる。
「誇り無き者、下賎なる者共に揺れ動かされるな!奮い立て!立ち向かえ!我に仕え戦う誉れを示せ!」
歴戦の将を思わせる迫力を孕むシフォンの喝声だった。
声を受けて、四人に変化が生じた。
ミコ。
駆け回る暴走状態から一転して、その場で立ち止まると、荒れていた気配が消えた。
そして「んなぁ~お」と低く鳴くと、一気に跳躍し、ホーリーマンに飛び掛かった。
対してホーリーマンが『威光』の加護を発動させたが、ミコは一切影響を受けること無く爪を閃かせ首を跳ねた。
シフォンの主としての喝声が強くミコを動かしたのだ。
リン。
声を浴びた直後、全身に力が漲る。
「な、なんだ・・・心臓が熱い・・・鼓動に押し返される・・・」
ホドヴィンが掴んでいたリンの心臓が爆発したように動き出した。握りつぶそうと力を込めても、全く歯が立たない。
「あなたたち、よくもやってくれましたわね。私にあんな辱しめを受けさせるなんて・・・絶対に殺してあげますわ!」
リンが薬物を振り払い自我を取り戻した。
覚醒も早々に、不埒者に抹殺を宣言すると、胸部に力を込める。
「ひ・・・う、腕が、抜けない」
筋肉が締まり、ホドヴィンの腕が拘束される。
「さて・・・」
変態的嗜好性が仇となり取り乱したホドヴィンの頭を、リンの大きな掌が掴む。
「ひ、ひぇええええ・・・」
「はぁ!」
掌を握ると、ホドヴィンの頭が潰れた。
下部に対して上部を半分以下の大きさに圧縮され、ホドウィンは呆気なく息絶えた。
「こ、この女・・・ふざけやがって、死ね!」
センティーズが首に回していた腕に力を込める。
しかし、リンの重厚な首の筋肉は一切の侵攻を許さない。
「無駄ですわ・・・よっ!」
リンが両手でセンティーズの頭を挟んだ。左右から強烈な圧がかかる。
「あああ・・・がが・・・ご・・・」
「くたばりなさい!おりゃ!」
重厚な掌に左右から圧迫されて、センティーズは頭部が圧潰し絶命した。
幻惑材の効果が消えてしまえば、呆気ない相手だった。
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