第386話 「イヤなアイツは一刀両断?ミコ・ミコ、くるくる大活躍!」(バトル)
サイガが二人の上級冒険者を葬る一方で、置換された人質への救出も行われる。
作戦を実行するのはリンとミコで、横一列に展開された人質たちの右端の待機位置についていた。
「ミコ、準備はよくって?」
「にゃん!」
リンが呼ぶと、ミコは元気に返事をした。
人質の身柄は転送されて即確保とはいかない。周囲に厳重に兵が配備されており、拘束されたままでは救出が困難なのだ。
そこでチェイスは、リンとミコの二人にしか出来ない作戦を考えた。それは・・・。
「はぁっ!」
待機位置から、リンが勢いよく飛び上がった。右手には玉のように丸まったミコを持っている。
「いっけぇぇぇぇ!どおりゃああああ!」
リンが渾身の力を込めてミコをボールのように投じた。向かう先は人質が縛られた十字架だ。
隊列右端、ミコたちにとって一番手前の十字架に達すると同時に、ミコが「にゃん!」と鳴いて聖具・獣撫の爪を走らせた。
三筋の鋭い斬撃。十字架はたちどころにバラバラとなり、人質が地に降りた。
「いまだ、突撃!人質を救え!」
人質が解き放たれた瞬間、シフォン軍の兵たちが突撃し、レディムの兵を制圧。救い出した。
そしてミコの活躍は続く。最初の十字架を足掛かりに、二つ三つと十字架を飛び渡り切り裂いていく。
「にゃ!にゃ!にゃ!」とミコが鳴く度、十字架が崩れ人質が降りて兵が詰め寄せる。これを三十回繰り返した頃、全ての人質の救出が完了した。
要した時間は約一分。超獣ミコ・ミコ、電光石火の働きだった。
人質全員を自軍に引き入れ終わると、シフォンの兵たちから歓声が上がる。
「すげぇ、あっという間に助けちまった。さすが六姫聖だ!」
「よぅし、俺たちもやるぞ!やれやれぇえええ!」
ミコの勇猛さに触発された兵たちが、置換されて来たレディム軍に襲いかかる。
置換、人質救出、襲撃と、瞬く間に劣勢に追い込まれたレディムの兵たちは、事態を完全に受け入れられないまま蹂躙されていく。
圧倒的に優位な展開だが、その立役者であるミコは入り乱れる両軍を睨んでいた。
「う゛う゛う゛~どこだ・・・強いの~、うなうなぁ~」
低く小さく唸りながら、鋭い動体視力と観察眼で一人一人の動きを見定める。
リンとミコはチェイスから伝えられていることがある。
それは、人質を扱うに際して全権を雑兵に委ねるとは考えられない。そのため、必ず指揮官の立場で上級冒険者が配されるということだった。
「雑兵ならメイが一掃できる。だが、上級冒険者は隙間をぬって姫に迫ったり、要所を抜く危険性がある。絶対に仕留めてくれ」と、チェイスは念入りに言ってきていた。
「おまえだ!みゃお!」
レディム軍の中、一人だけ動きの違う男を見つけて、ミコは跳びかかった。
男の動きは、周りの雑兵とは明らかに高度に一線を画していた。
男は笑っていた。優しく怪しい笑顔。アルカイックスマイルと言われる、仏像のような笑顔だ。
だが、それはどこか作り物のように無機質で人間味が無い。
そんな笑顔のまま、男は突き出される槍に向かって手をかざす。
すると、殺意をもって向けられたはずの穂先が別の者に向けられ、突き刺されるのだ。
加護、魔法、スキル。ミコはそのどれかを疑い、その瞬間には襲いかかっていた。本能がそうさせたのだ。
「おまえ、気持ち悪いぞ!死ね!にゃあ!」
ミコが獣撫を振り下ろした。三筋の斬撃が閃く。
「ぎゃあ!」
悲鳴があがった。だが、それは狙った男のものではなく、その隣にいたレディム軍の雑兵のものだった。
ミコの爪は、不気味な男から大きく逸れて別の敵を斬ったのだ。
「にゃ?外れた、ミコの攻撃が!?」
「いいえ、外れたのではありません。貴女は最初から私を狙えないのですよ」
一瞬動揺するミコに、優しい口調で語りかけてきたのは不気味な男だった。
笑顔が不気味なら声も得体の知れなさを孕む。
ミコは寒気がした。しかし不気味さの正体が加護であることを看破した。
「それ、加護だな。それでミコがおかしくなったんだ」
「おや、聡いお嬢さんだ。若いとはいえ六姫聖だけありますねぇ」
男は笑顔を崩さないまま話を続ける。
「私は『威光』の加護を持つ、人呼んでホーリーマン。お嬢さん、貴女の攻撃は私には決して届きません」
「ぶにゃ!?なんだそれ?馬鹿にするな!しゃあ!」
言われたことの意味はよくわからなかったが、とりあえずミコは跳びかかった。
「無駄です」
宣言どおり、ミコの攻撃は空を斬った。体勢が崩れたが、猫のバランス感覚で軽やかに着地する。
着地の瞬間、ミコの頭を重い衝撃が襲った。ホーリーマンの握るメイスが正面から打ち込まれたのだ。
「ぎゃん!」
破裂音のような悲鳴を上げてミコはのけぞった。たまらず痛みから逃れるように後方に飛び上がって距離をとる。
ミコは戸惑った。攻撃を感じることが出来なかったからだ。
野性的な感覚を持つミコは、敵意や殺意を直感的に察知し回避する。
しかし、ホーリーマンの攻撃はいつの間にかミコの額を叩いていた。
「みゃぁ?攻撃がわからなかった・・・なんだ、今の?」
「おや、細身のわりには頑丈ですね。顔面を砕くつもりで殴ったんですが、出血だけにとどめるとは」
メイスから血を滴らせながら、ホーリーマンは笑顔のまま感想を述べる。
「ぎにゃ・・・なんだこいつ、なんかイヤだ・・・」
「恐れることはありません、お嬢さん。それは、私の『威光』の加護により理性が畏れているのです。なにもおかしなことではありません」
「にゃ?理性が・・・おそれてる?」
「そうです。理性が畏れるからこそ、貴女は私に攻撃を当てることも、避けることも出来ない。威光を放つ上位の者の前で身体が強張るのは無理もないことです。つまり、理性が存在する人間である以上、貴女は決して私に勝てません」
「にゃ?勝てない?」
「そうです。ほら」
ホーリーマンが下からメイスを振り抜き、ミコの顔を叩く。
「ぎぅ!!」
宣言どおり、威光によって硬直したミコは無抵抗で受けることとなった。
再びミコは後方に跳び衝撃を逃がすが、左半面に直撃を受けて目蓋が腫れ上がる。
「にゃあ・・・痛い・・・気持ち悪い。こいつ、イヤだ。キライだ!」
ミコの人間の部分が、猫の部分を鈍らせる。調子を乱され、心と身体がモヤモヤになった。
「観念なさい、お嬢さん。人間であり理性がある限り、私には届かない。決して勝てない・・・さぁ、終わりにしましょう」
ホーリーマンが笑顔を強め、メイスを振り上げながらミコに向かって歩く。
「にゃあああああ!ヤダヤダヤダ、こいつイヤだ!理性じゃまーーーーー!もうミコ理性いらないーーーーい!にゃあああああ!」
モヤモヤをうまく処理できないミコが、イヤイヤと両手足を振り回しジタバタ暴れ始めた。
「もうやだぁみゃあああああああ!」
地団駄を踏むミコの足下に水溜まりが広がる。おもらしをしていた。
唐突なミコの行動に、ホーリーマンは思わず足を止める。
「な、なんですか・・・これは?」
「ぎにゃあああああ!」
激しい猫の咆哮を発すると、ミコの姿が消えた。次の瞬間、ミコはホーリーマンの後方のレディム軍の中に現れた。
同時に、兵たちの首が舞い上がる。一瞬で移動し一瞬で首をはねたのだ。
後方で聞こえた叫びを聞き、ホーリーマンが振り返る。
「い、いったい何が・・・ぬぅっ!」
ホーリーマンの右腕に激痛が走った。視線を向けると、握っているはずのメイスが前腕と共に足下に転がっていた。
「ひっ、な、なんで・・・」
冷や汗が全身から噴き出した。
腕を切り落としたのはミコだった。
我慢の限界を迎えたミコは失禁してしまい、トイレハイの暴走状態になってしまっていたのだ。
これは、心理や心に直接作用するホーリーマンの加護がミコの心に過度なストレスを与えたために起こった最悪の結果だった。
「にゃあああああ!もうやだ!死ね死ね死ね!みんな死んじゃえええええ!」
両手足の爪を振り回し暴れるミコ。一撃ごとに兵士たちの身体と命が失われ、瞬く間に地獄絵図と化していった。
◯上級冒険者ホーリーマン
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